我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(63)「気候変動・エネルギー問題」(28)「気候変動・エネルギー問題」(総括)〔後段〕

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我が国の未来を見通す(63)「気候変動・エネルギー問題」(28)「気候変動・エネルギー問題」(総括)〔後段〕

□はじめに

先週、連休を利用して島根県を訪問し、出雲大社を特別参拝させていただきました。私などが詳しく解説する必要はないと考えますが、ご案内いただいた禰宜(ねぎ)が神話に基づき解説してくれた大社の歴史は、地上界を支配すべきは天照大神(とその子孫)とし、地上を治めていた大国主命から話し合いによって(戦争することなく)国を譲り受けました。天照大神は、感謝の気持ちを込めて大国主命を祭神とする出雲大社を建設されたとのことでした。

私自身は、『逆説の日本史』(井沢元彦著)などで語られているような出雲大社の“いわれ”を知らないわけではありませんが、江戸時代の中ごろに再建されたとされる国宝の現本殿や神話時代から語り継がれている、東大寺の大仏殿を超える日本一の高さ48m、階段の長さが109mに及んだとされる初代本殿の威容などを知ると、禰宜の解説の方により納得がいきました。

大国主命は、今では広く「えんむすび」の神として人々に慕われていますが、この“縁”は男女の縁だけではなく、生きとし生けるものが共に豊かに栄えていくための貴い結びつきを指すそうで、我が国の悠久の歴史の中で、代々の祖先の歩みを常に見守られ、目に見えないご縁を結んでおられるのだそうです。

このように、(正確にはわからないそうですが)3000年に近い歴史が有する出雲大社の歩みをお聞きすると、その歴史はけっして“神話の世界”ではなく、我が国の「国づくり」の歴史、そしてこの間に出来あがった「国柄」、特に神話の時代から「和」を重んじる国であることなどが改めて理解できました。この精神がやがて聖徳太子の「十七条憲法」第1条「和を持って貴しとなす」として具現化されるのでした。

私自身はこれまで全国各地、数多くの神社仏閣を参拝させて頂く機会がありましたが、特に、淡路島の伊弉諾(いざなぎ)神宮、高千穂神社、伊勢神宮、宗像大社などにはそれぞれの神話があり、そのつど納得し、このような歴史を持つ日本に生まれたことに誇りと感じ、言いようもない幸せ感を味わった経験がありますが、今回はこれまでの経験に勝るものがありました。

終戦後、GHQの占領政策によって、我が国は、神話を教育することを含めて戦前の歴史を全否定されました。しかし、世界を見渡せば、神話を含めて国の生い立ちを教えない国はありません。ポツダム宣言には「日本が世界征服を企てた」となっており、我が国はこのような“汚名”を受け入れることを余儀なくされましたが、500年の長きにわたり、世界征服を企てたのは欧米列国であり、この流れに「待った」をかけた国こそが我が国でした。

その上、本来、「和」を尊ぶ我が国の国柄が語り継がれていた神話の中にも存在することをGHQのスタッフは身抜けなかったのでしょう。もしこのような我が国の本性を熟知していたら、あるいは日米開戦などは起こらなかったのでは、と想像してしまいます。

島根県には、国宝・松江城や日本一の庭園美術館「足立美術館」などもあって、あらためてこの地域の歴史や豊かさを堪能しましたが、島根県のみならず全国各地にその地域ならではの歴史や文化があります。天変地異など様々な混乱を経験しても、それらを残していただいた先人たちにあらためて感謝申し上げますと共に、今に生きる私たち世代もまた後世に残し、伝える責任があることに思いが至りました。

▼我が国のエネルギー政策の“落とし穴”

 

さて、最近の我が国は、気候変動・エネルギー問題のみならず、「国益」を一顧だにせず、というか「国益」という言葉自体も忘れ、国際社会、特に西欧列国に追随するとか、周辺諸国と謝罪することなどをもって“国是”としているような風潮があるような気がしてなりません。かつてのグローバル・スタンダードなどもその部類だったと考えます。

もちろん、戦前のように、「国際秩序への挑戦者」となることは許されないですが、戦前の“贖罪意識”が強過ぎるのか、様々な状況を冷静・沈着に判断して我が国が歩む道として最適の選択肢は何か、というプロセスそのものをスキップしているように思えてならないのです。そのようなことを何度も繰り返すと、「進むべき進路を誤った」とされる戦前と同じ結果になり、後々に禍根を残す可能性があることを危惧します。

これまでも「木を見て森を見ず」という言葉を使用しましたが、現在の我が国は、あらゆる分野で「専門家」と称される人たちが発言力を持ち、それゆえに、専門とする極めて狭い世界の事象に拘泥し、結果としてその考えに翻弄されているような気がしてなりません。各界に“森が見えない人たちがなんと多いことか“とつい思ってしまいます。

特に、気候変動問題においては、菅義偉内閣になって、突然「脱炭素」を宣言し、まさに「国益」やその実行の可能性より、国際社会追随の政策に転換したことはすでに紹介しました。当時から「エネルギーは安全保障最優先にすべき」との声もありましたが、様々な事情もあったのでしょうが、“見切り発車”しました。いったん舵を切ると、トランプ前大統領のような強いリーダーが出現しにくい我が国にあっては、軌道修正がますます困難になることは明白なのです。

また、「ブレーキをかけることを忘れた高齢者の運転のように」と表現しましたが、アクセルばかりを踏み込み、ついには「一石三鳥」のような勇ましいキャッチコピーまで飛び出しました。国を挙げた勇ましい政策には必ずその“副作用”があることを我が国は長い歴史の中で何度も経験しましたが、そのような歴史を学び、あるいは各方面からの警鐘を鳴らす発言に耳をそばだてるような感性は、首相をはじめ、政治家や官僚の皆様にはなさそうです。

政府が唱える政策に協力するのは当然としても、様々な思惑をもって「脱炭素」政策に便乗する人たちは、いったい全体、地球にとってCO2とは何なのか、本当に異常気象なのか、地球温暖化は進んでいるのか、それらの原因が人為的CO2の排出にあるのか、さらには、「脱炭素」は可能なのか、そのコストはどれほどかかるのか、CO2を削減することが地球にとって本当によいことなのか、その上で、自分たちのやろうとしていることは本当に日本のため、地球のためになるのか・・・などを考えたことがあるのでしょうか。

おそらくそのような思考は停止したまま、「政府が奨励しているから」「国連(あるいはIPCC)が言っていることだから」「皆、やっているから(やらないと取り残されるから)」と自らを納得させる・・・私の周りにもそのような人がたくさんおります。なかでも、金儲けの絶好の機会と野心的な思惑を持つ企業関係者にあっては、その真実の解明より「お金になるならなんでもよい」くらいの感覚なでしょう。

民主主義とは、誤解を顧みず話せば、主権者たる国民の大多数の支持があれば何でもできるし、何をやってもよい政治形態です。バラマキと言われようが刹那的と言われようが、支持率さえ確保できればよいと考える政治家が政策を断行し、その結果、主権者が喜べば、世の中は丸くおさまり、波風は立たないのです。

地球温暖化とは裏腹に、「100万年にわたる地球の気温推移の歴史をみると、人間の出すCO2などとは全く無関係に一定のリズムを刻んでいる」として、「実際の地球は寒冷化に向かっている」との考えを持つ人たちも少なくないですが、その寒冷化を防止するためは、温室効果ガスが必要不可欠であり、その主体はCO2になることでしょう。

何も考えずに「脱炭素」に協力していている人は、かつての氷河期のように地球上の生命体そのものを脅かすことに加担しているという考え方もできるのです。

▼実行の可能性とコスト意識

さて我が国は、中国などの発展途上国と比較して、先進国としてエネルギーを消費した歴史が古いことは間違いないですが、それでも1970年代に2度体験した石油ショックから立ち直るために、並々ならぬ“省エネ”努力を積み重ねてきました。その結果、実質GDP当たりのエネルギー消費は世界平均を大きく下回る水準を維持しており、インドや中国の5分の1から4分の1程度の少なさであり、最近、省エネが進んでいる欧州の主要国と比較しても遜色ない水準となっていることも紹介しました。

つまり、すでに省エネに取り組み、それをもって過度にCO2排出を排出しないという長い歴史があります。そして、生活空間からしても“ウサギ小屋”と揶揄されるようなつつましやかさも現存し、今となっては他国に誇るべきことですが、だからこそ、これから先、さらに省エネを推進し、CO2排出を削減することは至難の業だということもいえるでしょう。

これもすでに紹介したように、環境省の発表では、これまで国と地方自治体合わせて30兆円の経費を投入し、今後は税金で20兆円を投入して150兆円の投資を呼び込むと皮算用していますが、すでに省エネを推進し、CO2排出は地球全体の3%ほどに留まっている我が国にあっては、仮に2050年に「脱炭素」を実現したとしても、その効果は測定できないレベル(試算では0.0008℃度程度)にしかなりません。

最近、このような日本にあって、依然として現実的な“良心”を有している機関を発見しました。経済産業省系の研究機関といわれる「公益社団法人地球環境産業技術研究機構」(RITE)です。RITEはまず、「2030年にCO2を46%削減するためにGDP損失が30兆円発生する」として、20兆円の実質増税を含み、政府が考えるカーボンプライシングは「経済への足かせになる」と警鐘を鳴らします。

RITEはまた、「2050年に『脱炭素』を実現するためには、技術面やコスト、自然制約・社会的制約などの様々な面で課題や制約を乗り越えることが必要であるが、技術革新などの進展には大きな不確実性が存在するため、30年後の姿を具体的に見通すことは困難である」とし、さらに、電力分野のみならず非電力分野の技術を実装しない限り、「2050年の『脱炭素』は極めて困難である」と結論づけています。

この結言を導くために、RITEは電力構成について5つのシナリオを取り上げて検証していますが、なかでも再エネ100%のケースでは、電気料金が2倍になることも試算しています。

東京都は、情緒的な判断だけでその効果もろくに検証しないまま、都内の新築戸建住宅に太陽光パネルの設置を義務化し、そのための支援制度を新設するということが話題になりました。この支援のための経費は都民税から流用されることは間違いないでしょう。気候変動対策とか「脱炭素」を目的にすると、コスト意識が頭から離れてしまいがちですが、そのコストは最近話題の電気料金の値上げだけではなく、石油やガソリンなどの燃料代、そして所得税や地方税などにも含まれることも再認識する必要があるのです。

▼「脱炭素」と安全保障

さて、太陽光発電は国内の広大な土地を中国など外国資本が買いあさる格好の材料になっていることも指摘しました。最近、中国がアメリカ国内の農地を購入し、アメリカが警戒していることが話題になっていることも付け加えておきましょう。その面積は、現時点では1554haほどで、1位のカナダや2位のオランダなどには及ばず第18位、農地全体の0.9%に留まっているようですが、高い伸び率で農地が増えていることに加え、日本を含め、世界規模で農地を買いあさっていることもあって、アメリカ国内では余計に警戒感を増大させているようです。

再エネを推進しようとするとコストがかかる。コストを削減しようとすると中国製の太陽パネルを使用する必要がある、あるいは、太陽光発電のために中国資本を招へいする必要がある、招へいすればするほど、中国資本の森林や農地が増える、増えれば増えるほど安全保障上の問題に懸念が残る・・・。

上記のサイクルで何を優先すべきかは明らかなのですが、「脱炭素」以外に盲目になっている人たちには、国内の森林や農地が外国資本に買収されることに危機意識を持たないことが問題なのだと考えます。

前回、地球温暖化の提唱者たちの当初のシナリオが狂っているのではないか、と指摘しましたが、我が国にあっては、補助金付きで、中国資本を招き入れ、国内はおろか、中国の世界戦略に加担するようなことになるのだけは何としても避けたいものです。政府の早急な英断が求められると考えます。

私は、「脱炭素」などのような“絵空事”(あえてこう表現します)を根本から見直し、エネルギーの安定確保(しかもなるべく安価で)を最優先することを提言したいと考えますが、読者の皆様はどう考えるでしょうか。

▼まとめ

 

さて、本メルマガで取り上げました我が国の「少子高齢化問題」「農業・食料問題」「気候変動・エネルギー問題」には共通の要因があり、これらの問題を抜本的に解決するためには、それぞれ小手先ではなく、国家レベルの根本からの「改造」が必要と考えます。それらは、国防とか防災なども共通していることでしょう。

本メルマガ「我が国の未来を見通す」は、「我が国の歴史を振り返る」の後継として発信しているものですが、この後、本メルマガの総括として、我が国の歴史から学ぶ「知恵」を活かしながら、我が国の将来に立ちはだかるであろう“暗雲”にいかに立ち向かうか、について読者の皆様と一緒に考えていきたいと思います。

しばらく整理と充電の時間を頂いたのち、第4編「『強靭な国家』をつくる」(仮称)を題して、日本を守り抜き、日本の未来を創造するための様々な「知恵」について発信していきたいと計画しています。請うご期待!(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)