我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(36)「気候変動・エネルギー問題」(1)今なぜ「気候変動・エネルギー問題」なのか?

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我が国の未来を見通す(36)「気候変動・エネルギー問題」(1)今なぜ「気候変動・エネルギー問題」なのか?

□はじめに(最近の国内事象から)

 約1カ月ぶりにメルマガを再開します。国内は、安倍元首相の暗殺事件をきっかけにして、マスコミや野党の“矛先”が変わってしまったようです。

 昔から「政治家は落選すればただの人」といわれるように、政治家の先生方は、普段から「1票」でも多く集めるために、“その票が清いか否かは別にして”死に物狂いで駆け回ります。多少の“うさん臭さ”には目をつぶり、票を入れてくれる人や組織に近づき、“おべんちゃら”の一つもぶち上げることは政治を志そうする人は皆、体験していることでしょう。

 何度も取り上げましたが、イギリスの歴史家トーマス・カーライルの「この国民にしてこの政府あり」という言葉が再び胸に刺さります。名前は失念しましたが、だれかが「政治家は自分より馬鹿な人間に馬鹿だと言われる仕事だから、政治家にはなるな!」との祖父の言葉を引用して文章を書いていたことを思い出します。

選ぶ側のレベル以上の政治家が輩出されることはなく、その延長で政府もそのレベルに留まるということでしょう。それが民主主義の本質であり、我が国は、戦後、この制度を“最適な制度”として選択したのです(選択させられたというのが真実かも知れませんが)。

正直申し上げますと、私自身は、この問題に全く関心がありません。某女性政治家が「生産性がない」という“事実”を発言しただけで大炎上しましたが、これなども同じレベルの問題と思います。このように断言するのは、我が国が直面している、あるいは将来直面するであろう問題に比べれば、あまりに矮小な問題と考えるからです。このようなことに“かまけている”余裕はないはずなのです。

民主主義国家と権威主義国家のどちらが国の意思決定プロセスが単純でかつ容易かと問えば、明らかに権威主義国家でしょう。国内の様々な事象に“知らぬふり”はできないのでしょうが、為政者と違った意見を汲み取ることなどに“かまける”必要はないからです。執拗な世論調査もありません。権威主義国家は、様々な知恵(謀略というべきか)を働かせながら即断即決、即行動を起こすことができるのです。我が国の周辺には、このような国家が複数存在します。

我が国の伝統ともいうべき「空気の支配」というべきか国民的熱病というべきか、(その意図までは見抜けず)マスコミに左右される一般の国民は仕方ないとしても、国の舵取りを負託されている政治家にあっては、「民主主義国家対権威主義国家」の対立といわれる昨今の事象などを含め、ぜひ大局的な判断に立って、国の舵取りをしてほしいと心より願っております。

その対立は、外交や軍事や経済だけではありません。今回から取り上げる気候変動やエネルギー問題などにまで及んでいます。詳しくは後述しますが、国際社会をおおむね2分している対立構図の中でこの種の問題も考察しないと、とんでもない方向に向かう可能性があります。いや、すでに向かっているのかも知れません。

最近の欧米列国のあいつぐ政権交代、あるいはその技量が未知数のリーダーの出現などをみるに、我が国のみならず、民主主義国家の“かまけ”は共通しています。これが最大の弱点ともいえるでしょうし、このような状態が続くことは、逆の立場からみれば願ってもないことで、“思うまま”になる可能性さえあります。

そうはいっても、あまりに盤石で過剰な体制をもって真正面から対立すると、新たな軋轢が生まれ、「窮鼠猫を噛む」のような状態が発生する可能性もあるでしょう。今も続く「ウクライナ戦争」はそのような“悪夢”が現実のものになった事象として様々な教訓を教えてくれました。

「権威主義国家」がこの世からなくなることはないという前提のもと、また過去に失敗したように、「やがて民主主義国家に近づいてくるだろう」などとの幻想はきっぱり捨て、「あらゆる局面で、緊張し合いながらもいかに共存していくか」が問われているのだと思います。そのためには、“あらんかぎりの知恵”が必要なことは言うまでもありません。

今は、トーマス・カーライルの言葉を覆す、つまり、国民から選ばれながらも、並の国民などがはるかに及ばない知恵や実行力を有するリーダーの出現が待望されているものと考えます。そのようなリーダーを今から見つけ、育てるのは至難の業でしょう。だれかが「君子豹変」することをひたすら祈り続けている昨今です。

▼「気候変動・エネルギー問題」を考える

 さて、今回から「我が国の未来を見通す」の第3編として「気候変動・エネルギー問題」を取り上げます。9月2日現在、不思議な動きをしながら発達している台風11号が沖縄を襲うとしています。大事に至らないことを祈るばかりですが、これも「異常気象」の一現象と解説され、その原因もまた「気候変動」の一言で片づけられています。

 元自衛官の私は、当然ながら気候変動のような問題についても専門家でありません。この問題に関しては、「京都議定書」(1997年)や「パリ協定」(2015年)など、国際的な地球温暖化対策については関心を持ってニュースを観ていましたが、それでもつい数年前まで、平均的な読者の皆様とほぼ同様の知識しか持ち合わせていなかったと思っています。

 その頃だったでしょうか、書店にひんぱんに出入りしていますと、店頭に平積みされている気候変動やエネルギーに関する書籍が目につくようになってきました。その中で、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツの『地球の未来のために僕が決断したこと』が目に止まり、購入して読破したのが、この問題に強く関心を持つきっかけになりました。

実は、その時は気候変動問題というよりも、「ビル・ゲイツのような人物がなぜこのようなタイトルの本を書いたのだろう?」という興味から手に取ったことをよく覚えています。本書は、私の事前の予想とは全く違い、「このまま放置すれば人類が地球に住めなくなる、何とかしたい」との視点で書かれており、大変ショックを受けました。

次に、ビル・ゲイツの指摘そのままの書籍名『地球に住めなくなる日』(デイビット・ウオレス・ウェルズ著〔米国人ジャーナリスト〕)を見つけました。そこには「2050年まで100都市以上が浸水し、数億人が貧困にあえぐ」とありました。

そして、順番が逆になりましたが、環境問題や気候変動問題が米国内で関心を持たれるきっかけとなったといわれるアル・ゴア元副大統領の『不都合な真実』に目を通す機会を得ました。本書は、写真やイラストを満載してビジュアルで訴える工夫がしてあり、まさに「無視をするには不都合な真実」がたくさん描かれ、とても説得力がありました。

この辺までの私は、まさに、①地球温暖化が進んでいる、②このまま放置すれば人類は地球に住めなくなる、②その原因は人類が創り出している二酸化炭素(以下、CO2と記載)である。よって、③地球を救うためには、CO2の削減、つまり脱炭素政策を推進しなければならない、という「流れ」に何の疑いを持たないまま、ことの重大性に自分なりの問題意識を持つようになっていました。

一方、そのような米国にあって、トランプ前大統領は、地球温暖化に懐疑的で、「アメリカの製造業の競争力を削ぐために中国によって中国のために作り出された」といかにもトランプ氏らしい主張を繰り返し、2017年に「パリ協定」から離脱意向を表明、19年に正式に離脱しました。

このあたりからでしょうか、なぜ「トランプ大統領は懐疑的なのだろうか、別な見方(分析)があるのだろうか?」と地球温暖化のこれまでの主張に疑問を持ち始め、持ち前の“好奇心”が頭をもたげて、「気候変動問題の真実」を掘り下げて研鑽する必要を感じ始めました。

そして丹念に様々な書籍を読み、そこに記載されているデータを比較分析しているうちに、将来の気候変動を警告する側の論点とは全く正反対の見方があることもわかりました。その立場からすれば、国連の下部組織で、今や気候変動に関して最強の権威を保持し、人類をリードしているような「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」の見解にも懐疑心を持たざるを得ないことも、素人ながら知ることとなりました。

そして、今年2月には「ウクライナ戦争」が勃発しました。その戦争が原因となって原油や天然ガスが急騰、世界のエネルギー秩序が崩壊し、「エネルギー戦争」がエスカレートしていることが話題になりました。この余波が、“資源を持たざる国”日本に襲いかかれば、その影響は甚大なものがあることは明白でしょう。

また、我が国においては、東日本大震災の影響でやがてほとんど稼働しなくなる原子力発電所の問題や再生エネルギーの限界などもあり、一口に「脱炭素政策」と唱えてもその実現には様々な問題があること、さらには、少子化・過疎化が進展することから、エネルギー問題には新たな問題が生起する可能性があることもわかりました。

これまで、本シリーズで取り上げた「少子高齢化問題」や「農業・食料問題」は国内問題でした。しかし、「気候変動・エネルギー問題」は地球規模、つまり国際社会と一緒になってその対応策を考えなければならない問題です。しかし、我が国独自の要因から、より複雑で、かつ難しさも倍加する可能性がありますし、この問題には、政治的・経済的・外交的な要因、つまり各国の「国益」が複雑にからんでいることも明らかです。

素人ゆえに限界もありますが、素人なるがゆえにあらゆる“拘(こだわ)り”を捨てて、より客観的で幅広い角度からこの問題の本質をあぶりだしたいと考えております。読者の皆様にはしばらくお付き合いいただきますようお願い申し上げます。

▼分析の手順

 本問題の分析は、私が辿ったプロセスと同じ手順で展開して行こうと考えております。

まず、「地球温暖化が進展している」とのデータを明らかにして、その結果、地球上にいかなる影響を及ぼすか、これまであまり関心がなかった読者の皆様に、その“すさまじさ”を紹介しましょう。そして、その原因こそが、産業革命以来の人類の諸活動によって生み出された、CO2を主にする「温室効果ガス」の増加がその原因であるとする説を紹介しましょう。その結果、地球を救うためには、CO2の削減、できれば「CO2排出ゼロ」が望ましく、国際社会を挙げて「脱炭素化」が必要であるという考え、そのために現在取り組まれている様々な方策などについて紹介します。

次に、「地球の温暖化は人間の活動と関係ない」とする見方とその根拠を取り上げます。概略を紹介すれば、人類が地球に住み始めるだいぶ前の約5億年前までさかのぼれば、地球は温暖化と寒冷化を繰り返してきました。私たちも「氷河期」という言葉を習いましたが、地球温暖化は、そのサイクルの延長にしか過ぎないとの考え方です。「CO2の増加が地球の温暖化を促進した」という考え方とは逆の「地球の温暖化がCO2の増加に拍車をかけた」との分析も興味深いものがあります。

「CO2は一度作り出されるとその5分の1は、1万年後も残っている」との分析もありますが、この説からすると、仮に、地球温暖化の主要因がCO2であり、2050年頃まで「CO2排出ゼロ」を実現しても、その効果がどれほどのものなのか、などの分析も紹介することにしましょう。

私自身は、現段階ではどちらの説が正しいのか、実際にはよくわかりません。しかし、両論を知ってしまった現在、「地球温暖化はCO2が原因で、脱炭素化を推進しなければならない」との考えを本当に“鵜呑みにしていいのか”とか、CO2排出ゼロに向かって人類がやらなければならないことやその可能性などについて疑問を持ち始めていることは間違いありません。

少なくとも、国連をはじめ、そのCO2排出ゼロを主張する側が、その逆の立場の意見をどのように理解し、さらに自説が正しいとするならそれを覆す更なる根拠(データ)を示す必要があると思うのですが、私自身は見つけることができませんでした。その結果として、先にこぶしを挙げてしまった手前、逆に「不都合な真実」になってはいないかと疑う部分も残ってしまのです。

これらについては、読者の皆様に一緒を考えて行きたいと思いますが、我が国が脱炭素政策を推進していくと、国内産業は衰退し、国力が低下することは様々なデータから明白です。逆に脱炭素の目標を数十年先にずらしたことによって、しばらくの間、我が国の削減量より何十倍ものCO2を排出し、国力が増大する中国のような国もあります。このあたりも総合的に考える必要があると考えます。

そのような視点も踏まえて、後半はエネルギー問題を分析しようと計画しています。まず、世界のエネルギー問題に関する現状と将来について分析したのち、我が国のエネルギー問題の現状と将来を分析します。ここにこそ、わが国独自の極めて悩ましい問題が内在しています。しかし、我が国のリーダーが決断さえすれば、一歩踏み出すことができる技術を保有していることも事実です。

これらを含め、「気候変動」という地球規模の問題も、一歩間違えば我が国の存亡を左右する問題との認識に立ってしっかり分析したいと考えますし、ウクライナ戦争以降、取り巻く環境が全く変わったなかで、我が国のエネルギー政策はどうあるべきかについても考えて行きたいと思います。展開如何によっては、若干の軌道修正があるかも知れませんが、概略このような流れで「気候変動・エネルギー問題」を進めて参ります。ぜひ一緒に考えて行きましょう。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)