我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(18) 少子高齢化問題(最終回) 「人口減」を回避する施策の有無(その2)─日本は「多民族国家」を受け入れられるか─ 

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我が国の未来を見通す(18) 少子高齢化問題(最終回) 「人口減」を回避する施策の有無(その2)─日本は「多民族国家」を受け入れられるか─ 

□はじめに

 ウクライナ情勢は、いまだその最終的な帰趨は不明ですが、悲惨な殺戮の繰り返しと、同時並行的に停戦に向かってロシアが態度を軟化してきたとの報道が出始めたのは少し前進でしょう。

 18日現在の報道によれば「15項目の合意案」が調整されているとのことですが、これまでの「反NATO」「非軍事化」などプーチンの一方的な主張に代わり、「ロシア語の公用語指定」「ウクライナ軍の維持」「ロシアの撤退」などと少し“妥協”の兆しが見え始めました。しかし本当に合意に至るかどうかはここからが正念場でしょう。

その訳は、ここに至るまでに両国が失ったものはあまりにも大きいからです。ウクライナは何と言っても国土の侵攻を受け、子供を含む多数の尊い人命が失われ、社会的インフラが無残に破壊されたことですが、ロシアの代償も決して小さくないでしょう。

プーチンは今や「戦争犯罪人」とか「人殺しの独裁者」と呼ばれ、ロシア自体もまもなくデフォルトが予測されるなど、あらゆる分野で後戻りできないレベルまで国際社会から“つまはじき”され、その状態が今後も長く続く公算が大なので、国家としての衰退は避けられないでしょう。

 何とも代償の大きいウクライナ侵攻になったものだとだれもが考えますが、現時点のプーチンの“胸の内”を覗いてみたい衝動にかられます。すべての始まりはドネツク州の「ロシア人への迫害」をでっちあげたことから始まりました。

 これに対して、ウクライナ研究家の神戸学院大教授の岡部芳彦氏が産経新聞紙上で「これまでドネツクを計16回訪れたが、『私はロシア人だ』という人に会ったことがない」として「『妄想の歴史観』が始めた侵略」と批判していることを紹介しておきましょう。

哲学者のヘーゲルは「我々が歴史から学ぶことは、人間は決して歴史から学ばないということだ」との名言を残していますが、改めて今回のような「現実」が将来も起きる可能性があることを前提に、さらにそれをいかに未然防止するかを柱に、国家そして国際社会を運営することが求められているものと私は考えます。

▼外国人に対する「拒否反応」の有無

さて、前回の続きです。少し長くなりますが、お付き合いください。

「少子高齢化」の日本は、長期的に見れば、外国人労働者を含めてさまざまな分野で労働力を確保しなければならない状況にあることは明白です。

国内には、先進国の一員として、またSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも短期の外国人労働者のみならず、移民や難民についてもっと門戸を開くべきとの前向きの意見がある一方で、政府が「移民政策」を大きく舵を切らない大きな要因の1つは、国民の意識に移民を受け入れることにある種の「拒否反応」を示しているからだともいわれています。

内閣府が2020年8月に実施した世論調査によると、「(外国人の)日本の永住者数が多いと思うか?」と回答は、「多いと思う」「どちらかといえば多いと思う」が計38.3%、「適当だと思う」が29.2%に対して、「少ないと思う」「どちらかといえば少ないと思う」が計18.6%だったことから、「現状程度より増加することには反対」との意見が多いと解釈できます。

また、「リサーチコム」という民間団体によるシニア層を対象にした世論調査(2018年3月)によると、「移民制度の成功には何が最も大事と思うか?」の問いに対する回答は、(1)「日本語や日本文化の教育」33.8%、(2)「双方の感情的な友愛、相互理解」26.6%、(3)「社会福祉の確立」15.8%、そして、「資格や学歴など移民受け入れ条件の整備」、「勤労者としての能力の開発」と続きます。

 つまり、同じ「人間」として、「基本となる日本人の文化や考え方を理解してもらい、また相手国の国民性も理解した上で、感情的な友愛が芽生えて来れば、きっと上手くいく」。そんなシニア層の将来の希望に満ちた気持ちが表れていると分析されています。

そして、「移民政策が日本にもたらす大きな効果」についての回答は、(1)「日本人の意識の国際化」28.7%、(2)「若手人材の確保」25.5%、(3)「異文化交流による新しいビジネスやサービスの発展」19.1%、④「世界の日本に対する評価の向上」15.7%、⑤「日本の若者の海外流出防止」11.1%と続きます。

「日本人の意識の国際化」がトップですが、その理由は、シニア層にとっては、グルーバリゼーションは実感が沸くリアルな現実だったこと、また「もはや日本一国の考え方だけでは世界と渡り合っていけない」との危機感や将来への展望が浮き彫りになっていると分析されています。

いつまでも短期の労働者だけを受け入れる政策は世界に認められるものではないという考えを持つ時代が到来した、つまり「少子高齢化」に対応するために、本格的な「移民政策」を考え、舵をきる時代になったことを理解すべきでしょうが、その可能性などについてはのちほど総括しましょう。

▼さらに厳しい「国籍」取得

 これまで「移民」について現状と将来方向を考えてきましたが、日本の「国籍」取得となるともっと難しい問題をはらんでいます。

まず、日本国籍の取得要件は、(1)出生、(2)届出、(3)帰化の3つだけです。いずれも一定の要件を満たした場合に日本国籍が付与されます。一方、我が国では、結婚によって国籍が与えられることはありません。

(1)「出生」によって国籍が与えられるのは、(1)出生の時に父又は母が日本国民であるとき、(2)出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき、(3)日本で生まれ、父母がともに不明のとき、又は無国籍のときのみです。

婚姻をしていない日本人父と外国人母との間に生まれた子については、母の胎内にいる間に日本人父から認知されている場合(胎児認知)には、出生によって日本国籍を取得できます。

 出産後に日本人父が認知した場合には、出生時に法律上の親子関があったことにはなりませんので、原則として、出生によっては日本国籍を取得できません。このような子が、父から認知された場合については、一定の要件を満たしていれば、法務大臣へ届け出ることによって日本国籍を取得することができます。

 この(2)「届出」については次の条件を満たす必要があります。(1)届出の時に20歳未満であること、(2)認知をした父が、子の出生の時に日本国民であること、(3)認知をした父が、届出の時に日本国民であること(認知をした父が死亡しているときは、その死亡の時に日本国民であったこと)、④日本国民であった者でないこと、です。

また(3)「帰化」とは、「日本国籍の取得を希望する外国人からの意思表示に対して、法務大臣が許可によって日本の国籍を与える制度です。ちなみに、「永住者」は、永住者として許可された後も国籍は変わらずに外国人のままですが、「帰化」は、外国の国籍を捨てて新たに日本国籍を取得することなので、「完全に日本人になる」ということになります。

その要件は、(1)引き続き5年以上日本に住所を有すること、(2)年齢が20歳以上であっても、本国の法律によって成人の年齢に達していること、(3)素行が善良であること(一般に、犯罪歴の有無や態様、納税状況や社会への迷惑の有無などを総合的に考慮して通常の人を基準として社会通念によって判断、審査される)、④自己または生計を一にする配偶者その他の親族の資産または技能によって生計を営むことができること、⑤無国籍であるか、原則として帰化によってそれまでの国籍を喪失すること、⑥日本の政府を暴力で破壊することを企てたり、主張するような者、あるいはそのような団体を結成したり、加入しているような者でないこと、などが挙げられています。

なお、「帰化」を申請するにあたっては、上記の要件以外にも日本語の能力も日本で生活する上での最低限のレベル(小学校低学年以上のレレベル)求められます。通常、審査には10か月から1年ほどかかるといわれます。

最近3年間の帰化者数は、法務省によれば令和元年8453人、令和2年9079人、令和3年8167人となっています。国別の帰化者数は例年固定されており、(1)韓国・朝鮮、(2)中国、(3)ブラジル、④ベトナム、⑤フィリピン、⑥ペルー、⑦バングラデシュ、⑧ロシア、⑨アメリカ、⑩スリランカの順です。

前回取り上げましたように、現在約41万6千人に及ぶ在留韓国人が滞在していますが、そのうちの「在日朝鮮人」(在日)について触れておきます。正式には、平成3年に制定された「日本国と平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」によって定められた「特別永住者」として分類されています。

終戦直後は約200万人の朝鮮人が居住していたとされますが、GHQ指令のよって約150万人は帰還しました。他方、戦後に不法入国した朝鮮人(韓国人)もおります。その後、さまざまな経緯を経て、3代目以降の永住許可を含む入管特例法としてこの「特別永住者」が定められたのでした。

現在、「特別永住者」は約32万1千人(約5万6千人の台湾人を含む)を数えますが、これまでの「在日」の帰化者の累計は約36万人以上といわれております。年々減少する傾向にありますが、しばらく帰化者が続くものと思われます。

一方、日本の国籍喪失者や国籍離脱者の合計は、平成29年1942人、平成30年2262人、令和元年2248人、令和2年1596人、令和3年2336人なっています。国籍の増減だけでみれば、現状では必ずしも「少子化」対策に著しく貢献しているわけではないといえるでしょう。

▼「多民族国家」を目指せるか?

さて、これらから「労働力不足」から「少子化」対策までを総括しますと、まずは(1)「外国人労働者」を増やし、その延長で我が国なりの「移民政策」を改善して、(2)「永住者」を増加させる。この「永住者」の定義を見なおすか否かも大きな判断要素ですが、最終的には(3)「日本国籍」を取得して日本人として定住してもらう、の3ステップを踏んではじめて本格的な「少子化」対策になると考えます。

国のあり様はさまざまですが、世界を見渡せば、我が国のような「単一民族国家」はごく少なく、多民族がその国の国籍を保有している「多民族国家」がはるかに多くなっています。

たとえば、多民族国家マレーシアは、その民族構成が66%のマレー系、26%の中国系(華僑)、8%のインド系(タミル人)のような多民族国家で、言語ばかりか年中行事、宗教、そして教育までも民族毎にわかれています。多民族化することによって、マレーシアは、周りのタイやシンガポールなどに比し平均出生率がかなり高いばかりか、公用語を英語と定めることによって、欧米人から人気がある国にもなっているようです。

また、話題のロシアに至っては、182の民族から成り立つ多民族国家です。そのうち、約80%はロシア人、ウクライナ人など東スラブ系民族、テュルク系民族が約9%、コーカサス系が約4%、ウラル系が約2%で構成されています。公用語はロシア語ですが、各共和国にはそれぞれの言語があって26言語が認められています。一方、日常的には100以上の言語が使われているといわれます。

我が国が多民族の国籍を認めるということは、いわゆる「多文化主義」を容認することでもあり、宗教や生活習慣や価値観などの文化の違いを私たち日本人も理解し、認めなければなりません。その上で、移民者や難民者の日本社会への「同化(統合化)政策」が必要不可欠になります。

それが行き過ぎると日本の良さが失われるとの懸念もあり、どこまで移民者の立場を認め、どこからは日本の文化に協調しなければならないか、双方が納得できる“線引き”が重要になってきます。つまり、「多文化主義」の可能性と限界をしっかりと整理し、選択することが求められています。

実際には、「多文化主義」を容認してもっと積極的かつ戦略的に移民を受け入れ、多民族で構成される国家を目指すべきとの考えと、日本の歴史・文化・伝統に「同化」することを優先し、その範囲で「移民政策」を見直すべき、との考えには相当開きがあると考えます。

一般に「同化」は、次の4段階のプロセスを踏むといわれます。第1段階が「言語や生活習慣などの表面的・文化的同化」、第2段階が「地域の付き合いや友人関係、学校、企業、医療、議会などでの相互作用による社会的同化」、第3段階が「他集団と通婚を通じて身体的特徴の類似性を増して起こる身体的同化」、最後が「個人レベルの意識が一緒になる心理的同化」です。

これらの具体的例として、「在日朝鮮人」の多くが、戦後の長い日本定住を経て、韓国半島に住む朝鮮人とはその考え方や価値観が変わってきている、つまり「心理的同化」まで進んでいるとの見方もできますが、その実態は不明です。また、あえて国名は伏せますが、国策として強制的に異民族を「同化」している国もあることから、「少子化」対策とはいえ、「帰化」を無警戒で推進することには注意を要するでしょう。

先進国では、「同化」と「近代化」と同一視し、それは近代社会の価値観や行動基準、あるい都市型の生活様式への適応を意味し、これを拒否するものは非近代的・後進的人間と見なす、との考えもあるようです。

また、「同化」の発展形として「統合主義」という考え方があり、これこそが民主的・理想主義的思想といわれています。その具体的な例こそが「人種のるつぼ」のアメリカですが、今なおさまざまな問題が起こることからその“領域”に到達しているとはとても考えられません。

いずれにしても、我が国においても、ただちに「多文化主義」を容認しないまでも、多様性を認めながら、時間をかけて「同化」を推進することが、外国人を受け入れての「労働力」確保や「少子化」対策のキーポイントになることは間違いないようです。

▼まとめ─「少子高齢化問題」

 現在、先進諸国の中で、「少子高齢化」の最先端を走る我が国ですが、その中でも、人口を一定程度に維持することが、経済力、国防力を含む「国力」を維持するために必要不可欠との観点に立てば、死に物狂いになって、「少子化」あるいは「人口減」対策を考え、実行する必要があると私は考えます。

 お隣の韓国では、平均出生率が世界最低の0.8台まで落ち込み、先の大統領選挙でも大きな争点になりましたが、正直申し上げれば「ツー・レイト」、気がづくのが遅すぎたと感じざるを得ません。ここまで出生率が落ち込み、人口減が著しく進展すると、V字回復が簡単でないことは容易に想像がつきます。こうなる前に「手を打つ」必要があるのです。

これまで取り上げたように、個々の対策については、世界を見渡せば「先例」として参考になる方策もたくさんありますし、我が国には“なじまない”と推測できる方策もかなりあります。また、別なリスクが生じる可能性がある方策もあることでしょう。

これらを総合的に検討し、我が国の進むべき方策の結論を導き、実行することが求められています。そのためには、相当強いリーダーシップが求められることでしょう。

惜しむらくは、現下の情勢がウクライナ問題やコロナ禍という2大トピックスに政治家も官僚もマスコミも有識者も含め、国を挙げて振り回されていることです。我が国の国柄からそれはそれで致し方いないとしても、そのような中にあっても、目先の情勢に振り回されず、知恵を働かせ、あらゆる方策を検討し、我が国の行く末を導く方策を捻出する集団の出現を心から待つばかりです。

今回あえて取り上げなかった問題を含み、「少子高齢化」対策上、考慮すべき範囲はとてもなく広くかつ深く、おそらく官僚や一部の政治家などの知恵だけでは行き渡らないものと思ってしまいます。何と言っても、各省庁の“縦割り”行政では総合的な判断が難しいことを付記しておきましょう。

個人的な結論から申し上げれば、やはり「婚姻数」を増やし、「多子化」の方策を国や社会が「後押し」できるように、政府が本腰を入れて先頭を走ることが最も現実的で近道であると考えますが、問題は「後押し」自体の中身にあることは指摘したとおりです。

おおむね2回分の長さになってしまいましたが、第1節の「少子高齢化問題」を今回で終わり、次回以降、第2節「農業・食料問題」を取り上げます。本メルマガを発信した当初は、このたびのロシアによるウクライナ侵攻のような危機事態が起こり、再び我が国の国防問題が脚光を浴びるとは予想していませんでしたので、これまでのように、時折、これら最新情勢や「ウクライナ問題は私たち人類に何を突き付けているのか」などについても考えながら、筆を進めることします。

ウクライナ情勢の進展いかんによっては、我が国の「農業・食料問題」への影響も半端ではないと推測します。一緒に考えて行きましょう。請うご期待(つづく)。

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)