我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(配信準備号)「未来に立ちはだかる3つの課題」 

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我が国の未来を見通す(配信準備号)「未来に立ちはだかる3つの課題」 


□はじめに

『我が国の歴史を振り返る』を109回にわたって配信させていただいた元陸上自衛官の宗像久男(むなかたひさお)です。

このメルマガ連載をまとめた『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』をご購読いただいた読者の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。お蔭様にて、多くの皆様にご注目いただいております。

 実は、メルマガ読者をはじめ、多くの方から「もう書かないのか」という声をいただきました。私自身は、正直申し上げ、このたびの書籍化だけで、ある種の達成感と“精根尽き果てた”ような感覚に陥っていますが、一方で、「過去の歴史だけを振り返るだけで、我が国の現状や未来についてはどう思っているのか?」と問われれば、それについて十分に答えていないことは承知しております。

巷には、さまざまな情報が飛び交っています。情報過多の中から本当に必要な情報を選び、分析し、対策を講ずるのはなかなか至難の業です。特に目先の情報に一喜一憂し、飽和状態になっている多くの国民には、我が国の未来に立ちはだかるであろう課題とか暗雲に気がついていないのではないかとの一抹の不安も沸き上がってきております。
 そのような時、ふと頭に浮かび上がってきたのが、新しいテーマ『我が国の未来を見通す』でした。
 ただし、今回は、国防とか安全保障の領域はあえて外すことにしました。このテーマに関しては、す
でに多くの有識者や元自衛官、そして心ある政治家などがあらゆる機会をとらえて、周辺情勢の変化や、さらなる国防の強化の必要性などについて警鐘をならしているからです。

正直言えば、中には、単に警鐘に留まらず、さまざまな意図が働いているものもあるような気がします。歴史を学んだ立場からは少し違った考えがないわけではないですが、そこは当面、封印することにしました。

▼立ちはだかる3つの課題

 私は、我が国の未来に立ちはだかる課題のうち、(1)少子高齢化問題、(2)農業・食料問題、(3)気候変動問題を3大課題としてまずとりあげたいと思います。

 もとより、元自衛官の私は、それぞれの専門家ではありませんが、近年、それらについて関心をもって学ぶ機会がありました(一部は現在も探求中です)。そうしたら、またもや持ち前の“好奇心”に火がついてしまい、やかなり時間をかけて深掘りすることになり、その結果、あまり表には出てない事実数々を知って驚愕してしまいました。

その延長で、「多くの人はこのような事実を知っているのだろうか?」と考え込んでしまいました。

 またしても、自分の早合点(独りよがり)かも知れない、これらのテーマについて書く資格があるか否か、自問自答がありました。しかし、経験とは恐ろしいものです(笑)。「もとより歴史の専門家でない自分が、歴史の書籍を刊行したのだから、それぞれの分野の専門家でなくとも、躊躇する必要はないのではないか」との“陰の声”が騒ぎ出し、逆に勇気が湧き、このテーマで書く決心を致しました。

 『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』で約500年間の歴史を振り返りました。これから500年先とは言わないまでも、50年先、100年先、つまり私たち世代の子孫の時代、我が国はどうなっているのだろうか、ということがいつも頭をよぎります。

「未来がどうなるか」など神様以外だれにもわかりません。本来、未来は不確実で不透明で予測困難です。しかし、歴史を勉強して分かったことがあります。メルマガでも「歴史の時間軸・空間軸のつながり」を再三とりあげましたが、江戸、明治、大正、昭和とその時代時代の国の「舵取り」(と総称しておきます)が次の時代にかなりの影響を与えた、つまり「未来を創ってきた」ことは否定できません。

つまり、その時代時代の「舵取り」が変われば――岡田英弘氏が言われるように、1回しか起こらない歴史は検証ができないのですが――違う次の時代を迎えていたはずなのです。同じことがこれからも起こる、つまり「未来は創れる」ものではないか、ということです。

このように、「過去はやり直すことができませんが、未来は創り出すことができる」との立場に立てば、上記3つの課題への取り組みが違ってくるのは当然と考えます。

この3課題が私たちに突き付ける事実の詳細を知れば知るほど、私自身は「悠長なことを言っておれない」とのあせりさえ感じます。我が国には「脅威が明確にならないとその対応策を講じない」との伝統があるからなおさらです。

少子・高齢化問題はもう始まっています。農業・食料問題はあと10年で間違いなく顕在化するでしょう。気候変動問題は、国際社会がすでに舵を切り直しつつありますが、一度作り出した二酸化炭素(CO2)は1万年消えないとの分析もありますので、もう遅いのかも知れません。

「少子高齢化問題」と「農業・食料問題」は我が国独自の問題です。しかし、「気候変動問題」は地球規模の問題です。皮肉にも、この問題があるから、最近の米中会談のようの、大国同士の決定的対立を回避する要因になる可能性も有しています。自国だけの国益とかエゴを言っておれないのです。

▼「この国民にしてこの政府あり」

私は齢70歳、いずれの問題も私の人生には直接的に関係ありません。それらの問題がまさに顕在化する頃には、私は、あの世から我が国をはじめこの世の“混乱”を眺めていることでしょう。だからこそ、「だから言ったじゃないか」のような台詞を吐きたくないとの思いに駆られて、「今、気がついたことを実行しよう」と決心しました。

衆議院選挙がまもなく行なわれますが、各党の公約をみると寂しくなるのは私だけでないと思います。国の「舵取り」は、「主権者」たる国民の総意の反映です。10万円とか12万円などとバラマキキャンペーンがはびこっていますが、政治家の先生方は、国民の精神(そのレベル)を見抜いているとも言えるでしょう。

未来にために今の日本に何が必要なのかを忘れ、そのようなお金につられて1票を投じる国民が多い限り、我が国の未来に漂う暗雲は消え去ることはないと考えます。まさにカーライルの名言「この国民にしてこの政府あり」の状態です。

国防もそうですが、我が国の未来には、10万円よりももっと大事な課題が立ちはだかっています。メルマガ読者とそれらの情報を共有し、一緒に対応策を考えて行きたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

次回より、第1編「少子高齢化問題」、第2編「農業・食料問題」、第3編「気候変動問題」の順でメルマガを配信させていただきます。ご期待ください。

(むなかた・ひさお)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)