我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(17) 少子高齢化問題(17) 「人口減」を回避する施策の有無(その1)外国人労働者

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我が国の未来を見通す(17) 少子高齢化問題(17) 「人口減」を回避する施策の有無(その1)外国人労働者

□はじめに

 今回もウクライナ情勢に触れておきましょう。これまで人類が繰り返してきたすべての戦争の中で共通しているのは、「戦局洞察の難しさ」にあると私は考えています。

大東亜戦争もその教訓の1つとして「的確さを欠いた戦局洞察」が挙げられていますが、後で振り返るからそのような教訓を指摘できるのであって、当時の状況の真っただ中に立ってみれば、将来展開するであろう戦局を的確に見積ることはおよそ不可能です。

その理由は、可能な限りの情報手段を駆使して情報活動をしても敵の最高指揮官の腹の中を完全に読み切ることは不可能であるということ、それに実際の戦局は、偶然か必然かは別にしても“不可測な動き”をするという本質的特性を有しているからです。

ウクライナ侵攻の場合は、宇宙やサイバー空間まで含み、これまで人類が経験したことがないようなハイレベルな手段で情報を解明し、さまざまな情報戦・心理戦を展開しても、ここまでのところ、プーチンの究極の意図(腹の中)を探り当てることはできていないと考えるべきでしょう。

なかでも、膨大な量の核兵器の存在とプーチンが最後の手段として核兵器を使用するかもしれないという「恐怖」のために、下手な手出しは一切できない状態になっているのが何とも悩ましいところです。

これまでの人類の歴史において「核による威嚇」もなかったわけではないですが、国連をはじめ、現存する安全保障の枠組みが全く機能しないというのは初めてのことと思います。しかも実際の核兵器を使わなくとも、原子力発電所や研究所でも同様の効果があることから、施設損壊の影響を顧みないまま、ロシア軍のこれらの施設への攻撃・占領は絶対に許されない暴挙というべきでしょう。

両国の外相会談も事態の打開までは至らず徒労に終わり、3月11日現在、いよいよキエフ総攻撃が現実のものとなって、侵攻以来、最大の緊張場面を迎えています。まさに今後起こるであろう戦局の洞察は全く不明です。またしても本メルマガが発信される3月14日夜の時点に、いかなる状況になっているかを予測するのはほぼ不可能です。

今回の事態は、世界中のほとんどの人々がウクライナで起きていることをほぼリアルタイムでウオッチしている点でこれまでの戦争との違いが際立っています。ロシアが自らの行動の正当性を何度繰り返してもその極悪非道さが白日の下にさらされ、国際社会の信頼を失う、つまり墓穴を掘っているような気がしてなりません。

「戦闘の勝者が必ずしも戦争の勝者になるわけでない」ということを歴史は教えてくれていますが、人類は、一時はプーチン1人に翻弄されても、長期間、プーチンの軍門に下るほど愚かではないでしょう。「ロシアの終わりの始まり」との声も聞こえ始めていますが、言葉を代えれば、仮に一時、多大な犠牲を払い、敗退するような事態になって戦争が長期戦になったとしても、ウクライナの勝機は必ず来るものと私は確信します。

本侵攻の背景には、ロシアやウクライナの歴史や地政学(地理的条件)があります。なかでも、ロシアは、東からはモンゴル、西からはローマ・カトリックをはじめ、ナポレオン、ヒトラーに侵略された歴史と、それらに対する反動のように、西に南に東に周辺国を侵略した歴史を繰り返しています。このたびもその延長でしょうし、将来もその可能性があると考えるべきでしょう。ロシア民族の中に、プーチンのような独裁者を輩出する「血」が流れ、その「芽」が育つ土壌があると認識すべきなのです。

さて、このたびの事態がいかなる結果に終わろうとも、人類はここからさまざまな教訓や課題を学び、再び繰り返さないためにいかなる「英知」を集めるか問われています。

国連をはじめ、功を奏しなかった安全保障体制も再検討する必要があることでしょうし、本事態をあらゆる角度から分析し、自国の国益に反映させようと虎視眈々と狙っている国の存在にも注目する必要があります。

日本も決して対岸の火事ではないことは明白です。1人でも多くの国民が、気づき、覚悟し、日本なりの「備え」を後押しするかどうかに将来の存亡がかかっていると私は思います。

▼外国人労働者の現況

 さて「少子高齢化」対策の最後に、「労働力不足」や「人口減」対策についても考えておきましょう。まず、外国人労働者です。

 2021年6月末の外国人の数は、282万3565人で日本の総人口の約2%を占めます。2020年のコロナウイルス感染拡大予防措置で新規入国が閉鎖された影響で、前年比で6万3551人(2.2%)の減少となりました。

 全体の84%がアジア出身者で、国別では、中国が74万5千人で不動の1位であり、ベトナム(45万人)、韓国(41万6千人)、フィリピン(27万7千人)と続きます。ちなみに、米国は第8位の5万4千人です。

日本に住む外国人は、生産年齢人口の減少をカバーする貴重な労働力となっている外国人と、留学生として学んでいる外国人などさまざまです。その在留資格者は以下のように区分されています。

「永住者」が81万8千人、「技能実習」が35万4千人、「技術・人文知識・国際業務」が28万3千人、「留学」が22万7千人、「定住者」(一定の在留期間を指定して居住を求める者)が19万9千人、以下、家族滞在、日本人の配偶者等、特定活動、永住者の配偶者等と続きます。

全体で見れば、日本在住10年以上の「永住者」が約3割弱を占め、逐年増加傾向にあります。また、日本で学ぶ外国人留学生は、政府の「留学生30万人計画」(2008年7月策定)のもとに順調に伸長していましたが、コロナ禍の影響で、残念ながら、最近は30万人を下まわる結果となっています。

 この中で、現時点(2021年)の外国人労働者数は172万人を数え(前年比4.0%増)、全労働者数6667万人に占める割合は2.6%にしか過ぎません。諸外国の例では、ルクセンブルクの57.3%を筆頭に、シンガポール27.9%、スイス17.8%、アメリカ13.0%、ドイツ8.8%、マレーシア8.3%、フランス6.0%、ノルウェー4.9%、イタリア4.1%、イギリス4.0%と続きます。

外国人労働者を生み出す要因には近隣国との経済格差があげられますが、20世紀末以降、グローバル化が進み、国際的な人の移動が活発になったことにも注目しつつ諸外国との数値を比較すれば、日本はまだまだ外国人労働者を受け入れる余地はありそうです。

特に最近注目されているのは、前述の「技能実習」という在留資格です。本制度は、1993年に発足され、上限を5年として短期の外国人労働者を受けていれているものです。背景に、非専門的・非技術的分野の労働力不足があり、これによって、外国人単純労働者を受け入れることが可能となりました。

さらに2019年に「入管法」が改正され、「技能実習」に加えて新たに最長5年の在留資格として「特定技能」が設けられました。本制度は、より専門的・技術的分野に従事する労働者を外国人に求める制度で、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造、電気・電子情報関係産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野が対象となっています。

この「特定技能」制度はまだ始まったばかりなので、2021年3月時点で2万2500人あまりですが、5年間の最大受け入れ見込み数は約35万人となっています。政府は、本制度についても「移民政策ではない」との見解を示していますが、コロナ禍の制限の中でも短期の外国人労働者の数は確実に増えていきます。

時々、外国人労働者に対する不当な処遇や差別、制度の悪用などが話題になりますが、外国人労働者の雇用側が知っておくべき注意点もたくさんあるようです。

▼我が国の「移民」政策

 外国人労働者は、労働力不足の対策としては有効ですが、「少子化」対策とは別次元であることは明白です。

 我が国は、日本から外国にわたる人々を「移住」、海外から日本にやってくる人々を「移民」と区別していますが、諸外国では、「移民」とは長期にわたる「居住」を意味し、観光旅行は含みませんが、通常1年以内の「居住」を指す季節労働者も「移民」として扱う場合が多くなっています。

アメリカなどでは、「移民ビザ」は「Permanent resident Visa(永住権)」とも呼ばれ、滞在期限や活動(就業)に一切の規制がありません。一方で「非移民ビザ」は、滞在期限や滞在中の活動(就業可・不可やその職種・条件など)に制限があり、非移民ビザによる滞在の外国人は、住居の有無・就労・滞在期間にかかわらず全て「Visitor(訪問者)」として扱われます。つまり、「移民」とは「永住権所持者」と定義されています。

 アメリカでは、「移民ビザ」の所有者は約5100万人おり、世界で最も多く受け入れています。その他、ドイツは約1300万人、フランスは約800万人の移民が在留し、「少子化」対策上も一定の寄与はしております。ただし、在留資格には、一般に期限があるようですが、EUにおいては、移住先の国籍を取得しなくても「定住許可」を取れば、期間無制限の在留資格となります。

一方日本では、「移民」は基本的に「労働力」として扱われ、永住を目的とする「移民ビザ」のようなものはありません。よって、日本は本来の意味での移民政策が存在しないとも言われます。 これを裏付けるように、2018年、安部首相が国会答弁において「政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を、家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない」と回答しています。 

私たち日本人が「移民」という言葉について抱いているイメージは「個人または集団が、“恒久的にまたは相当長期にわたって”、一国から他国に移住すること」ですが、「国際移住機関IMO」の定義によれば、「移民」とは「当人の①法的地位、②移動が自発的か非自発的か、③移動の理由、④滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動」としており、特に④「滞在期間に関わらず」としています。

ここに、日本人の感覚と国際標準の違いがあります。よって、日本は「移民」をほとんど受け入れていないという意見がある一方で、国際標準に照らせば、すでに「移民大国」になっていると意見もみられます。

また、日本は主要先進国と比べて難民の受け入れ数が非常に少ないことが知られています。今回のウクライナ難民の増加に関して、岸田首相は難民を受け入れることを表明していますが、2019年の難民受け入れはわずかに44人です。

これに対して、ドイツは約5万3千人、アメリカは4万4千人とまさに3桁も違います。他国と比べて難民認定の基準が厳しいことが国連難民高等弁務官からも指摘され、改善を促されていますが、貧困地域の発生、社会保障の負担、治安不安、近隣住民との混乱などが受け入れ国の大きな問題となっていることもブレーキになっているようです。

日本の「移民政策」が進まないのはそれなりの理由がありますし、国籍取得はさらに困難です。それらについては次回取り上げてみましょう。結論から言えば、日本は「人口減を防止するため、外国人を受け入れる」が、その“敷居”はかなり高いようです。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)