我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(58)「気候変動・エネルギー問題」(23) 再生可能エネルギーの課題(その1)

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我が国の未来を見通す(58)「気候変動・エネルギー問題」(23) 再生可能エネルギーの課題(その1)

□はじめに

  米軍が破壊した後、気球は1個だけではなかったことも驚きですが、偵察気球をめぐる米中の動きが予想以上の展開になってきました。

気球といえども、他国の領空に飛来したら破壊される可能性は高く、そうなれば、そこに積載している情報収集器材なども当該国に奪われ、情報収集の狙いや技術レベルまで丸裸にされる……なんぼ何でもそのくらいは当事者たちの“常識”として思考の範囲にあると、普通は考えます。

よって、安価であるとか長時間上空に滞在できるなど気球のメリットはあっても、気球に積載している技術などに大した技術はなく、“捨ててもよい”くらいの器材をもってその範囲で情報を収集していたものと推測します。

中国は、「米国の気球も中国上空に飛来している」と発表しているようですが、それが真実ならばもっと大騒ぎして、ただちに破壊、徹底的に技術を解明して、自国技術に応用することでしょう。なんせ、常套手段ともいえる、危険を犯してのスパイ活動をする必要もなく、向こうから情報が舞い込んできたのですから。逆に、それを知っているから、米国はそのような“へま”をやらないでしょう。

それにしても、かつて日本の近海に飛来した際の当時の答弁が国会で蒸し返ししていますが、当時、「また飛来するか」の質問に対して「気球に聞いてくれ」とか「我が国の安全保障に影響はない」と断言した外務大臣の危機意識や責任感のなさについて、今さらではありますが、どのように理解すればよいか頭を抱えます。

この方は、防衛大臣の時には、「ロケットのブースターが民有地に落下する危険がある」との理由で、当時の我が国の核抑止にもつながるミサイル防衛の“切り札”だったイージス・アショアを取りやめる決断をしました。当時、個人的にはイージス・アショアの問題点は知ってはいましたが、防衛大臣の核抑止やミサイル防衛の認識のレベルを知って呆れたものでした。のちに総理候補にもなるのですが、このたび、「所管外」を12回繰り返したやり取りをテレビで拝見し、またもや「いやはや」という感想を持ちました。当人を批判したりする気持ちは毛頭ないのですが、あらためて、日本の政治家の資質とか資格とか責任感などについて思い知らされることでした。

さて、一連の動きから、バイデン大統領のゴングの後、早くも米中間の「新冷戦」の第1ラウンドが始まったような雰囲気がありますが、バイデン大統領は、16日、「謝罪はしないが、中国とは対立ではなく競争を望む」と習近平主席との対話を再開する考えを示しました。今後とも、双方から「共存」の知恵を出すことが求められて来ることでしょう。

かつての「冷戦時代」もそうであったように、「新冷戦時代」も我が国、なかでも国家の旗振りの役割を担うべき政治家の先生方は、すでに「蚊帳の外」に置かれているような構図が見えてきます。

戦略3文書の書きっぷりは、これまで以上に外務省や防衛省以外の他省庁の協力についても触れられてはいますが、「GXの基本方針」のように全省庁、政府、経済界、学界などが全会一致で臨むというところまでは至ってないことも事実です。

今後、周辺情勢はますます激烈化するとともに、国内外の奇妙な事件や事象に幾度となく出くわすことでしょう。最も欠けている国民の国防意識の醸成をはじめ、サイバーなど官民の専門家が一緒になって活動できる組織や各専門家の育成などを含め、国家を挙げて取り組まなければ我が国の将来の安寧を担保できないでしょう。せめて、国民の負託を受けながらも自らの地位・役割を理解していないリーダーたちのトンチンカンな対応によって、我が国が国益を失い、取り返しのつかない姿になるのだけは見たくないものと考えています。

▼世界の再生可能エネルギーの現状と傾向

さて前回の続きです。2022年12月6日、IEA(国際エネルギー機関)は「再生可能エネルギー(以下「再エネ」と呼称)は、2025年初めには石炭を抜いて世界最大の電源になる」との見通しを発表しました。この背景には、ロシアのウクライナ侵攻の結果、化石燃料などのエネルギーが高騰したまま推移していることから、各国がエネルギー安全保障に危機感を抱いたことが大きな要因としてあることは明白でしょう。

しかし、これまでの経緯をみると、もともと「脱炭素」に力を入れていたヨーロッパ諸国はもちろん、アメリカや中国、インドなども再エネに対して規制改革や導入支援策を充実させ、取り組み強化を進めてきていることが背景にあります。再エネの発電量は、総発電量の約3割の300GW(2022年当初)ですが、IEAは、2027年までに約8倍の2400GWに増加すると見通しています。

世界的な傾向としても、再エネの中で、太陽光発電が全体の6割以上を占め、次いで風力、水力などが続きます。この太陽光発電は、今後最も増えると見積もられ、容量ベースで2026年に天然ガスを、2027年には石炭を抜くと予測されています。

このたびのドイツの例をみるまでもなく、再エネには、太陽光発電であれば日射条件、風力発電であれば風況などによって、安定供給に問題があることは明白ですが、それらの特性を踏まえても、この先5年~10年間で世界の再エネ普及率は大きく飛躍するようです。

IEA報告のような世界的傾向を加味した上で、政府は、GX実行計画の中で、再エネに対する期待度を明らかにしたのでしょうが、前回その一部を紹介したように、我が国は我が国独特の特性もあります。再エネを「自国内で得られる国産エネルギー」と手放しで喜ぶわけにはいかない課題もいくつかあると考えます。逐次明らかにしましょう。

▼我が国の太陽光発電の現状

 

前回、我が国のGX実行計画では、再エネによるエネルギー確保を現在の22.1%から2030年度には36~38%に引き上げることを目指し、そのシェアのトップは太陽光発電(現在9.3%)であることは紹介しました。

あらためて世界の太陽光発電の現状をチェックしてみますと、ウクライナ戦争勃発前でありますが、IEAのデータによると、2021年の再エネ導入ランキングは、第1位:中国(55GW)、第2位:アメリカとEU(27GW)、第3位:インド(13GW)に続き、日本は第4位(6.5GW)とランキングされています。近年の傾向として太陽光発電容量は著しい増加傾向にあり、2021年は前年比30GW増の175GWを記録しました。

これまでの累計をみても、第1位:中国(309GW)、第2位:EU(179GW),第3位:米国(123GW)、そして日本が第4位(78GW)と続きます。近年、中国が常にトップを走り、鋭意的に太陽光発電に取り組んでいることがわかりますが、国別の面積では第60位にランクされる小さな国土面積にもかかわらず、日本はすでにTOP5入りしていることは驚異的なことです。

太陽光発電は、一般にメガソーラーと呼ばれる10kW以上の発電量を有するものと住宅用の10kW未満のものに区分されていますが、世界の傾向としては6割ほどがメガソーラー、残りが10kW未満の住宅用となっており、どちらも増加傾向にあります。

それに対して、我が国の太陽光発電の導入量の累積推移をみますと、10kW以上の発電量を有するメガソーラーが40GW以上と約7割弱を占め、住宅用の太陽光発電の普及率はさほど進展せず、住宅総数の約9%程度といわれています。

▼太陽光発電の問題点・課題―高コスト

我が国の政治家などには「グローバリストでなければ国際社会の市民権は得られない」と信じて疑わない人が多く、そのような人たちは、諸外国が「自国の国益を最優先している」事実を理解しようとしない傾向にあるようです。

その証拠を示すように 自民党には、約100名の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」(再エネ議運)のメンバーになっている先生方がおられるようです(名簿をみるとそうそうたる名前が並んでいます)。この先生方がどれほどの問題意識を持っているかは不明ですが、再エネのうち、太陽光発電については、多方面から様々な問題点や課題が指摘されています。その主だったものを紹介しておきましょう。まずは「高コスト」です。

我が国の太陽光発電がここまで普及した背景は、「脱炭素」とは全く関係なく、東日本大震災以降の「脱原発」を推進するために、再エネ由来の電力を決められた価格で大手電力が買い取る「FIT制度」(Free-㏌Tariff)を導入したことにありました。

FIT制度は、平成24(2012)年度に導入が始まり、当時は、主に事業用(10kW以上)の買い取り価格が国際価格よりも高い1kWあたり40円と設定され、買い取り期間は20年と設定されたため、「もうかる」とみて新規参入が殺到しました。最近では買い取り価格が11~12円まで下がりましたが、必要以上に高い価格で設定したことが電力供給をゆがめることにつながってしまったのでした。

そして、その影響は電気料金にも影を落としています。つまりFIT制度の買い取り費用は、「再エネ賦課金」として電気料金に上乗せされて徴収されていることはすでに紹介した通りです。買い取り価格は安価になっても、再エネ導入量が増加しているため、買い取り価格の総額は増える一方でした。

その結果、賦課金自体も電気料金の約1割を占めるまでに膨らみ、一例を挙げれば、月の電気量が260kWhにおける賦課金負担額は、平成25年度には1092円だったものが令和4年度には10,764円に膨れ上がりました。ちなみは、拙宅の1月の電力消費量は、家内と2人暮らしで499kWhでしたので、年間2万円ほどの賦課金を負担していることになります(それでなくとも、今月の電気ガス料金は、月額にしてはじめて2万円を超えました)。

なお、FIT制度による国民の負担が2021年には2.7兆円に及ぶことが判明したため、2019年11月以降、買い取り期間を順次終了することとし、政府は、2020年6月、2050年の「脱炭素」を目指して、FIT制度のような固定価格で買い取りするのではなく、再エネ発電事業者が売電した時、その価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進する方針に変更しました。これが「FIP制度」(Free-in Premium)であり、2022年4月よりスタートしました(恥ずかしながら、私自身は、FIP制度導入について最近まで知りませんでした)。

GX実行計画においては、「FIT/FIP 制度について、発電コストの低減に向けて、入札制度の活用を進めるとともに、FIP制度の導入を拡大していく。さらに、FIT/FIP 制度によらない需要家との長期契約により太陽光を導入するモデルを拡大する」としていますが、いずれにしても、この後に述べます太陽光発電のコストはほかと比較して高額になることから国民の負担増は避けられないと考えます。

その事実をチェックしておきましょう。経済産業省が2020年9月、公表した「総合エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ報告書」によりますと、それぞれ発電による発電原価は、原子力が11.5円/kwh、太陽光(事業用)12.9円/kwh、住宅用17.1円/kwh、洋上風力30円/kwh、陸上風力19.8円/kwhとあります。つまり、経産省の試算でさえ、太陽光は原子力より割高になることがわかります。

その上、太陽光は雨が降った時、そして夜間は十分な電力を発電できないという不安定さがあり、その分を火力発電や蓄電池で補わなければなりません。経産省のデータには、これらの“バックアップ”については計算に入っていないといわれます。

これらをすべて加味した試算として元内閣官房参与の加藤康子氏は、「原発1基(発電量60億kwh/年、必要面積60ha、建設費・廃炉費用・安全対策費を含み6000億円~7000億円)と同じ発電量の太陽光発電設備の製造コスト(土地の取得、太陽パネル、蓄電池など)を比較すると、原子力の開発コストの約8倍に及ぶと見積もっています。しかも、原発の寿命がこのたび、60年ほどに延期されたことと比較すれば、「太陽光発電設備の寿命は20年程度」であり、「これらのコスト増もすべて補助金でまかなわれる」ことにも言及しています。

その上、この例で言えば、原発が東京ドームの13個ほどの面積なのに比し、その約10倍以上、つまり山手線の内側全部にあたる面積が必要であると太陽光発電は広大な面積が必要なことを指摘しています。

▼太陽光発電の問題点・課題―環境問題

その結果として、地球環境への対策のはずが、「太陽光発電が最大の環境問題を引き起こしている」という指摘につながります。

つまり、大規模なメガソーラーを建設するには、広大な森林を伐採しなければなりません。前述しましたように、狭い国土面積でありながら累計で世界第4位を占める我が国は、すでに全国各地にメガソーラーが建設されており、私たちは全国どこに行っても、伐採された後の日当たりのいい南側斜面やゴルフ場跡地、そして耕作放棄地だったような場所などに建設されているメガソーラーを目にします。

この乱開発が原因となって、近年の豪雨で土砂災害や水害も全国各地で発生しています。建設される度に地域住民の反対もあるようですが、情報開示とか行政手続きの不備、審査ミスなどが重なり、この流れを止めることはできないといわれます。何と言っても、政府が「グリーンエネルギー」とかGX計画を大々的に推進している以上、地方出身も政治家も地方自治体も関連企業も(地域住民の声よりも)政府の方針を優先するのは当然だからです。

これら環境破壊に待ったをかけるために、2021年7月、北海道からとして九州まで「全国再エネ問題連絡会」なども立ち上がりましたが、当然、この流れを食い止めるまでの力及ばず、細部は省略しますが、「FIT法」や「森林法」など、法の“抜け穴”を熟知している悪質事業者もかなり存在することも指摘されています。

GX実行計画では、2030年まで再エネのシェアを現在からほぼ倍増を企図していますので、メガソーラーも現状の約2倍になることを覚悟する必要があります。その姿を想像するととても不思議です。森林が伐採され、農地が破壊されると、「ウサギ追いし……」に象徴される山林や里山などの景観が今以上に変わってしまうばかりか、私達が排出したCO2を光合成によって吸収してくれる植物そのものが減ってしまうという“本末転倒”を平気でやり続けることになります。世にいう環境活動家たちはこの現状をどう見ているのでしょうか。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)