我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(40)「気候変動・エネルギー問題」(5)「温室効果ガス」はどのように排出されるのか(前段)

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我が国の未来を見通す(40)「気候変動・エネルギー問題」(5)「温室効果ガス」はどのように排出されるのか(前段)

□はじめに(安倍元首相の国葬について)

 まず「はじめに」が少し長くなりますことを許していただきたいと思います。

私は、イギリスのエリザベス女王の国葬についてはあえて触れませんでした。実は、我が国の歴史を勉強しながら、どうしてももう少し踏み込んで勉強したいことがありました。戦後押し付けられたような、象徴天皇を擁する我が国の「立憲君主制」のあり方についてです。イギリスなど諸外国の立憲君主制とどこが違うのか、何が課題なのか、我が国は、現在の立憲君主制のもとで、強く賢いリーダーを輩出し、1つの内閣をもう少し長く維持できるような統治機構を制度化できないものか・・などどうしても疑問が残っているのです。

有識者といわれる人たちにとってもアンタッチャブルなテーマなのか、私の疑問に端的に答えてくれる書籍や論文を未だ見つけることができません。このテーマについては、我が国の未来のために、本シリーズの最後の総括の中で取りあげざるを得ないと考えています。

さて、偶然にも私たちは、わずか1週間余りの間に異なる国の2つの国葬儀を、映像を通してではありますが、その一部始終を拝見することになりました。エリザベス女王の国葬については、イギリス伝統の宗教色が強かったとはいえ、「さすがイギリス」という印象を持ちました。しかし、いろいろ物議を醸したとはいえ、安倍元首相の国葬もそれ自体は決して負けてはいなかったと私は思っています。

あいにく出社日と重なり、生放送は拝見できなかったのですが、夕食時、安倍氏を偲びながら献杯しつつ、録画していた映像を拝見しました。全般には、儀じょう隊や陸海空音楽隊など自衛隊のきびきびした動作が国葬らしい厳かさを引き出していたことに誇らしさを感じましたが、菅前首相の弔辞の中で、安倍氏の信念ともいうべき政治信条や「日本にとって真のリーダーだった」との紹介には、思わず涙が流れました。

 私は、愚書『日本国防史』の中で、「日本は2度敗北した。1度目は1945年8月15日、終戦時の“物理的破壊”、2度目が1951年9月8日、サンフランシスコ講和条約締結時の“精神的破壊”である」と勝手に解釈し、紹介しております。この“精神的破壊”は、トルーマン大統領の「日本を二度と武器をもって米国に立ち向かうことができない国にする」との初期の対日方針のもと、6年半に及ぶGHQの巧妙な占領政策によってもたらされたもので、壊滅的ともいえる“精神的破壊”を受けた後に我が国は独立したのでした。

 そして、この“精神的破壊”は戦後の長い間、一向に回復する兆しがないまま時が流れました。その原因は、(本人たちは気づいてないのかも知れませんが、)GHQによって洗脳されたまま、GHQに成り代わって「戦前の日本はアジア各国を侵略した恥ずべき国だった」と執拗に教育し続けた教育会をはじめ、そのような教育を受けて育った大人たちが政界やマスコミ界などの中枢に存在し続けているからであると考えます。

その実態を詳しく紹介する必要はないと思いますが、戦前は、政府や軍、そして国民を煽るだけ煽り続け、占領下のある事件をきっかけに掌を返したように、戦前の扇動に対する反省など微塵にもないまま、真逆の立場で主張し続けている大新聞も含まれています。

それらの反作用として、国民の一部がそれを“良識”と勘違いしていることに危機感を持った保守層に巧みに入り込んでいったのが某教会ではなかったかと分析しています。もちろん、霊感商法などは言語道断です。そのような複雑な背景から、安倍元首相がターゲットになったのは、避けられない運命だったのかも知れませんが、あまりに悲しく、今なお悔やまれてなりません。

しかし、こともあろうに、一時話題になったシールズの活動家の意見を紹介しつつ国葬反対論を取り上げた某局には言いようもない違和感を持ちましたし、差し向けられたマイクに向かって反対論を唱える“市民グループ”(特に若者たち)の口から出る言葉のあまりの軽さ・稚拙さに呆れ果てつつ、この度の国論が割れたことこそ、わが国が依然“精神的破壊”から脱却できていない証拠だと改めて考え込んでしまいました。

安倍氏は、このような我が国の現状を憂い、「美しい国」の復活を「戦後レジームの総決算」の目標に掲げましたが、国葬自体の成功とは裏腹に、賛成派と反対派が衝突するようなことについてご自身が最も残念に思い、悲しんでおられるだろうと思ってまた涙がでました。

一方、このような日本の現状を“ほくそえんでいる”、そして、日本人が“精神的破壊”を受けたままにとどまってほしいと願っている国々が周りにたくさんあることも事実でしょう。

マスコミ人が日本のオピニオンリーダーを自認するのであれば、そのような周辺国に媚びるような立場や、都合が悪くなると「表現の自由」を振りかざすことから脱却し、「我が国が国家として存在し続けるためには何が必要なのか」などについて、広い視野に立って、賢くかつ冷静に考えてほしいと願っています。

ウクライナ情勢や台湾問題などについても他人事のような記事を流し続けていると、気が付いた時は「Too late」になるような気がしてなりません。残念ながら、世論調査などの結果をみるに、日本人の多くがマスコミの動向に左右されるレベルにとどまっている現状からして、国民の覚醒を促すのもマスコミの動向にかかっており、マスコミの責任は重いと思うのです。

わが国の未来のために、安倍元首相の遺志を引き継ぐ責任は、一部の政治家のみではなく、マスコミ人も同様と思います。某教会に付け入る隙を与えてしまったことは猛省しつつ、我が国の未来のために、自分たちは何をしなければならないのかを真剣に考え、行動し、ぜひ国民精神を覚醒させるためにその先頭を走っていただきたいと願っております。安倍氏が提唱した「美しい国:日本」を完成し、子孫の世代に渡すために、です。

▼「温室効果ガス」の排出は5つの「人間の活動」によるもの

 さて本題に戻りましょう。「パリ合意」や「グラスゴー気候合意」において、各国はこぞって「温室効果ガス」の排出ゼロを約束しました。これら一連の合意についての評価や問題点については後述することにして、一体全体、地球上の「温室効果ガス」はどのように排出されているのでしょうか。その分析こそが、実際に何を削減すべきか、あるいはその限界はどこにあるか、などを知るヒントにつながると考えるのです。

「温室効果ガス」の組成をひとまとめにした「二酸化炭素換算」を使用しますと、世界の年間排出量は約510億トンであるということについてはすでに触れました。このあたりは、ビル・ゲイツ氏がまさに天才的な分析を実施しています。

ゲイツ氏は、「温室効果ガス」を排出しているのは5つの「人間の活動」、つまり「ものをつくる」「電気を使う」「ものを育てる」「移動する」「冷やしたり暖めたりする」こととし、これらのすべてについて解決策が必要だと主張しています。解決策は後述することにして、この5つの「人間の活動」によって、どのように「温室効果ガス」が排出されるかについて、ゲイツ氏の指摘に触れつつ、最新データを織り交ぜて整理しておきましょう。

▼「ものをつくる」こと

まず「ものをつくる」ことです。年間約510億トンの31%は「ものをつくる」ことによって排出されています。その筆頭はコンクリートです。これは驚きです。アメリカの1人当たりのコンクリート使用量は270㎏のようですが、最大のコンクリート消費国は中国です。三峡ダムなど巨大な建設に力を入れている中国は、21世紀の最初の16年間で、アメリカの20世紀に消費された総量よりも多くのコンクリートを製造したといわれます。

コンクリートは、石灰石からセメントを作る過程で、1対1のCO2が排出されます。つまり、セメント1トンを作ればCO2も1トン排出されるのです。現在までのところ、炭素を出さずして製造する実用的な方法がありません。

現在、コンクリートは、全体のCO2排出量の約8%に相当する年間40億トン以上生産されています。グローバルセメント・コンクリート協会は、2050年までにカーボンニュートラル達成という目標を発表しましたが、その帰趨は不明です。

次に鉄鋼です。鉄鋼を1トン製造するのに約1.8トンのCO2が発生するといわれます。2050年までに年間28億トンの鉄鋼が製造されると見込まれていますが、世界鉄鋼協会は、同業界だけで世界のCO2排出の7から9%を占めるとしてその削減に躍起になっています。

つい最近(9月14日)、日本製鉄が「製造過程でCO2排出を実質的にゼロにした鋼材を販売開始する」と発表しました。これまで石炭と酸素を使って原料のスクラップを溶かしていたものを電炉に切り替えることによってCO2の削減に成功したようです。当然ながら価格は通常の鋼材に一定額を上乗せすることになるとのことで、今後、このようなニュースが増えることでしょう。

次にプラスチックスです。ゲイツは、プラスチックスの製造段階においては、炭素の半分はプラスチックスにとどまり、しかも分解に長く時間がかかるために、CO2排出にはさほど寄与せず、環境問題へ影響の方が深刻だと指摘しています。

しかし、石油を原料とするプラスチックスは、原油の採掘から輸送、製造から廃棄までのそれぞれの段階でCO2を排出し、その総量は、プラスチックス1㎏につき約5㎏排出することになるようです。

プラスチックスの世界の生産量は、1964年にはわずかに1500万トンしかなかったものが2015年には約3.8億トン、つまりこの50年間で24倍以上になり、今後、毎年3.5%増えていくとのデータもあります。単純計算でも、現時点で年間約20億トンのCO2を排出していることになります。

それ以外にガラス、アルミニウム、肥料、紙など私たちの身近にあるものはすべて、その製造過程において「温室効果ガス」が排出されます。その総排出量は、全体の3分の1に相当するおびただしい量に膨れ上がっているのです。

しかも人口が増えて、かつ人々の生活水準が豊かになるにつれて、これらの鉄鋼やコンクリートやプラスチックスなどの使用量がさらに増えることが予測されることから、「ものをつくる」ことによる「温室効果ガス」の排出量はますます増加することを覚悟しなければならないでしょう。

▼「電気を使う」こと

次にいつも“やり玉にあがる”電気です。年間約510億トンの27%は電気を使うことによって排出されます。

現在、世界の電気は、石炭が36%、天然ガス23%、水力16%、原子力10%、再生可能11%、石油3%、その他1%によって発電されています。つまり、全体の3分の2は石炭や石油などの化学燃料が占めていることになります。

また国によっても、その政策や関連資源の自給率などによって、発電電力量に占める各電源の割合は違います。例えば、アメリカは、石炭が28.7%、天然ガスが34.3%、水力・原子力・再生可能エネルギーを合わせた非化石エネルギーが36.1%と大きく3つにわかれます。イギリスは、石炭・石油・天然ガスの化石エネルギー合計が45.3%、非化石エネルギーが54.7%、フランスが特徴的なのは、原子力が71.6%を占め、化石エネルギーはわずか8.1%に過ぎないことです。

これに対して、ドイツは、化石エネルーが51.4%、原子力が11.9%、再生可能エネルギーが33.8%となっています。ドイツは再生エネルギーの比率を高めるために躍起になっていますが、化石エネルギーの大半をロシアの天然ガスに依存していたため、現在、電力政策の転換を余儀なくされています。そのような中の9月28日、ロシアからドイツに天然ガスを供給する海底パイプラインが爆発したとのニュースが入りました。その原因とドイツの対応に注目する必要があるでしょう。

中国は、若干資料によって差異はあるものの、石炭・石油・天然ガスなど火力発電が69.7%と依然多く、水力・風力・太陽光などの再生エネルギー26.5%、原子力は3.9%にとどまっています。中国は2010年から2017年までに国全体の発電量が52%も増加し、その中で化石燃料の割合を10.8%低下させ、自然エネルギーの割合を8.7%増加させています。一方、石炭の新鉱区開発にも余念がなく、可採埋蔵量は300億トンに増加したともいわれます。

日本は、2019年のデータでは、天然ガス37.1%、石炭31.9%、石油等6.8%、水力7.8%、水力以外の再生エネルギー(太陽光・バイオ・風力・地熱)10.3%、原子力6%となっており、化学エネルギーが69.8%と主要国と比較して大きな割合を占めています。

特徴的なのは、福島原発事故の前の1996年~2010年までは原子力が34~25%を占めていたものが、2012年には2%まで落ち、徐々に再稼働が認められ、現在の6%まで回復していることです。また、2021年には、再生エネルギーが22.4%の割合を占めるなど増加傾向にあります。

ちなみに電力自給率は、2017年ベースでアメリ92.6%、イギリス68.2%、フランス52.8%、ドイツ36.9%ですが、化学エネルギーのほとんどを輸入に頼っている日本は11.8%(2018年)と低い自給率になっています。一方、石炭の割合が多い中国の自給率は81.7%となっています。

ゲイツ氏はまた極めて重要なことを指摘しています。確かに、水力発電所は発電段階ではCO2を発生しないですが、建設段階において膨大な量のコンクリートを使うことによってすでに大量のCO2が排出され、土壌に炭素を含む場所ではダムを建設することによってやっかいなメタンガスも排出されるのです。つまり、場所によっては、石炭火力発電所よりもっと多くの「温室効果ガス」がすでに排出されている場合もあり、これらを相殺するのに50~100年かかるという研究結果も紹介しています。

2019年半ばの時点で、世界中で236ギガワットの石炭火力発電所が建設中といわれます。ここ数十年で電力需要が急増した発展途上国では、石炭や天然ガスが燃料として選ばれています。2000年から2018年の間に中国では石炭による発電量が3倍になりました。これは、アメリカ、メキシコ、カナダの石炭発電量の容量をすべて合わせた数字よりも大きいとゲイツは指摘します。

このような“現実”を受けて、前回取り上げました「パリ合意」や「グラスゴー気候合意」のような「表現」で決着したのでした。

さらに、中国の石炭火力発電所企業はそのコストを75%下げたと主張しているようで、現在、CO2削減要求のゆるいインド、インドネシア、ベトナム、アフリカ諸国などの発電所建設のみならず石炭の供給を合わせて食い込んでいることも明白です。中国やこれらの発展途上国が石炭火力発電を選べば、最も経済的な選択肢にはなりますが、気候変動上は大惨事になる可能性があるということでしょう。私は、このあたりもトランプ前大統領が「パリ合意」を離脱した一要因にもなっていると想像しています。

最後に、後々のために、火力発電に絞って1KW時あたりのCO2排出量を整理しておきましょう。従来型の石炭火力発電は0.867㎏で、それが石油火力発電になれば、0.721㎏と0.14㎏少なくなり、また、液化天然ガス火力発電になると、0.415㎏となり、石炭火力発電の半分以下になります。

最近は石炭火力発電も逐次改良され、ガスタービン複合発電になると0.733㎏の排出にとどまります(中国はこの技術をPRしていると想像します)。それが、最新の液化天然ガスを利用したガスタービン複合発電になると、0.320~0.360㎏とさらに排出量を減らすことができます。いずれにしても、石炭火力発電を使用している間は、脱炭素の実現は不可能と考えるのが現実的なのです。続きは次号で取り上げましょう。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)