我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(52)「気候変動・エネルギー問題」(17)誰がいつから「地球温暖化」を言い出したのか?

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我が国の未来を見通す(52)「気候変動・エネルギー問題」(17)<strong>誰がいつから「地球温暖化」を言い出したのか?</strong>

□はじめに

 皆様、新年おめでとうございます。国内外ともに、今なお悪夢のような思いが残る2022(令和4)年がようやく終わり、2023年を迎えました。年末に新聞に発表された国内、そして世界の「10大ニュース」を眺めますと、昨年は本当に激動の1年間だったことがわかります。

 それらの細部を繰り返す必要はないと思いますが、気になるニュースをフォローしますと、国際的なニュースとしては、何と言っても、「ウクライナ戦争」が年をまたいで今なお一進一退の攻防を広げていることでしょう。年末には突如、ゼレンスキー大統領が軍用セーターのままウクライナ兵の寄せ書きを持参してアメリカを訪問、「我々は絶対に降伏しない」と連邦議会で演説し、さらなる支援を要請しました。

このデモンストレーションは、「ウクライナが自ら戦う意思を示さなければ、アメリカの支援が無駄になる」とする、主に共和党内の支援慎重論の広がりに一定の歯止めをかけたような格好になりました。個人的にも、将来の日本の“有事”の際に米国の支援を得るヒントになるような、このセレモニーがとても印象に残りました。

 これに対して、すでに10万人以上の戦死者が出し、兵士のモラルや能力不足に関するニュースが途切れないロシア軍ですが、プーチン大統領は「米欧は何世紀もロシアの弱体化を狙ってきた。目標は確実に達成されるだろう」などと議会で演説し、新型核兵器の実戦配備やロシア軍定員を現在の100万人から150万人に増強することなどが明白となりました。

 最近は、プーチン大統領が呼びかけたロシア正教のクリスマス(1月7日)停戦もゼレンスキー大統領にきっぱり拒否されるなど、よほどの奇跡でも起きない限り、ウクライナ戦争の早期解決を期待するのはますます難しくなってきたようです。

 国内的には、年末に策定された「戦略3文書」に対して諸外国がどのように反応するのかを注目していましたが、アメリカが「歴史的な内政上の革命だ」として大歓迎する一方で、中国は「軍事大国への邁進の口実であり、戦後の安全保障政策の明らかな転換を意味する危険なシグナルだ」などと大反発していることがニュースになりました。

すでに軍事大国になっている中国から批判される筋合いは毛頭ないですが、国内にはこのような論調に同調する“向き”が必ず存在することは明らかでしょう。

 その3文書の中の「国家安全保障戦略」について、どうしても気になった内容があります。少し触れておきますと、核戦力に関する記載内容です。「核の脅威」について、「(中国は)十分な透明性を欠いたまま、 核・ミサイル戦力を含む軍事力を広範かつ急速に増強している」と記述し、北朝鮮についても「核戦力を質的・量的に最大限のスピードで強化する方針であり、ミサイル関連技術等の急速な発展と合わせて考えれば、 北朝鮮の軍事動向は、我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている」としています。

それに対して、「核の抑止」については、「我が国の安全保障の戦略的アプローチ」の2番目に掲げている「我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築」の中で、「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために、米国と緊密に連携していくとともに、併せて弾道ミサイル防衛や国民保護を含む我が国自身の取組により適切に対応する」とさらっと記述されているのみなのです。

つまり、「核の脅威」が大幅に増していると認識しながらも、その抑止については、自らは弾道ミサイル防衛を強化するなど以外に何ら新たな政策を打ち出しておりません(当然ながら、私自身も打ち出せない背景は熟知しております)。

さらに、「世界で唯一の戦争被爆国として、核兵器使用の悲惨さを最も良く知る国であり、『核兵器のない世界』を目指すことは我が国の責務である」とか「我が国は、世界で唯一の戦争被爆国として、『核兵器のない世界』の実現に向けて引き続き積極的に取り組む」などの表現が繰り返されていますが、それらをあざ笑うかのように、「中国は(現在の約1000発から)2035年までに1500発の核弾頭を保有する可能性がある」とアメリカ国防総省が発表し、また年始にあたり、金正恩が「戦術核や核弾頭を飛躍的に増やす」と明言しました。

これらを照らし合わせれば、国家安全保障戦略の柱となる要素が増加しつつある「核抑止」については、相変わらず“米国頼み”以外の選択肢がない状態に終始しているばかりか、「核廃絶」という“現実離れした政策”が混在していると言わざるを得ないのです。

 G7サミットが念頭にあるとは言え、世界の国々のどこが「核非保有国であるが、被爆国の日本が言うのだから聞いてやろう」と同調するのでしょうか。私は、国のリーダーにとって最も大事なことは、広島・長崎の悲惨さを訴えることではなく、「二度と広島・長崎の経験をしないために我が国はどうすればよいか」を政策判断し、国内外に訴えることにあると考えます。現下の情勢から、これまでタブー視されてきたこの議論に“風穴を開ける”時が来たと思うのですが、期待外れでした。

国連の場やG7で、理想を求めて「核廃絶」を議論するのは必要でしょうが、国家安全保障戦略の中で「核抑止」と「核廃絶」をごっちゃにして掲載するというのはどうしても疑問が残るのです。皆様はどう思われるでしょうか。3文書の中の他の話題については後日触れることにしましょう。

▼地球寒冷化の主張

 

昨年は気象的にも不思議な1年だったと思います。代表的なものとして、ヨーロッパや中国では降水量の少ない日が続き、“ひでり”被害により小麦などの成長に大きな影響を与えたばかりか、パキスタンでは国土の3分の1ほどが水没するという同国史上初めての大水害がニュースになりました。

我が国においては、6月下旬から9月ごろまで超ロングな夏を迎えたかと思えば、年末年始には例年にはなかったような寒波が日本列島を3度も襲い、日本海側は異例の大雪に見舞われ、普段は雪が降らない高知県や鹿児島県などにも雪が降りました。

夏の間は「この異常気象は人為的CO2を原因とする地球温暖化のせい」と主張する専門家やメディアばかりでしたが、さすがに冬の異常気象を「温暖化のせい」と論陣を張る人はおらず、威勢のよかった温暖化論者達も“冬休み”なのかと思っていたところ、ヨーロッパは異例の「暖冬」とのニュースを知りました。本音を言えば、最もCO2排出の削減努力をしている(ように見える)ヨーロッパが「なぜ暖冬なのだろうか」と不思議な感覚に陥りました。

実は、新年より「気候変動・エネルギー問題」第2幕の「エネルギー問題」に移ろうと考えていたのですが、どうしても「誰がいつから『地球温暖化』を言い出したのか」を調べておかないと前に進めないような気持ちになり、改めてその歴史を振り返ることにしました。これについては、すでにしっかり調べている人たちがおりますので、“受け売り”で申し訳ないですが、概要を紹介しましょう。

繰り返しますが、地球の平均気温は1940年代から1970年代中頃までは低下傾向にありました。これがあって、1960年の初めから、マスコミはこぞって「寒冷化の恐怖」をあおっていました。

1970年代になると、「気温低下を疑う余地がない」という雰囲気になってきたようです。一方、CO2の排出量は1940年代から激増して現在も続いていますが、不思議にも、当時はだれも「平均気温とCO2の関係」には注目していませんでした。

当時の主要な新聞や雑誌の見出しを紹介しましょう。今では隔世の感があることがわかります。「人間の活動が招く次の氷河期?」(1970年1月15日、ロスアンゼルス・タイムス紙)、「氷河期の接近を科学者が警告」(1971年7月9日、ワシントン・タイムス紙)、「冷えていく地球」(1975年4月28日、ニューズウィーク誌)、「寒冷化に備えよう」(1979年10月12日、スポーカン・ディリー・クロニクル紙)などです。

前にも紹介しましたが、我が国の元気象予報士・根本順吉氏の『氷河期に向う地球』をはじめ同趣旨の4冊の書籍もこの“流れ”にあった主張だったのでしょう。ちなみに、1960年代から80年代までの間に、300篇ほどの「地球寒冷化」学術論文が出ているようです。

▼「寒冷化」から「温暖化」へ

ところが、1970年代末になると、寒冷化は底を打ち、気温が上昇に転じたように見えました。その頃になると、研究者たちが手の平を返したように「気候変動(CO2による温暖化)」を警告し始め、米国政府や国連なども強い関心を寄せ、大きな動き(流れ)ができ始めたようです。そして1980年代になると、「寒冷化」はすっかり忘れ去られ、「人為的CO2による温暖化」が世界レベルの話題になったのでした。

1980年代の末にソ連が解体し、冷戦が終焉しますが、その兆候が見え始めた80年代、「世界の調整役としての国連が『次の仕事』を探していた」とか、「当時、人為的CO2の大部分を先進国が出していたことから、先進国に『CO2のペナルティ』を課し、その富を途上国にまわせば平等化に役立つと考えた」など、何とも胡散臭い政治的理由も見え隠れしているとの指摘もあります。

そして、1988年11月には、(これまで何度も登場しています)IPCCを設立され、「地球温暖化」が国際政治の“道具”になりました。その少し前の1988年6月23日、NASAのジェームズ・ハンセンが米国連邦議会上院で「人為的CO2による温暖化の危機」を訴え、「何もしなければ、30年後(つまり2018年)に地球の気温は約1℃ほど上がる」と予言して話題になったようです。

その予言は的中したのでしょうか? 今日まで様々な形で人為的CO2の削減の努力をしたにもかかわらず、CO2はほぼ一直線に増え続けしていますが、現実の気温上昇は、これについてもすでに紹介しましたように、都市化効果による「加工」後の地上気温であっても、せいぜい0.3℃の上昇に留まっています。

2010年10月、IPCCの第4次報告の第3巻「対策」の代表執筆者だったオトマー・イーデンホーファーによる次のような証言も残っているようです。「国連の気候政策は、気候変動そのものはどうでもよくて、世界の富を再分配するためのものなのです」(同年11月18日、ニュースバスターズ記事より)。

IPCC設立の趣旨を読み、「IPCCは、温暖化が“事実かどうか”を問う姿勢はなく、気候変動(人為的CO2による温暖化)をリスクと決めつけ、どんな影響があるか、どんな対策をすべきかを考える組織」と評価する見方もあります。そうなると、「人為的CO2による温暖化が大問題ではないとわかった瞬間にIPCCは存在意義を失う。だから組織の存続には『温暖化はあぶない』と叫び続けなければならない」ということになるのだそうです。

実際に、これも紹介しましたが、世界気象機関とともにIPCCを設立した「国連環境計画」は、2022年10月28日、「今世紀末までに気温上昇が2.8℃上昇する、2030年までの温室効果ガス削減目標を達成しても2.5℃上昇する」と発表したことがニュースになりました(産経新聞)。日本人のほとんどは覚えていないと思いますし、新聞もなぜか全く指摘しなかったのですが、この国連環境計画は、2015年の時点では「このままでは今世紀末4℃上昇まっしぐら」、2020年の時点では「気温が3.2℃上昇するペースで進んでいる」と警鐘を鳴らしていました。

発表するたびに、少しずつ上昇幅が小さくなるのは、「人為的CO削減努力が功を奏している」との見方もできるのですが、実際には、彼らが根拠にしている大気中のCO2濃度の推移グラフもこの間の平均気温の上昇率にも、化石燃料由来のCO2排出量の削減効果があって変化したようには見えません。

それとも、(表現が難しいですが)「叫び続ける警告の幅が“現実に近づき”つつある」のかも知れません。個人的にはとても興味を持っており、いつかは不明ですが、次の発表を楽しみにしています。

▼TCFDについて

 

「気候変動問題」の最後に「TFCD」を取り上げておきましょう。正確には、「気候関連財務情報開示タスクフォース」(Task Force Climate-related Financial)の略です。2015年の「パリ協定」が採択されて以降、企業も「脱炭素」や「カーボンニュートラル」に取り組むことが求められ、世界中で「TFCD」をはじめ、「RE100」(事業で使用する電力を再生可能エネルギー100%化するコミット)、「SBT」(企業における温室効果ガス排出削減目標)などのイニシアティブが設立されています。

環境リスクを考慮している企業の方が「安全性が高い」と判断され、投資の対象になりやすいことから、ESG投資が活発化していますが、企業のIR情報だけではそれらの比較が難しく、本当に環境リスクを考慮しているのかどうかということを判別できません。

そこで「TCFD」は、年次の財務報告において、財務に対する影響の一貫性、比較可能性、信頼性、明確性をもつ効率的な気候関連の財務情報開示を企業へ促し、(細部は省略しますが)「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目、つまり、どのような経営体制でリスクを分析し、実際の経営に反映しているか、そして短期や長期などの期間ごとに分けた経営への影響を考えているかなどの具体的な内容の開示が求められています。そしてこの結果として、投資家などが投資・貸与・保険引き受けを行なう際に適切な投資判断をすることを促すとしています。

2022年5月31日現在、「TCFD」に対して、世界全体では金融機関をはじめとする3395の企業・機関が賛同を示し、日本では877の企業・機関が賛同の意を示しております。つまり、日本の企業などが世界の約4分の1を占めているという、“前のめりの状態”となっています。また、日本では、2019年に企業や投資家が情報開示のあり方を議論する「TCFDコンソーシアム」を立ち上げ、20年には業種ごとの対応方法や事例集をまとめました。

個人的な体験として、会社の経営陣に対して、TCFDに関するコンサルテング会社が説明する現場に立ち会ったことがあります。気候変動問題には多少ならぬ疑念を持っていたことから、このような条件が東京証券取引所のプライム市場の上場基準であったとしても、「気候変動問題についてほとんど議論する前にここまで来てしまったか」と何とも不思議な感覚に陥ったことをよく覚えています。

当然ながら、株主総会においては、「TCFDの提言に賛同を表明するとともに、TCFDコンソーシアムに加盟しています」と報告したことは言うまでもありません。

 我が国には「長いものには巻かれろ」ということわざがありますが、企業にとっては、少々非効率な経営であっても、それによって企業価値が高まり、投資家に評価されればよいわけですし、投資家にとっては、本事業以外にサステナブルな問題にも積極的取り組んでいる企業価値を衆目が評価するだろうと予測して投資心理が促されことを考えれば、両者にとって特段の問題はないのでしょうが、その本来の目的と効果について、さらなる議論と理解が必要であると私は考えます。

 次回以降、「エネルギー問題」に絞って、現状と将来について読者の皆様と一緒に考えてみたいと思います。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)