我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(8) 少子高齢化問題(8) なぜ「少子化」が進むのか?

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我が国の未来を見通す(8) 少子高齢化問題(8) なぜ「少子化」が進むのか?

□はじめに

メルマガ読者の皆様、あけましておめでとうございます。オミクロン株の拡大を気にしながらも、何とかいつもの正月を迎えることができたというところでしょうか。

 私は、年末の慌ただしいなか、沖縄の石垣・武富・西表・由布島4島巡りツアーに参加しました。1年前から計画して、ようやくワンチャンスで実現した久しぶりの沖縄旅行でしたが、目的の1つに、今や国防の第1線である八重山諸島の「空気」を確かめることもありました。

 現地では、石垣港内に10隻ほどの海上保安庁艦艇が待機しているのを目にして、尖閣諸島警備のための拠点になっていることを確認しました。しかし、コロナ禍もあっていつもは中国本土や台湾からの旅行者であふれている(らしい)島々は平穏そのもので、島民の皆様にも「いつか戦場になるかも知れない」などの不安感を感じることはできませんでした。

八重山諸島は、沖縄戦では艦砲射撃を受けた程度で上陸もなく、大きな被害を受けることはありませんでしたので、沖縄本島の皆様とは意識が違うのかも知れません。逆に、(保守系)の現市長に対して「市民の力で市長を代えよう」と書いた共産党の街頭宣伝カーが目に入りました。現下の情勢に及んでもこのような主張をしている意図については説明する必要ないでしょう。

 年頭にあたり、中国警戒論を唱える声が大きくなりましたが、私もいよいよ日本の「覚悟」が試される時が来たと考えます。歴史上は、ヒトラーの野心を見抜けなかったチェンバレン英国首相の「宥和政策」が第2次世界大戦を引き起こしたとしてあまりに有名ですが、現在の中国情勢はあの時とよく似ていると指摘されています。

香港はすでに消滅の危機にありますが、香港の次は台湾、台湾の次は東シナ海や南シナ海、やがて沖縄、朝鮮半島、日本列島・・・この“歴史は繰り返す”ような「悪夢」を何としても防ぐ必要があります。

そのためには、中国の現状変更路線に対して断固として戦うとのシグナルを送り続け、そのための体制を強化することに加え、ヒトラーと同じことを企てれば、やがて同じ運命になることをあの手この手で教えてやることも必要でしょう。

 日本とは思えないような、西表島のマングローブの原生林や水牛車に乗って渡る由布島、そして、時間が止まっていたかのような武富島の古民家集落、石垣島のあくまで青い海と絶景・・・八重山諸島は東京から2000キロも彼方にある島々ですが、台湾まではわずかに270キロほどの距離しかなく、現代戦では同じ「戦場」と言っても過言でありません。

現地に立って東シナ海を眺めながら、これらの島々の「平穏」が未来永劫に続くことを祈りつつ石垣島を後にしました。

▼世界の「平均出生率」(合計特殊出生率)

 さて、本題に戻りましょう。これまで我が国の「平均出生率」が低下傾向にあることを取り上げましたが、外国はどうなっているのでしょうか? 我が国の少子化対策を取り上げる前にチェックしておきたいと思います。

 世界の人口は、1998年には60億人、2011年70億人、2021年79億人と増加傾向にあります。そして国連経済社会局人口部は、「世界の人口は今後30年で約20億人増加し、2050年に世界の人口は97億人に達する」と推計しております。

 それを証明するように、現在の世界の平均出生率は2.42もあります。各国のランキングは、ニジェールの6.9を筆頭に、ソマリア6.1、コンゴ・マリ・チャド5.9などアフリカ諸国が続きます。ここに貧困、食料、環境に絡む問題が内在するのですが、それらはのちほど取り上げることにしましょう。

 主要先進国の出生率は、フランス1.88、米国1.73、イギリス1.68、ドイツ1.57、カナダ1.50など、軒並み2.0以下ですが、日本の1.34よりかなり高い数値を維持しています。特に、フランスの1.88は驚異です。その背景などものちほど取り上げます。

 ちなみにアジア諸国は、インドが2.22、中国が1.69、香港が1.07、台湾が1.06,韓国に至っては世界最下位の0.98です。最新の数字では0.84ともいわれ、「1」を下回る「異常事態」が3年連続で続いており、回復の兆しが見えないようです。これらから、日本を含む東アジア諸国は、今後、人口減少に拍車がかかると予想されます。

我が国の参考になるので少しだけ補足しておきますが、中国の場合は、昨年5月、10年に1度の国勢調査に基づいて公表された最新の平均出生率は、さらに低い1.3という衝撃的な数字になっていました。しかも男女比が118人(男子)対100人(女性)(通常値は、106人(男子)対100人(女子))という異常値を示しています。

 これは、出生前の性別判断が可能となって女子の選択的堕胎が行なわれている結果といわれ、中国の将来の人口構成に大きな歪みをもたらすだろうと分析されています。中国政府は慌てて「3人子」政策に舵を切ったようですが、統計データそのものの信憑性に対する疑いもあって、楽観視はできないとの見方が一般的です。

韓国にあっては、若者の雇用不安(非正規職が多く、正社員になりにくい、失業率が高い)や住宅費負担が大きいなどの構造的な要因に加え、コロナ禍の影響で、今年は0.7台、来年は0.6台まで減少すると見積もられています。婚姻件数も年々下回っていますので、若者の間には「結婚するどころではない」という意識が強まっているようです。

また、香港や台湾は、政情不安から子供たちの代に苦しみを体験させたくないという将来へのネガティブ意識が根底にあるようです。

▼我が国の「婚姻率」と「離婚率」

 さて我が国の「少子化」が進んでいる要因を分析し、それぞれについて、これまでいかなる対策がとられてきたのか、今後どうすべきか、などについて考えて行きたいと思います。

まず「婚姻率」ですが、厚生労働省の発表によると、2020年の婚姻件数は52万5490件で、「婚姻率」は前年比0.05%減の0.43%(推計値)です。「婚姻率」とは現在、婚姻している人の割合ではなく、人口全体における結婚の発生頻度を示しています。日本の婚姻率は戦前から1971年頃までは0.8前後で推移していましたが、その後は年々低下傾向にあり、2020年はコロナ禍の影響もあってここまで落ち込んだのでした。

 また、男女の未婚状況を示す指標の一つに「生涯未婚率」があります。この数値は、「45~49歳」と「50~54歳」未婚率の平均値から「50歳時」の未婚率を算出したもので、生涯独身を通す人がどのくらいいるかを示す統計指標として使われています。

 男性の「生涯未婚率」は、1985年頃から上昇傾向にあり、2020年に25.7%に達し、2040年頃には29.5%に達すると見積もられています。女性の場合は、1975年からほぼ横ばいであったものが、1995年頃から上昇に転じ、2020年には、16.4%、2040年頃には18.7%に達するようです。

 男女とも穏やかな上昇が続くと予測されていますが、2040年頃の男性の生涯未婚率が約3割、つまり3人に1人は生涯独身を貫くというデータは衝撃的です。

次に「離婚率」です。「離婚率」も「婚姻率」同様、人口全体における離婚の発生頻度を示しています。我が国の場合、0.1~0.2%の間で推移してきましたが、2002年には最高値の0.23%を記録しましたが、直近数年間では0.2%を切って漸減する傾向にあり、2020年は0.16%です。

 また、「特殊離婚率」という指標もあります。単純に離婚数を婚姻数で割った数字で、我が国は、1998年以来20年以上、30%を下まわったことがありません。よく言われる「3組に1組は離婚する」という指摘はこのことを指しています。この解釈については異論もありますが、歴史的には日本は元々「離婚大国」であるというデータも残っています。

 総じて、「婚姻率」の減少が「少子化」の主な要因となっているのは間違いないでしょう。その原因としては、短期的には経済的な問題、中長期的には男女間の価値観の移り変わりや社会環境の変化が影響していると考えられています。その上、「婚姻率」は、何か「社会的な変化」がない限り、今後もなだらかな形で低下し続けるだろうと見積もられています。

「『婚姻率』増加のために、どのような『社会的な変化』を引き起こすか」は、「少子化」対策の点からもカギの1つになりそうです。この続きは次回取り上げましょう。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)