我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(7) 少子高齢化問題(7) 高齢化対策の現状(その2)

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我が国の未来を見通す(7) 少子高齢化問題(7)  高齢化対策の現状(その2)

□はじめに─「終身雇用制度の崩壊」について─

 振り返りますと、我が国の最近の雇用環境の大変革には目を見張るものがあります。当然ながら、その時代時代の特性を踏まえた雇用政策には長い歴史があります。中でも、2001年以降は、人口減少・少子高齢化、国際化・情報化の進展、就業構造の変化などの経済・社会構造の変化に加え、就労者の意識や価値観の変化を踏まえてさまざまな「手」を打ってきたことがわかります。

細部に触れる余裕はありませんが、戦後の雇用形態の典型のように考えられていた「終身雇用制度」もすでに崩壊しています。冒頭にそれを示すデータを紹介しておきましょう。

生産年齢層の世代別(5年刻み)の転職回数のグラフがありますが、入社以来、転職なしで終身雇用のパスを歩んでいる男性は、20代後半で約60%、30代後半で約42%、40代後半で約38%、50代後半で約32%に減少します。つまり、1つの会社に就職し、無事に定年を迎える男性就労者は3人に1人のみとなっています。

女性の場合は結婚し、出産や子育てがあることからさらに低く、20代後半から約41%と減り始め、30代後半には約17%、40代後半には約10%、50代後半にはわずかに約7%まで低下します。この男女の差異の中にさまざまな問題を包含しているのは明白ですが、細部はのちほど触れることにしましょう。

これらから、すでに「転職は当たり前」の時代になり、就労側も「自分のやるべきことを理解し、自分自身の価値を高めることができれば、変化する時代の中で優位に立つことができる」との意識が芽生え、リカレント教育や各種セミナーの受講など仕事のかたわら、「将来への備え」を着々と行なっているというのが実態のようです。

▼「働き方改革」などによる高齢者雇用の確保

 前回触れました「生涯現役社会の実現」あるいは「一億総活躍時代」実現のために、政府が先頭に立って推進してきた雇用政策の1つに「働き方改革」があります。

その目的は、厚生労働省の解説によれば、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面し、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、「就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作る」ことにあり、「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする」ことを目指すとされています。

 「働き方改革」の関連法は2018年7月に公布されていますが、高齢者雇用の確保については、2013年に制定された「高年齢者雇用安定法」に基づく雇用確保処置として、定年年齢を65歳未満としている事業主に対して、①65歳まで定年年齢を引き上げ、②希望者全員を対象として、65歳までの継続雇用制度を導入、③定年制の廃止、のいずれかの措置を義務付けました(2025年3月31日まで経過措置あり)。

 この結果、大企業と中小企業で少し差異はありますが、全企業の約8割が継続雇用制度を採用し、2割弱の企業が定年の引き上げに踏み切りました。ただし定年制廃止はわずかに3%弱でした。

 それ以外の高齢者雇用政策としては、「生涯現役社会支援窓口」を設置、シルバーセンターの高齢者雇用要件を週20時間から40時間に緩和、さらに高齢者雇用安定助成金の支給や環境整備支援なども行なっています。

▼「高年齢者雇用安定法」改定

 上記はあくまで「65歳定年」の義務化を促す政策でしたが、「生涯現役社会の実現」に届かなったことは明白です。そのわずか7年後の2020年4月、政府は、「70歳定年」を目指した「高年齢者雇用安定法」改正を交付し、今年4月1日より施行されています。

 本改正は、まさに、少子高齢化の急速な進展と、労働人口が減少する環境下で経済社会の活力を維持するために、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整えることを目的に行なわれました。

その中で、70歳までの就業機会を確保するため「70歳までの定年引上げ」「定年制の廃止」「70歳までの継続雇用制度導入(再雇用制度、勤務延長制度)」の3本柱を「努力義務」と位置つけました。この「努力義務」とは、「現時点では義務として強制するまでの社会的な合意を得ることが難しく、時期尚早であるが、将来的には義務化していく方向にある」との意味と解説されています。

また上記に加え、他社への再就職支援、70歳まで業務委託契約を締結する制度の導入、そして社会貢献活動などを支援する制度も新設されました。

これらの結果、「令和3年版 高齢社会白書」(内閣府発行)によれば、従業員31人以上の企業約16万社のうち、「定年制廃止」「65歳以上定年」「継続雇用制度」などの経過措置適用企業を含めれば、高年齢者雇用確保措置を実施済の企業の割合は99.9%に及び、うち希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は80.4%となっています。その中で、約2割弱の企業は、すでに「70歳以上まで働ける」措置を完了しているともいわれます。

「高年齢者雇用安定法」改定に基づく実際の高年齢者雇用は、コロナ禍の影響もあって本改正で求めたような実施には至らなかった可能性はありますが、ポストコロナで企業の業績が回復すれば、我が国の雇用制度は実態として「70歳定年」に近づくと予想されます。そうなれば年金の受給開始年齢も現行の65歳から徐々に引き上げられることも十分予想しなければならないでしょう。

▼地方自治体の取り組み

 さて「生涯現役社会」の実現のため、地方自治体はどのような政策を実行しているのでしょうか。

 厚生労働省は、団塊の世代全員が65歳に到達し、その多くが活動の場を自身の居住地域などに移していることから、これらの層を含む高年齢者が地域社会で活躍できる環境を整備していく必要があると認識し、「高年齢者雇用安定法」に基づき、高年齢者及び地域のニーズなどを踏まえた創意工夫のある事業構想を選定し、その事業の実施を委託しています。

本事業は、地方公共団体が中心となって、地域の関係機関で構成する協議会を組織し、高齢者の就労希望ニーズに応えつつ、高齢者の力を活かすことを企画した事業となっています。

募集は2016年度以降開始され、2021度まで、全国の都道府県や市町村を合わせて累計114団体によって、各地域の特性を活かしたさまざまな事業がすでに走っており、年々増加傾向にあります。

地方自治体の中には、千葉県柏市のように、市内に高齢者居住者が増加傾向にあるとの特性をとらえて、市内の大学やUR都市機構と三者協定を結び、独自の「長寿社会のまちづくり」を進めている地域もあります。厚生労働省の募集よりも早い2010年からスタートしたようです。

柏市は、「Aging in Place」を合言葉に、高齢になっても住み慣れた地域で、人とのつながりや今までの生活環境を大切し、安心して暮らし続けられる仕組みを考案、あわせて、在宅医療の推進など地域包括ケアシステムの構築も進めています。

▼「エイジフリー時代」の到来

 さて、 一般社団法人「定年後研究所」所長の得丸英司氏は、これまで縷々取り上げてきたような近年の雇用環境の大幅な変化や高齢化の特性などを踏まえ、「65歳以上を一律に『高齢者』と見るのはもはや現実的でない。年齢による画一的な考え方を見直し、全ての世代の人々が希望に応じて意欲・能力を活かして活躍できる『エイジフリー社会』を目指す」(「『定年後』のつくりかた」より)べきと提唱しております。

すなわち、高齢者の健康面や意欲、能力などの面で個人差が存在するという高齢者雇用の多様性を踏まえ、一律の処遇ではなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築するというのです。このことは、裏を返せば、健康面はもちろん、意欲や能力のない者は評価されず、最悪、仕事にありつけないことを意味します。

そして、長寿最先進国の日本は、先人がたどったことがない「わだち」のない道、つまり、自ら進路を決める「自走人生」を歩まなければならいと提言しています(同)。

まさに「『人生100年時代』をいかに生き延びるか」、言葉を代えれば、「生涯現役社会の実現」は、国民一人ひとりの自覚(意識)と努力に賽(さい)は投げられているともいえるでしょう。

内閣府が行なった60歳以上の就労者の調査によると、「いつまでも」を含めると7割以上の就労者が「70歳前後まで働きたい」との就労意識を保持しているようですが、すでに高齢者の域に達している人たちにとっても「老け込むには早過ぎる」といえるでしょう。

 総じて、「高齢化」対策は十分とは言えないまでも着々と進展しているような気がします。我が国の未来にたちはだかる問題としてより深刻なのは「人口減少」と「少子化」であることは明白でしょう。

 次回以降、一緒に考えて行きたいと思います。

 皆様、良いお年をお迎えください。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)