我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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【我が国の未来を見通す(9)】少子高齢化問題(9) なぜ「少子化」が進むのか?(続き)

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【我が国の未来を見通す(9)】少子高齢化問題(9) なぜ「少子化」が進むのか?(続き)

□はじめに

 10日、ようやく靖国神社に初詣してきました。毎年、正月三が日というわけには行かないのですが、初詣は靖国神社と決めております。今年は時間がありましたので、久しぶりに遊就館も見学してきました。

 遊就館の展示についてはだいぶ前に「偏(かたよ)っている」として物議をかもしたことがあり、わりと高名な保守の論客さえさえ批判していたことを覚えています。私は、昨年、『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』を上梓したこともあって、今年は「歴史をどのように伝えているか」という視点を重視して見学しました。

 その結果、批判されたこともあるのでしょうか、「そこはかとなく遠慮している」という率直な印象を持ちました。つまり、遊就館のような英霊を讃え、紹介する施設であっても、これほど気を使わなければならないところに、我が国の戦後の歴史観や国家観が凝縮されていると感じました。

 遊就館の正面入り口の奥に東京裁判のパール判事の碑があります。平成17年に建立されたとありますので比較的新しい碑です。そこにはこう書いてあります(パール判事の東京裁判「判決書」の末尾の1節です)。
時が熱狂と偏見とを
和らげた暁には
また理性が虚偽から
その仮面を剥ぎとった暁には
その時こそ正義の女神は
その秤を平衡に保ちながら
過去の賞罰の多くに
そのところを変えることを
要求するであろう
 偶然にも、1月13日の産経新聞紙上「正論」で、江崎道明氏が『パール判事の予言を現実のものに』と題して、同じ文を引用していました。

 パール判事の碑を前にして、そろそろ、熱狂や偏見、そして虚偽の仮面を?ぎとってもいいのではないか、その結果として、過去の賞罰の考え方を変更してもいいのではないか、と感じることでした。そして、ここにこそ、靖国神社の本心、英霊に対する想い、そして今は言いたくても言えない歴史観があるのではないか、とも考えました。

 いつも参拝するたびに感じることは、参拝者の多くに若者が多いことです。たまたま成人式だったこともあって、晴れ着姿の女性集団もおりましたが、一瞬、「日本はまだまだ大丈夫だ」と感じました。読者の皆様も年に一度ぐらいは靖国神社を参拝されてはいかがでしょうか。ぜひ遊就館にも足を運んでいただき、我が国の歴史を感じ、英霊に感謝し、哀悼の誠を捧げていただきたいと願っております。

▼「晩婚化」「晩産化」の実態

「なぜ『少子化』が進むのか?」をもう少し続けましょう。前回の続きで、「晩婚化」「晩産化」にも触れておきます。「晩婚化」は世界的な現象といわれています。かつては進学や就職をせずに親の縁談で伴侶(はんりょ)を見つけて嫁ぐというのがどこの国でも当たり前で、女性の平均初婚年齢は10代後半でしばらく推移してきました。

 しかし、特に先進国にあっては、進学率が高くな
り、平均初婚年齢は次第に20代へとシフトし始めました。この傾向は、高学歴を必要とする専門知識が求められる職種の増加、学歴重視の雇用者意識、女性の社会参加、看護や福祉のような女性が中心的な労働力を占める職種の社会的地位の向上、女性の経済的な自立と就業意欲の高まりなどを背景として年々加速し始めました。

我が国あってもこれらの傾向は例外でなく、晩婚化の傾向に拍車がかかり、最近では男女とも30代になっても独身を続けることに抵抗感がなくなってきました。

 男性の収入も結婚を左右する要因になっています。

 男性の収入も結婚を左右する要因になっています。実際に、男性の所得が高くなるほど結婚した男性の割合が高くなり、20~30代の正規雇用で働く男性が結婚する割合は、非正規社員の男性の約2倍になっているとの調査結果もあります。また、30歳代は男性の正規就業者の未婚割合が30.7%であるのに対して、非正規就業者は75.6%となっているようです。

 これらから、平均初婚年齢は、1970年には男性が26.9歳、女性が24.2歳だったのに対して、2019年は、男性が31.2歳、女性が29.6歳と、約50年の間に男性は約4歳、女性は5歳半、「晩婚化」したことになります

他国との比較では、スウェーデンの男性の平均初婚年齢は36.6歳(1917年)であるなど、欧州の先進国は軒並み日本より「晩婚化」が進んでおります。すでに触れたように、韓国も日本より平均初婚年齢が高くなっており、世界全体で見れば日本の平均初婚年齢がさほど高いわけではありません。

 そして、女性の初婚年齢の上昇は即、「晩産化」に直結します。実際に、第一子出生時の母親の平均年齢については、平均初婚年齢の約1年後という統計が出ており、2019年での第1子出生時の母の平均年齢は30.7歳となっています。その結果、母親の年齢的な問題から子供を産む数にも制約がかかってくるのは当然なのです。

▼子供が何人ほしいか?

 次に、実際に結婚したカップルが何人の子供をほしがっているか、あるいは実際に何人の子供が育てているか、に話題を移していきましょう。

まず、「子供が何人ほしいか?」については、日本トレンドリサーチの調査結果によりますと、既婚者で子供がいない夫婦で「将来的に子供がほしいか」の問いに対する回答は、「思う」が32.6%、「思わない」が67.4%であります。

諸般の事情があるにせよ、子供を持たない夫婦の約7割弱がこれからも「ほしくない」と回答していることは驚きです。そして「子供がほしい」と回答した夫婦を対象にした「何人ほしいか?」の問いに対しては、1人が26.5%、2人が55.9%、3人が14.4%、4人以上は3.3%と回答しています。

「1人」と回答した理由は、(1)1人の方が愛情を
注ぎやすい、(2)2人以上は養育費などが高くなり大変そうだから、(3)経済的に無理だからなどが続き、「2人」と回答した理由は、(1)1人より2人の方が賑やかで楽しいから、(2)3人以上だと学費関連が困る可能性があるから、(3)男と女の子1人ずつほしいから、(4)子供同士で兄弟がいた方がよいと思うから、などが挙げられています。

 実際の子供の数はどうでしょうか。これまで紹介してきた「平均出生率」とは、未婚・既婚にかかわらず15~49歳までの女性が生涯に産む子供の平均数を現していましたが、これに対して、結婚持続期間の15~19年の夫婦の平均出生数を示す「完結出生児数」という指標があります。

この指標は、1940年からおおむね5年ごとに調査されています。が、1940年が4.27人、1962年が2.83人、1982年が2.23人、2010年1.96年、2015年は1.94人と減少傾向にあることがわかります。

実際の子供数も3人以上が減少傾向、2人がほぼ横ばい、1人が倍増、0人もやや増加傾向にあります。つまり、現在は、子供は1人か2人という夫婦が定型的になっているようです。

ちなみに、婚姻関係を結んでいない両親から生まれた子供を「婚外子」あるいは「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」と呼称されています。世界的には、スウェーデン、デンマークなどの北欧でその出生率が高く、米国、フランス、英国、カナダなどの先進国では増加傾向にあります。

日本においては、「日露戦争」後、1910年の9.44%をピークに下降し,現在は1%前後という非常に低い数字にとどまっています。この差異は、結婚と妊娠に対する考え方の違いによるところが大きいといわれています。これについてはのちほど取り上げましょう。

▼「少子化」の背景にある「直系家族」

フランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニエル・トッドは、自著『老人支配国家─日本の危機』の中で、日本の「少子化」の原因は、「絶対核家族(親の遺言で相続者を指名)」の米英や「平等主義核家族(平等に分割相続)」のフランスなどと比し、「家族」を重視することで優れた社会の基礎を築いてきた日本の「直系家族(長男相続)」という家族構造にあると指摘しています。まさに、前述した結婚と妊娠に対する考え方の違いの根本と言えるでしょう。

トッドはまた、現実には、もはや子育てや介護をすべて「家族」で賄(まかな)うことは不可能なのにもかかわらず、「家族」を過剰に重視し、子育てや介護などすべてを「家族」に負担させようとすると、「非婚化」や「少子化」が進み、逆に「家族」そのものを消滅させてしまうのだと主張します。

そして、日本の「直系家族」を重視して社会的秩序や高い教育水準などを維持してきた“完璧さ”は、日本の長所であるとともに短所に反転することがあるとして、「家族」を救うためにも公的扶助によって「家族」の負担を軽減する必要があると提案しています。

昨今、日本の「直系家族」の伝統が少しずつ変わりつつあることも事実のようですが、傾聴すべき提案と考えます。これものちほど触れることにしましょう。

▼総括──少子化が進む要因

 長くなりますが、「少子化」が進む要因は、総括すると以下のようにまとめることができると考えます。

日本の平均出生率は、世界の平均と比べてかなり低く、主要先進国と比較しても低く、かつ減少傾向にある。その要因として、

1)「婚姻率」が低く、「生涯未婚率」も増価傾向にある。

2)「離婚率」も決して低くなく、「特殊離婚率」は30%を超えており、「3組に1組は離婚する」が現実のものになっている。

3)平均初婚年齢は、世界の国々と比較して決して高くはないものの、年々高くなる傾向、つまり「晩婚化」が進展し、その結果として「晩産化」も進んでいる。

4)子供をほしがらない夫婦も7割弱存在し、「何人の子供がほしいか?」の問いにも「2人以下」が8割強となっている。

5)既婚の夫婦が実際に何人の子供を産むかを示す「完結出生児数」も減少しており、2015年以降、2人を切っている。

6)「婚外子」は1%前後で低いまま推移している

7)日本の「少子化」の背景に日本の「直系家族」構造があり、ここにメスを入れないと今後も「少子化」が進むとの分析がある。

 これらはすべてオーソライズされたデータではありませんが、この「現実」を引き起こす背景は複雑です。学歴重視の雇用にともなう進学率の増加、女性の社会進出と経済的自立の高まり、男性の収入格差、人々の価値観や社会環境の変化など、取り上げたらキリがないでしょう。

 もっと端的に言えば、「少子高齢化」がすでに進展していることから、生産年齢層の減少の対策として女性の職場進出率が増加すると、婚姻率が下がるか、晩婚化する。仕事と生活を両立させる必要があるが、一般的には男性も育児休暇をとれるような環境が十分整備されていないため、子供を産まないか、子供を産む数も制限する。その結果、「少子化」はさらに進展するという“悪循環”に陥っていると思えてなりません。

このような「現実」を断ち切る「社会的な変化」が望まれます。これまで政府のさまざまな改革に取り組んできましたが、コロナ禍に直面したこともあって、それらが結果に結びついていないことも事実でしょう。そのあたりを次回以降、詳しく触れてみましょう。

(つづく)

(むなかた・ひさお)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)