我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(13) 少子高齢化問題(13) 具体的「少子化」対策の提案(その3)

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我が国の未来を見通す(13) 少子高齢化問題(13) 具体的「少子化」対策の提案(その3)

□はじめに(石原慎太郎氏を追悼する)

 私にとって最近の一番ショックなニュースは、石原慎太郎氏が亡くなったことでした。まさに「巨星墜つ」の心境です。

 石原氏と直接の面識はありませんが、作家としてよりも保守の政治家や都知事としてのリーダーシップが記憶に残っています。目に焼き付いているのは、毎年必ず、都知事として第1師団の記念行事(練馬駐屯地)に出席され、自衛隊や自衛官を力強い言葉で叱咤激励しておられた、あのお姿です。この点ばかりは、現役時代から第1師団を羨ましく思っていたものでしたが、私自身も退職後、第1師団の記念行事に出席し、数回その雄姿を拝見できました。

石原氏の歴史観や国家観、特に国家を憂いる気持ちなどは、おこがましいですが、私などとそれほど相違はないと思っています。中でも共感するのは、我が国の戦後の「平和ボケ」を「平和の毒」と厳しく批判し、「日本は自分で決めることが出来ない国である」(『平和の毒、日本よ』より)との持論を述べておられていたことです。

 このような歯に衣を着せない発言、だれが何を言っても意に介さない姿など、訃報を聞いた直後、「石原氏のような、辣腕でかつブレない政治家が今後、出現するだろうか?」との思いが頭をかけめぐり、途方もない寂しさが込み上げてきました。同時に、仮に石原氏が首相だったら、“安倍おろし”以上に反対勢力がこぞって騒ぎ立てたことだろうと想像してしまいました。しかし本音では、首相になって、数年間だけでも戦後の日本の舵取りをしてほしかったと思っています。

 石原氏はまた、「人間の弱劣化」についても解いておりますが、すでに弱劣してしまった国民が大多数を占める日本は、国民の代表たる政治家でさえも「自分で決めることが出来ない」国になっても何ら違和感も問題意識も持たなくなっているのが現実でしょう。

これこそが、大東亜戦争で「精神的敗北」を受け、いまだ立ち上がれない我が国の現状そのものであり、石原氏はその状況に警鐘を鳴らしておられたのだと思います。

書店には「石原慎太郎コーナー」が急きょ設けられるなど、石原氏追悼の余波は依然、続いております。著名な政治家やマスコミ人などの様々な石原評に対して、「あなたには土台、石原氏は理解できないだろう」とテレビに向かって声を立て、新聞をみて独り言をつぶやく回数が増えました。歳のせいでしょうか。

▼我が国の「婚外子」の歴史

 その石原氏も、少子化に向かう我が国の将来を憂いていたことは知るかぎりにおいてなかったと思います(あったのかも知れません)。

近頃、我が国の親権制度について民法の改訂が国会で議論されましたが、よくよく聞くと「少子化」対策とはまったく関係ないことがわかり、がっかりしました。またすでに野田聖子大臣が少子化担当となり、「こども家族庁」が来年4月に発足することもニュースになっていますが、具体的な「少子化」対策がどこまで本気に実施されるかは不明です。

今回は、前回の続きで「婚外子(非嫡出子)」をとりあげてみたいと思います。我が国においては、道徳的な意味で敬遠される「婚外子」ですが、「婚外子」の増加は少子化対策に寄与するのか否か、また、その可能性について考えてみる価値はあると思っています。

子供は結婚した家庭からのみ産まれるわけではありません。日本の場合は、事実婚とか同棲など法律婚以外の「非婚カップル」、あるいは「一人親」から産まれる「婚外子」は、法律上は嫡出子の差別はなく、相手に養育費も請求できます。相続が発生すれば受け取る権利もあります。ただし、それらを請求するためには「認知」が必要です。

 我が国は、「直系家族」構造にあり、それが「少子化」の背景になっていることはすでに紹介しましたが、この「家族制度」を重視する構造は明治時代以降に出来上がります。その経緯を振り返ってみると、「婚外子」の歴史がよくわかります。

我が国は、江戸時代までは「一夫多妻」が当たり前でした。やがて貞操観念を重視するキリスト教の影響を受け、「一夫一婦」を寝づかせようとしましたが、なかなか広がりませんでした。上流武士社会や富裕な町人層では妻のほかに、いわゆる“お妾(めかけ)さん”を囲うことは普通に行なわれていたのです。

明治3年、明治政府のもとで頒布された最初の刑法典である「新律綱領」には、妻も妾も同等の二親等とすることが定められました。これは女性の権利を同等に守るといった考えに基づくものではなく、背景に「家制度」がありました。つまり、家を存続させるために、妻も妾も同等の地位を与え、「跡取り」を産んでもらうという事情が潜んでいたのです。

昨年の大河ドラマで、渋沢栄一家に妾が一緒に住んでいたこと(妻妾同居)を覚えている方も多いと思います。さすがにNHKでは取り上げられませんでしたが、渋沢栄一の〝女遊び〟は有名な事実でしたし、明治維新の頃は、伊藤博文や岩崎弥太郎など大多数の著名人も「英雄、色を好む」状態だったようです。

一方、福沢諭吉や森有札(初代文部大臣)のように「一夫多妻は人倫に悖(もと)る」という考えを持つ人も現れるなど世論も変化して、刑法上は明治13年、戸籍法上は明治19年に妾は姿を消すことになります。そしてついに明治31年、民法によって「一夫一婦制」が確立します。

それまで伝統的に側室をおいていた皇室でも、一夫一婦主義を採用するようになり、大正天皇以降は、側室制度が廃止されました。こうして、我が国では、「一夫一婦制」が当たり前のようになりました。

実際の「婚外子」の割合を振り返ってみますと、明治末期の頃はまだ10%近くあったようです。日清・日露戦争によって若い男性が多く戦死した影響などもあったと推定されます。その後、徐々に減り始め、大正14(1925)年には7.3%、昭和5年(1930)年には6.4%ほどに留まりました。

戦後はさらに減少し、終戦直後の昭和22(1947)年には3.8%まで減り、1965年~1985年頃までは1%以下で推移します。最近、「未婚の出産」比率が増加したことがあって、2.3%までやや増加しています。

それでも、我が国の「婚外子」比率は、主要国の中でも極端に低く、OECDの最新データ(2106年)では主要36カ国中第35位と、日本より下位には韓国(1.9%)があるのみです。

▼主要国の「婚外子」の増加と諸事情

 主要国の「婚外子」のランキングとその割合をみますと、意外にも「婚外子」にからむ様々な背景がわかります。当初、外国の例は簡単にスルーする予定でしたが、改めて、「文化の差」を実感してしまいました。ひとり占めするのはもったいないと思い、少し長くなることを覚悟していただき、代表的な国の諸事情を紹介することにします。

「婚外子」の割合は、第1位のチリ(73%)を筆頭に、第2位アイスランド(70%)、第3位メキシコ(67%)、第4位フランス(60%)と続き、第14位イギリス(48%)、第23位アメリカ(40%)、第25位ドイツ(36%)など欧米や中南米の国々が上位を占めています。アジアの中では、第16位ニュージーランド(46%)、第26位オーストラリア(34%)が続きます。

それにしても、OECDの「婚外子」平均割合が40%と高いことには驚くばかりです。フランスなどは平均出生率1.88のうち、実に6割は「婚外子」なわけですから、明らかに「少子化」対策に寄与していることになります。

 この数字をみると、不可解な思いに駆られます。江戸時代、キリスト教の影響を受けて「一夫多妻」が見直され始め、明治末期にようやく「一夫一婦制」が定着したかに見えた我が国でした。しかし、キリスト教の本家本元である欧米や中南米ではこれほど高い「婚外子」の割合を示しているのです。そこには「結婚」そのものに対する考え方の違いがあるようです。

 まず、前回取り上げましたフランスのケースです。フランスでは、1972年、嫡出子・婚外子の区別なく、「いかなる生まれでも子は同等の権利を有すること」が法制化されました。つまり、「子が生まれて育つことに、親の結婚は関係ない」とされたのでした。その結果、「婚外子」は1980年代から急増し、1997年には約40%、2017年以降は約60%に到達しました。

フランスでは、手厚い「子育て支援」が完備し、なかでも「片親手当」として、子供1人につき、日本円で月額約76,000円、1人増えるごとに月額約2万円が増額されることも紹介しました。

これらから、「子の誕生=結婚」とはならず、結婚するかどうかは、純粋に本人同士の希望によるようです。このため、最近では、PACS(連帯市民協約)という制度が人気を集めています。PACSとは、もともと同性カップルに結婚を認めないため、代替案として作られた制度のようですが、今ではその95%以上が異性間の契約となっています。

PACSは、結婚より規制がゆるく、同棲(事実婚)より法的権利が強い制度といわれ、フランスのカップルは、同性・異性を問わず、その半分が伝統的な結婚を、もう半分がより簡略的なPACS契約を選択しているとのことです。

背景に「結婚」の手続きが、気が遠くなるほど大変だという事情もあるようですが、PACSは手続きが比較的簡単で、離婚も双方の同意があればOKということで、本人たちは、自分のスタイルに合わせて「かたち」を選ぶということで、最近の傾向としては、結婚がどんどん減り、PACSが増加しているとのことです。

PACSのカップルから産まれた子供たちはすべて「婚外子」になるわけですから、我が国とは事情がまったく違うのです。「どんなに愛し合っているカップルだって、明日には別の人を好きになるかもしれない。別れない保証はどこにもないのに、どうして結婚しようなんて思えるの?」というのがフランスの典型的な女性の考えのようです。いやはや驚きです。

読者の皆様は「結婚持久値」という指標をご存じでしょうか? 私も最近、知りました。1万人あたりの1年間の結婚数を「成就値」、結婚数から離婚数をマイナスした値を「持久値」と定義しています。結婚が長続きするか否かの指標といってもいいでしょう。

「持久値」が最も高い国はエジプトで、次いで中国、トルコと続き、日本の「持久値」は25カ国中12位,アメリカとほぼ同等です。欧州諸国は軒並み低く、イタリア16位、ドイツは18位、フランスは22位、最下位はスペインです。

スペインの離婚率は約60%といわれますので、夫婦生活が長持ちしないのは明らかです。ドイツの離婚率も約50%に及び、合理的なドイツ人が莫大なお金とエネルギーのかかる離婚のリスクをあえて犯さないのは理解できます。「特定のパートナーはいるけど結婚しない」、さらには「結婚せずに子どもを持つ」という選択肢に特別な不都合はないというドイツ社会の「自由さ」があるようです。

イギリスの結婚観も最近様変わりしているようです。結婚数が減り、同棲が増え、その間に子供をもつカップルが増えています。それが「婚外子」増加の原因になっていますが、同棲解消、つまり結婚しないシングルマザーが全体の約40%に及ぶそうです。

北欧のスウェーデンなどは、シングルマザーに対する福祉がとても充実しているため、スウェーデン女性がギリシャにバカンスに来て、ギリシャ男性とアバンチュールし、自国に帰って出産してシングルマザーとして子供を育てるという流れが一部にあって、ギリシャ女性のひんしゅくを買っているという話もあります。

 まさに、「世界の広さ」を感じる瞬間です。次回、さらにアメリカやニュージーランドの諸事情にも触れた後、我が国の「婚外子」にからむ問題などをチェックしてみましょう。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)