我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(5) 少子高齢化問題(5)「国の借金」をどう考えるか

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我が国の未来を見通す(5) 少子高齢化問題(5)「国の借金」をどう考えるか

□はじめに

  先日、天海祐希さん主演の映画『老後の資金がありません!』を家内と二人で観てきました。内容を詳しく紹介すると営業妨害になりますので避けますが、どこにでもおられるような50代ぐらいの夫婦が妻もパートで手伝い、老後の資金としてコツコツと貯めた貯金が、父親の葬儀代、娘の結婚式代、浪費癖のある母親の同居、そのうえ夫婦の失業も重なり、一挙に失いそうになるというストーリーでした。

それでもコメデイ映画なので、何となくハピーエンドに終わるような展開でしたので、「現実はこのようにはならないだろう」と思いながらも楽しませていただきました。

映画の中では、何度も「老後に必要な資金は4000万円」と歓呼していたことも印象に残りました。前回取り上げました「老後2000万円」問題については、「人生100年時代」にあっては“値上げやむなし”と予測するだけに、現実味のある数字であると感じました。

▼膨れ上がる「国の借金」

 

さて、一概に「少子高齢化」の問題であるとは言えないのですが、捉え方によっては、我が国の未来に立ちはだかる暗雲の一つとなるかもしれない「国の借金」がどうしても気になります。「少子高齢化社会」にいかに対処するかを考える前に、「国の借金」(主に国債)について先に整理しておきましょう。

 気になるきっかけとなったのは、安倍内閣時代の2019年3月、世界3大投資家の一人とされるジム・ロジャーズ(米国人)が「若者は日本から逃げるべき」と語ったことが頭から離れないからです。その概要は次の通りです。

 「若者は日本から出ていくべきだ。国の借金が天井知らずに増え、人口が減少している。これは“ある外国人”が述べている意見ではない、簡単な算数だ。足し算と引き算ができればすぐわかる。問題は悪化する一方だ。50年後にこの借金をだれが払うのか。私ではない。他の誰も払わないだろう。だから若者には解決策がない。日本から出ていくしかないだろう」

 さらにこうも述べました。「日本の歳出と借金は制御不能になっていて、借金をどんどん増やし、増税をしている。やるべきことと真逆のことをしているのだ。人口が減少し、借金が増えている状況で、増税をするべきではない・・・」

 有名な投資家の意見だけにある一面をついていると考えざるを得ないのですが、読者の皆様はどう思われるでしょうか?

 2021年3月末時点で、国債と借入金、政府短期証券の残高を合計した「国の借金」が1216兆4634億円となりました。2020年度はコロナ対策のため3度の大型補正予算を編成し、大量の国債を追加発行したため、借金の額は、20年3月末比101兆9234億円膨らみました。1年間の増加額としては過去最大でした。

11月30日、令和2年の国勢調査に基づく確定人口が公表され、令和2年10月時点の我が国の人口は、1億2614万6099人(内、外国人274万7137人)、つまり日本人の人口は1億2339万8962人だったことがわかりました。

この数値を基に単純計算すると、生まれたばかりの赤ちゃんから100歳超の高齢者まで日本人1人当たり985万円超の借金となりました。借金の大半を占める国債の残高は1年前から86兆5709億円増加して、1074兆1596億円に達し、なかでも、償還期限1年以内の短期国債が約49兆円増えました。21年度予算でも、43兆5970億円の新規国債発行が予定されており、借金は一段と積みあがることになります。

あまり話題になりませんが、国の借金に加え、各地方自治体も借金しております。「地方債」といわれます。こちらも年々増加傾向にあり、令和3年度末には総額約193兆円(対GOP比34.6%)になると見込まれています。

先の衆議院選挙の最中、現職の財務次官が「コロナ対策は大事だが、人気取りのバラマキが続けばこの国は沈む」と、総選挙の焦点となった各党の経済対策を「バラマキ合戦」と批判し、財政破綻の警鐘を鳴らして話題になりました。

 これに対して、「自国建て通貨で国債を発行しているアメリカや日本で財政破綻はあり得ない」とする立場で次官の意見に異を唱える立場と、「ごく普通の真っ当なことを言っている。やはり国債というのは国民の負担。批判を喚起する意義はあった」と賛意を示す意見に2分されました。財務省はこれまでは前者の立場をとってきており、財務省のホームページには前者の立場で記載されています。よって、次官の立場はこれまでの主張とは相反していました。

皆様はどちらの考えに賛同されるでしょうか? 私自身は、経済や財政に関しては全く素人なのですが、国民はこのぐらいのことは知っておくべきだという立場でもう少し紹介しておきましょう。

まず国債には、短期国債(償還期間が1年以内)、中期国債(同1年超から5年以下)、長期国債(同5年超10年以下)、超長期国債(同10年超)に分かれます。いずれも財政上の必要から、〝国家の信用″によって設定する金銭上の債務です。

一般に信用が高ければ長期金利は高くなり、信用が低ければ金利は低くなります。昨年、国の借金が1200兆円を超えたにもかかわらず、長期金利は6%からほぼ0%に低下しました。

これには日銀の金融政策などさまざまな要因があることは明白ですが、日本の信用(格付け)が暴落しない要因としてよく取り上げられるのは次の2つです。

まず資産があることです。その内訳は、政府の金融資産が600兆円、海外資産が世界一の360兆円、それに家計の金融資産が1900兆円と日本国全体の資産総額は2260兆円に及び、依然、借金総額をはるかに上回っています。

そして、我が国の場合、国債の保有者内訳が日本銀行、一般銀行、生命損保会社、年金機構、一般家計など、9割を超える保有者が国内で占め、海外の保有者はわずかに7%程度にとどまっていることも重要な要因といわれます。

▼やがてどうなるのか…

長年、デフレに苦しんできた我が国ですが、近年は、アベノミクスのように、2ないし3%ほどのゆるやかなインフレに達するまでは国債を発行してもよいとの考え方に基づき、インフレ率の増加を企図した経済政策を採用してきました。

安倍元総理によると、インフレ率の増加の狙いは雇用の創出にあったとのことで、多くの人が働き、インフレに合わせて賃金も増えれば、国家の歳入も増えます。歳入が増えれば、国債依存率を低くできるという構図です。よって、同時並行的に「働き方改革」や「生涯現役社会の実現」政策(これらについては後述しましょう)を取り入れ、女性、シニア、外国人労働者などの雇用の拡大を強く要望したのでした。

しかし、実際にはコロナ禍という不幸もあって、我が国の成長率軌道は、令和2年は▲4.8%、令和3年10月時点で2.4%にとどまり(G7で最下位)、IMFは「日本経済の悪化ぶりは別次元」と予測しているようです。

歳出内訳でも取り上げましたように、毎年、歳出の約2割超は国債の元金払い等に充当されています。過去の国債の元金や利子を支払いながら新たな国債を発行しています。つまり、支払いを順送りする「後任者負担」になっていることは間違いないでしょう。

 そこで疑問を感じるのは、①次第に生産年齢人口が減少し始め、雇用を創出しても働き手が減少することによって、それが歳入増加に結びつかない可能性がないか? ②総人口が減少し、高齢化社会になれば資産(特に家計の金融資産)も徐々に減っていくのではないか? あるいは③人口減になれば一人当たりの借金は膨らむばかりにならないか? などであり、これらの結果として、④実質的な「後任者負担」はますます増大するのではないか? ということです。

 現在のような特異な状況にあっては、借金してでもさまざまな政策を推進する必要があることは十分理解できますが、私は、政治家の皆様には「選挙の公約だから」といって、バラマキに見えるような政策が本当に妥当なのか、現状の痛みのみならず、財政や経済あるいは人口減など日本の未来を見通した視点からよく考えて判断してほしいと願っております。

ジム・ロジャーズの指摘のように、国の借金をどんどん増やし続けると、いつの時点かは不明ですが、資産イコール借金、あるいは借金が資産をはるかに超え、その結果、国家の信用(格付け)が暴落するような可能性はないのでしょうか。

それでなくとも人口減、なかでも生産年齢層が大幅に減少することが確実ななかで、若者が日本から逃げ出すような状況になるのだけは何としても回避してほしいと祈るばかりです。

そのような悪夢を目の玉の黒いうちに見たくないとの素人なるがゆえの心配はこの辺で打ち切りましょう。次回から、いよいよ「少子高齢化」への対応策について順を追って考えてみましょう。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)