我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(4) 少子高齢化問題(4) 「少子高齢化社会」の最大の問題点

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我が国の未来を見通す(4) 少子高齢化問題(4) 「少子高齢化社会」の最大の問題点

□はじめに

米国人戦略家のE・ルトワックは、産経新聞2021年10月7日付の1面で「少子化は日本存亡の危機 回避急げ」として、移民の受け入れに適さない日本は「少子化対策に一刻の余裕がない」と警告しています。

ルトワックは「少子高齢化は、社会からエネルギーや進取の精神、バイタリティーを失わせる」と指摘するとともに、世界のランキングが56位にとどまっている「日本の幸福度」についても言及し、「その原因は少子化で孫が生まれて来ないためだ」として「赤ん坊の存在は人々に笑顔を与え、社会を明るくする。孫が1人でもいれば、生活の喜びは倍増する」と自ら3人の孫を持つ身からその体験を披露しております。

私も孫が1人おりますので、ルトワックの指摘はよく理解できます。一方、いまだ独身を謳歌している長男もおり、時々「家族、特に子供がいることの重要性」を説きますが、頭では十分わかっていても良縁に巡り合えない現実に対していかんともしがたいものがあります。

 ルトワックはまた、「高齢化した国は難破船のようなもので、最後は木っ端みじんになる。難破を回避できるかどうかは、政治指導者が行動を起こすかどうかにかかっている」と結論しています。

「少子高齢化にいかに立ち向かうか」について、外国の事例を研究しつつ、読者の皆様と一緒に考えていきたいと考えておりますが、さまざまな政策を計画し実行する必要があることからその先頭に立つのは為政者であり、政治家であることは論を俟ちません。その政治家たちに火をつけ、背中を押すのは主権者たる私たちです。そのようなことを頭におきながら、「少子高齢化」の現状や将来の問題点をもう少し考えてみましょう。

▼「社会保障給付金」の推移 

 さて「少子化」と「高齢化」が同時並行的に進展し、人口減少のなかで、高齢化率が大幅に増大するのは先進国共通の現象でありますが、いま現在、ルトワックが指摘するような抜本的な対策に踏み切らないまま、「少子化」も「高齢化」も進展しそうなのは、我が国の特有な現象なのかも知れません。

「少子高齢化」の問題を考えるために、最初に、我が国の国家予算をさっと覗いてみましょう。予算の歳出の内訳は、年金や介護・医療などの「社会保障関係費」がダントツで約3割を超えています。次に、地方の財政力の差の調整や財源の保障のための「地方交付税交付金等」、それに国債の元金払いや利息の支払いに充てられる「国債費」の合計で全体の7割を超えています。残りの隙間に、公共事業費、文教および科学振興費、防衛費などがひしめきます。

歳入は、所得税、法人税、消費税などの租税や税外収入が歳入全体の6割ほどを賄い、残りの4割は、公債金、つまり借金に依存しております。子細にみれば、社会保障費の30数兆円は、おおむね法人税と消費税を合わせた額が財源となっています。

戦後、我が国の社会保障はゼロから始まりましたが、年金、医療、そして介護など福祉サービスのために支出される税金や保険料の金額を示す「社会保障給付費」は年々増え続け、50年あまりの間に約100倍になり、2021年には約130兆円まで膨れ上がりました。厚生労働省は2025年には約150兆円になると見積もっており、高齢者数の増加とともにその後しばらく増額されるのは明らかです。

問題はこの給付費を誰が担っているかです。その内訳は、年金や健康保険の種類などによって差異はありますが、給付費総額は、保険料が6割弱、国庫(上記の社会会保障関係費等)が3割弱、地方負担が1割強、その他資産収入等で賄っております。ちなみに、この年金の資産運用を一手に行なっているのが年金積立金管理運用独立法人(GPIF)で時々話題になっています。

企業の保険料は労使折半が通常ですが、それらを含めて、これらいずれの財源も主に生産年齢層が担っていることは間違いなく、この「支える側」の生産年齢人口(15歳~64歳)がすでに減少傾向にあり、今後、ますます減少することが問題なのです。

▼「社会の支え合い構造」が変化

我が国は、1961年に「国民皆保険」を開始しました。その頃の「支えられる側」にあたる高齢化率はわずかに約6%でした。しかし、今は約30%に近づき、将来、その比率が40%になろうとしております。他方、生産年齢人口の割合の比率は最大70%あったものが徐々に減りはじめ、現時点では約60%、将来は50%に近づきます。

つまり、明らかに「社会の支え合い構造」が変化しつつあるのです。具体的に言えば、1965年頃は「胴上げ型」(65歳以上の1人を生産年齢層が9.1人で支える)だったものが、2012年頃は「騎馬戦型」(1人を2.4人)になり、2050年頃には「肩車型」(1人を1.2人)になると予測されています。つまり、おおむね1人で1人を支えることになるのですから、それが可能であるとはとても考えられないのです。

 なかでも、問題なのは年金でしょう。「賦課(ふか)方式」(現役世代から徴収した保険料を高齢者に給付)を採用している年金は、徴収される人が減れば支給総額が減る一方で、受給される高齢者が増えるわけですから、受給のバランスが崩れるのは目に見えています。

これについて、厚生労働省は5年ごとに「所得代替率」(現役時代の男性の平均月収の何%が年金になるか。現在は、61.7%)の変化を計算し、年金制度を検証しております。直近では2019年に検証しましたが、その際に老後を迎える夫婦の年金等の平均収入に対して支出が上回ることから算出された結果、「老後2000万円問題」が話題になりました。

将来の推計は、経済成長率や出生率などの変化によって変わりますが、2050年頃には積立金がゼロになると見積られているようですし、最悪の場合、世界に誇る「国民皆保険制度」そのものが破綻の危機に遭遇する可能性もあるのです。

次の検証は3年後の2024年に行なわれるようですが、その時にはどのような結果になるか注目しているところです。少なくとも、今の私たちが知っている各指数がより厳しくなることは100%間違いないでしょう。

一般的に言えば、年金積立金の目減りの対策は年金の減額か受給開始年齢を引き上げるしか選択肢がないことは明らかです。このメルマガの読者の皆様の中には、私を含めてすでに高齢者に分類される方も多いと思いますので、「自分には関係ない」と突き放すことは可能です。

しかし、「少子化」と「高齢化」が結びついた「少子高齢化社会」の問題は、今や全世代の国民ひとり一人に突き付けられた問題と認識する必要があると私は考えます。

平均寿命が伸び「高齢化」が進展しても、「少子化」でなければ、「支え合い構造」にあまり変化はなく、まさに“ハッピーエンド”なのですが、我が国の実態は「高齢化」も「少子化」もほぼ世界の最先頭を走っております。前に紹介した「ライフシフト」に書かれた、超高齢化時代における人生戦略とは少し違った考え方や生き方が求められているのかも知れません。

具体的にどう立ち向かうか、について、次号以降、一緒に考えて行きましょう。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)