我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(3) 少子高齢化問題(3) 人口減少で何が起こるか?

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我が国の未来を見通す(3) 少子高齢化問題(3) 人口減少で何が起こるか?

□はじめに

 またまた個人的な話題で恐縮ですが、私の故郷は福島県の田村市です。田村市といえば響きが良いですが、「平成の大合併」で平成17年に合併される前は都路(みやこじ)村という人口3000人余り、阿武隈山地のほぼ真ん中に位置する寒村で、吉幾三の「おら東京さ行くだ」の歌詞そのもののようなさびれた田舎でした(電気はありましたが(笑))。

平成の半ばにはとうとう村の運営ができず、周辺の町村と一緒になったのですが、過疎化はその後も進みました。私の母校である小学校はすでに廃校となり、中学校は、村に2つあった中学校が合併されました。母校がなくなるというのは寂しいものです。

 その上、平成23年に発生した東日本大震災は、田村市、中でも福島原発に最も近い旧都路村に多大な影響を及ぼし、いっとき、緊急避難を余儀なくされました。現在は、生活するのはまったく問題ないですが、その際に避難した人たちの中には、新たな居住地で生活する人も出てきて過疎化が一層進展しているようです。

▼「過疎化」の進展

 人口減少が進展すると、さまざまな問題が発生することは明らかです。「高齢化」の進展と合わせた「少子高齢化」の問題点については、のちほどたっぷり取り上げることにして、先に「人口減少」に関連する問題についてもう少し掘り下げてみましょう。

 すでに触れましたように、最も大きな問題は、人口減少は全国一律に起こるわけではないということ、つまり過疎化の問題です。東日本大震災の影響が今も残る福島県浜通り地方は例外として、過疎化の原因は少子化の進展に加え、地方から大都市圏へ若者が流出することにあります。「おらこんな村いやだー」と言って、若者が東京ならぬ都会地に流出してしまうことです。

 一般に、人口減少率は人口規模が小さくなるにつれて高くなる傾向が見られます。特に人口1万人未満の市区町村では、人口が半減すると見込まれており、余計に過疎化が進展します。

「過疎化」とは「ある地域の人口が急激に減少し、その地域の生活機能を維持することが難しくなる状態」と定義されています。すでに北海道、東北地方、中部地方、紀伊半島、中国・四国地方、九州地方など、全国の市町村の約46%、人口の約9%、面積の約69%で過疎化が進展し、社会問題になっていますが、今後、過疎地がますます拡大することは明白です。

人口が半減しているような地域であって、残っているのは高齢者ばかりというのもよくある光景ですが、65歳以上の高齢者が半数以上を占め、冠婚葬祭を含む社会的共同生活や集落の維持が困難となりつつある集落を「限界集落」と呼称されています。

現在、全国775市町村6万2273集落のうち12.7%に相当する7878集落が「限界集落」になっているとのデータがあります。その上、すでに機能維持が困難になっている集落も2917集落(4.7%)あるといわれています。さらに過疎化が進めば、消滅する可能性がある都市(「消滅可能性都市」)も発生し、2040年頃には全国896市町村が該当すると推計されています。

 総じて、人口減少がこのまま進むと、2050年頃には、全国の居住地域のうち6割以上の地域で人口が半分以下に減少し、さらに2割の地域では無居住化すると推計されています。

 この過疎化現象を国や地方自治体も黙ってみていたわけではありません。国は、1970年以降「過疎地域自立促進特別措置法」など「過疎4法」を制定して、過疎地域の自立促進、住民福祉の向上、雇用の増大、地域格差の是正などを狙いに、(1)地域産業の振興、(2)道路と通信確保による他地域との交流活発化、(3)医療と教育の確保などに向けたさまざまな政策を実行してきました。

 平成11年頃から始まった「平成の大合併」も、これらの一環として少子高齢化や過疎化に対応した行財政基盤確立のために行なったものでした。

また、平成26年以降は、「地方創生」を政府の主政策に掲げて政府が一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かし、自立的で持続的な社会の創生を目指しました。各地方自治体も各地域に適した独自の対策を推進中で、これらの政策の推進は過疎化防止に一定の効果が上げていますが、一方、抜本的な対策になっていないことはそれぞれの数字は示すとおりと考えます。

 人口減少、特に過疎化が進展した結果、全国の「空き家」も年々増え続け、現在、住居総数の約15%に相当する約930万戸あるといわれています。空き家率の分布は、過疎地の分布とほぼ一致しますが、都会地にも空き家があります(東京11.1%、大阪15.2%など)。

 また、特に過疎地の「耕作放棄地」も増え続けていますが、これらについては、第2編でたっぷり取り上げることにしましょう。

▼GDPは縮小する!

さて、人口動態が経済に与える影響については、これまでも数多くの研究がなされました。もし、人口とGDP(国内総生産)に有意な相関関係が認められるのであれば、人口の推移はこれからの経済成長に大きな影響を及ぼすことは必至なのです。

このGDPとは、一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額です。単純に言えば、後述します「労働生産性」が同じであれば総人口が多い国ほど、GDPも高くなります。

現在の日本のGDPは、IMFが発表した2021年の「世界のGDP」によれば、米国、中国に次いで第3位の5兆3781億USドル(588兆円)で、世界のGDPに占める割合は、米国の24.1%、中国の17.7%に次いで5.7%を占めています。

「労働生産性」を測る基準としてよく引用されるのが、各国のGDPを人口で割った「国民1人当たりGDP」です。日本の「国民一人当たりGDP」は42,930ドル(約470万円)で世界第25位です。この数字を日本の「労働生産性」の低さと見ることもできますが、1位のルクセンブルクをはじめ、スイス、ノルウェー、カタール、シンガポールなど上位国の大半は、金融、情報産業、観光や資源など、特定の部門に大きく依存した産業構造が可能となっている、人口1000万人未満の国家で占められているため、単純な比較はできません。

 また、2018年にお隣の韓国に抜かれたことが話題になりましたが、全体で見た場合、人口が1億を超えながら、「国民1人当たりのGDP」を上位につけているのは、米国と日本の2カ国だけということを知っておく必要があります。

ちなみに「国民1人当たりGDP」は下記のように分解されます。

 GDP/人口=(GDP/労働者数)×(労働者数/人口)

 この前段の「GDP/労働者数」こそが「労働生産性」といわれるもので、日本は、1970年以降、主要先進7カ国の中で最下位、現在、OECD加盟35カ国中では20位となっています。その理由として、(1)付加価値を生み出す力が弱いこと、(2)1つの仕事に携わる社員数が多いこと、(3)時間をかけ過ぎていることなどが挙げられています。女性の社会進出の増加なども労働生産性を下げる要因になっているとの見方もあります。

(1)について、かつてはよく聞いた「メイド・イン・ジャパン」こそ、付加価値を生み出す力そのものだったと考えます。もちろん、まだまだその活力が萎えてしまったわけではないと信じたいですが、アニメなど以外、その言葉自体が死語になったような気がするのは私だけでしょうか。これについてものちほど取り上げましょう。

(2)(3)について、よく比較されるドイツの年間労働時間は日本よりも350時間ほど短いと言われています。ドイツ人は、個人の生活を重視する傾向が強く、労働はあくまで生活の糧を得る手段と割り切っているため、残業はないし過剰なサービスも必要としません。効率重視で仕事にあたるため、最小の手間で最大の成果を上げることを得意としているようです。

そして、「労働者数/人口」こそが、生産年齢人口の減少に直結する我が国の最大の問題と言えるでしょう。現在、2019年に導入した外国人の在留資格「特定技能」の見直しが進められているようで、なかでも永住権取得が可能となる資格が現在の2業種から11分野を追加する方向で検討されていることから、外国人の永住の道が広がっていることがニュースになっています。

これについてものちほど触れることにしますが、今後の予測として、日本はますます「少子高齢化」が進み、ここ数十年の間に、国内の労働生産性が大幅に上昇するような産業構造の変化や大胆な外国人雇用の拡大施策が功を奏さない限り、生産年齢人口の減少が「1人当たりGDP」が減る要因となり、全人口も減少することからGDPそのものの低下を招く可能性は高いといえるでしょう。

「PwC」(ロンドンに本拠地を置く世界最大級のプロフェッショナルサービスファーム)が1917年に発表した報告書に寄りますと、世界経済は、2050年頃まで年平均実質成長率約2.5%のペースで成長、2040年頃には現在の2倍になると予測しており、その成長をけん引するのが、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、ロシア、トルコの新興7カ国(E7)で、日本は世界第8位に転落するとされています(それでも、第8位にとどまっていると考えるべきかも知れません)。

その主たる原因は人口減少、なかでも労働人口の減少にあることは論を俟たないと考えます。メルマガで紹介できないのが残念ですが、GDPと労働人口の推移を合成してグラフを作成すると、みごとなまでに重ね合っていることがわかります。人口減少にともない、GDPが減少するという事実を真剣に考える時が来ていると私は考えます。

(以下次号)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)