□はじめに
「我が国の未来を見通す」をキックオフします。創刊準備号でも紹介しましたように、第1編「少子高齢化問題」、第2編「農業・食料問題」、第3編「気候変動問題」の順で発信します。そして第4編「総括」として、天変地異や国防問題を含めて、それらを総括しようと計画しております。
最近話題になりました「Numbers Don’t Lie」(邦訳『世界のリアルは「数字」でつかめ!』バーツラフ・シュミル著)にも紹介されているように、“数字はウソをつきません”。一般に、それらの数字には驚愕の事実が隠されています。しかし、その隠された真実を巧みにあぶり出すのは意外に難しいものです。
本メルマガは、すべて既存の数字やデータを使いますので、私のオリジナルは全くありません。世の中には、国際機関、各国家の公的機関、官公庁、信頼できる研究所や調査報告書などが毎年のように発行している数字やデータで溢れています。
それらの数字やデータから驚愕の事実をあぶり出し、我が国の未来に立ちはだかる可能性の高い課題や難題を明らかにして、多くの皆様と問題意識を共有したいと考えています。
その上で、「いかに立ち向かうか」についても、皆様と一緒になって可能な限りの対応策を考えてみたいと思っています。当然ながら、一介の元自衛官の私のとらえ方が一般的な認識の範囲を逸脱する可能性は大いにあるとしましても、それに対して現時点で“明快な対応策”があるわけでないことは付け加えておきましょう。
このたびの衆議院選挙においても、一部にこれらの問題を訴える候補者もおりましたが、経済対策とかコロナ対策など、国民の当面の関心事が優先されたようです。しかし、これらの問題は、ほとんどの国民が自覚するか否かは別にしても、国民ひとり一人に課せられた問題であることは間違いないと考えます。
皆様におかれましても、これらの問題を恐れず、軽視せず、“正しく理解”した上で、“我が事”と自覚し、一緒に「いかに対応するか」を考えて頂きたいと願っています。
▼第2次大戦の敗戦国がそろって高齢化が進んでいる
さっそく、本題に入りましょう。まず「少子高齢化問題」です。
毎年9月の「敬老の日」になると、65歳以上の高齢者に関する話題が必ずニュースになります。今年は「65歳以上が前年より22万人増え、過去最多の3640万人に達した。総人口に占める割合は、29.1%であり、先進国で断トツの1位、2040年には35.3%までなる見込み。高齢者のうち4人に1人が働いていることがわかった」などとありました。
日本人の令和2年の「平均寿命」は、男性が81.64歳、女性が87.74歳であり、どちらも世界第1位を誇っています。「平均寿命」は今後も年々伸び続け、男性は85歳に近づき、女性は90歳を越えると見積もられています。
平均寿命とは0歳児の「平均余命」(ある年齢の人々が、その後何年生きられるかという期待値)であり、当然ながら、これまで60年とか70年生きてきた人の平均余命は、平均寿命より長くなります。
これらはすべて毎年、厚生労働省から発表される「簡易生命表」に基づいています。簡易生命表とは、我が国の国勢調査が5年に1度しか行なわない上、その整理に日時を要することから、簡略化された計算式によって推計された人口動態統計のことをいいます。ちなみに、国勢調査に基づく人口の確定数や人口動態統計を「完全生命表」と言われ、国勢調査の後、5年ごとに作成されます。
さてこの平均寿命はあくまで平均値です。よって、おおむね半数の人がもっと長生きします。それを実証するように、現在、8万6500人ほどおられる100歳以上の人が、2050年には68万人に達すると見積もられています。街の中で100歳以上の高齢者を見かけるのが珍しくなくなる時代がやってきます。まさに、「人生100年時代」の到来です。
さて、現在約3割に近づいている我が国の高齢化率は、2位のイタリアに約5%、3位のドイツに約7%リードし、先進国の中で断トツの最先端を走っています。
マスコミなどでは、戦後の第1次ベビーブームに生まれた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達する2025年が「2025年問題」として話題になっていますが、高齢者のうちの75歳以上の割合が半数以上を占めていることが上記3国の共通した特徴となっています。
第2次世界大戦の敗戦国がそろって高齢化が進んでいるのには、共通の要因として敗戦の反動とか解放感が戦勝国より強かったのかも知れません。戦後70年余りを過ぎた今、敗戦国が同じような高齢化のワン・ツー・スリーを迎えることに不思議な“歴史の必然性”を感じます。
▼「長寿化の日本」が新たなモデルをつくる
ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン、アンドリュー・スコットという2人の教授の著『ライフ・シフト』が、2016年に『100年時代の人生戦略』と邦訳されて以来、我が国でも「人生100年時代」という言葉自体が定着しつつあります。
安倍内閣時代には「人生100年時代構想推進室」を設置し、「人生100年時代構想会議」を9回開催して議論したようでしたが、内閣が代わり、コロナ過のせいか、最近、まったくその情報が聞こえて来なくなりました。
これこそが、わが国の短命内閣の欠点と言えることなのでしょう。目先のマスコミ記事や国民世論に振り回され過ぎて、長期的なビジョンを持って、地に足をつけ、継続的に政策を遂行することがおよそ不可能なのです。
『ライフ・シフト』の冒頭、「日本語版への序文」が翻訳本には珍しく10ページにわたって長々と述べられています、要約すると次の通りです。
「平均寿命が世界でトップの日本は、世界で指折りの幸せな国である。長寿化は社会に一大革命をもたらす。あらゆることが影響を受ける。人々の働き方も教育も変わるし、結婚の時期や相手、子供をつくるタイミングも変わる。余暇時間の過ごし方も社会における女性の地位も変わる。長寿化は日本に大きな変化をもたらすだろう」
「長寿化の日本は世界に先駆けて新しい現実が突き付けられている国だ。そんな日本の経験を他の国々も見守っている。長寿化が進んでいるということは対応するために残された時間が少ないということでもあり、日本は早急に変化する必要がある。政府に求められることも多いが、最も大きく変わることが求められるのは個人だ。何歳だろうと、いますぐ新しい行動に踏み出し、長寿化時代への適応を始める必要がある。過去のモデルは何の役に立たない。人生の道筋に関する常識はすでに変わり始めている」
しかし実際には、この「人生100年時代」が自分の人生にいかなる影響を及ぼすかを理解し、その準備にとりかかっている人はそう多くはないと考えます。
さて本来、おめでたいはずの「長寿大国」を手放しでは喜べない部分があります。「少子化」の進展です。そのテーマは次回取り上げることにして、今回はこの辺までにしておきましょう。
(以下次号)