□はじめに
3月14日、昨年来のウクライナ戦争において、
最も心配していたことが発生しました。黒海上空で
アメリカの無人偵察機「MQ9」がロシアの戦闘機
と衝突して海上に落下すると事件が発生したのです。
この事件について、アメリカは「危険で、無謀な行
為」とロシアを批判すれば、ロシアが「無人機と接
触していない」と、これを否定しました。しかし翌
日、ロシアの戦闘機が燃料を噴射しながら無人機に
接近してきて、衝突した様子が明確に読み取れる映
像をアメリカが公開したことから、またしても、誰
の言っていることが“真実”で、誰が“噓”を言っ
ているかが明白になりました。
アメリカ政府の記者会見の内容から、これまでもロ
シアの妨害が続いていたということで、ロシアの領
空外とはいえ、黒海上空などウクライナ周辺におけ
るアメリカの情報収集活動に対してロシア側はかな
り神経を尖らせていたことがわかります。
歴史を振り返ると、戦争の発端は、そこに至るまで
に様々な意図が交錯するとはいえ、“偶発事件”か
ら始まる場合が多いことは例を挙げるまでもないで
すが、アメリカ、ロシアいずれも分別ある大国ゆえ、
大事に至らないでひとまず結着することを祈るばか
りです。
それにしても、ロシア空軍パイロットの練度の低さ
も気になります。無人機をかすめてもロシア軍の戦
闘機は操縦不能には陥らなかったようですが、たぶ
ん、衝突する意図はなかったのでしょうから、操縦
の未熟さが衝突の原因と言えるでしょう。戦争以来、
パイロット自体が消耗し、そのレベルのパイロット
しか残っていないのか、当初からその程度なのかは
不明ですが、練度が低いことは明白でしょう。
いずれにしても、映像が公開されたことを受け、ま
た様々な情報戦が繰り広げられることでしょう(本
メルマガが発刊される頃には別な論争が展開されて
いるのかも知れません)。「これが戦争だ」と考え
ればなんてことはないのですが。私たちは今後も
“いつまでも懲りないロシア”を何度も目にするこ
とでしょう。そのようなロシア(人)なるがゆえに、
欧州列国に仲間入りできないことに早く気づくべき
と個人的には思っています。
▼何が真実なのか?
さて振り返ってみますと、今回の発刊で「気候変動
・エネルギー問題」は当初計画のほぼ倍の長さの2
7回を数えてしまいました。実際に、半年以上の長
い間、気候変動やエネルギーに関する様々な資料や
書籍など、少々無理をしながらもできる範囲で精一
杯調べ、何が真実かを探求し続けてきました。
元来、猜疑心の固まりみたいな性格が功を奏して、
様々な疑問にぶつかってはその中身を調べ、調べた
結果、それまで知らなかったことを発見するとつい
嬉しくなって、またその先を調べる・・・この繰り
返しでした。
それらの“真実”の中から、読者の皆様も「このよ
うな点は見落としているだろう」とか「関心がある
かも知れない」と感じたことをメルマガで紹介しま
した。実際のところは際限がありませんので、この
あたりで総括したいと思います。
実は私自身も、気候変動問題に取り組むまでは、地
球温暖化への疑いなど全く持たず、その原因の主な
ものは、人間の活動によって排出されるCO2にあ
ると考えていました。
そのような考えに疑問を持ち始めたのは、アメリカ
のトランプ前大統領の「パリ協定」離脱とその理由
でした。なかでも大統領の発言にあった「我が国に
課す目標の全ての履行や財政負担をやめる。途上国
の温暖化対策支援もやめる。支援によりアメリカの
富が持ち出されている。他国がアメリカに協定残留
を求めるのは自国を経済的に優位に立たせるためだ。
中国の温室効果ガスの排出増加やインドの石炭生産
増加は認められており、非常に不公平だ」旨の離脱
理由でした。
トランプ前大統領は、就任直後から「アメリカン・
ファースト」を掲げ、それまでの民主党政権とは全
く違う取り組みをしたことは間違いないですが、地
球温暖化対策という地球規模の問題に対して、ここ
まで自信を持って言い切るのは、自身の主張を通す
“身勝手”だけではなく、その「根拠」を調べた上
での決断だったろうと推測しました。
これが発火点となって私の探求心に火が付きました。
そして探究の結果については、逐次メルマガで紹介
してきたように、まず「地球温暖化」を肯定する側
に立って、その考えや根拠について調べ始めました。
なかでもアル・ゴア氏の『不都合な真実』とか、ビ
ル・ゲイツ氏の『地球の未来のために僕が決断した
こと』などは著者が著名人なだけでなく、読者を説
得するのに十分な内容が掲載されていました。
『不都合な真実』は2007年1月に初版が発行さ
れていますので、あれから16年の歳月が流れまし
た。これもすでに紹介しましたように、書籍の中で
具体的に掲載されている“不都合な真実”のその後
の状況を調べてみると、実際にはゴア氏の主張のよ
うなことはほとんど起きていないこともわかりまし
た。
その他にも、米国地質調査所のファグレが予言した
「モンタナのグレイシャー国立公園の氷河は202
0年までに消滅する」とか、イギリスのイースト・
アングリア大学のヴァイナーが「2020年には英
国では雪は降らなくなるだろう」などの予測も外れ
ており、「地球は、化石燃料起源のCO2の排出に
より温暖化している」というストーリーに基づいた
未来予測は、これまでほとんどすべてが外れている
ことがわかりました。
「予測がことごとく外れた以上、『この理論は間違
っている』と考えるほかない」と断言している人も
いるにはいますが、単純にそう割り切れない所にこ
の問題の“根っこの深さ”があると考えざるを得ま
せん。つまり、このストーリーのもと、国連を中心
に国際社会を挙げて走り始めているので、この場に
及んで「待った」をかけるわけにも行かないとの考
えが依然、大勢を占めているのです。
最近は、ビル・ゲイツ氏についてさえ、ゲイツ氏が
CO2排出に取りくむ本当の狙いは「人口削減であ
る」との批評している意見を発見しましたが、気候
変動問題の背景はどうも単純ではなさそうです。
▼先進国が“墓穴”を掘ったのか?
それにしても皮肉なのは、「先進国が時代にさきが
けでCO2を排出した結果として地球温暖化が進展
している」というストーリーを展開してきたため、
昨今、発展途上国から先進国に対して温暖化対策支
援をむしられても、体よく断るための理由を見つけ
ることができなく、先進国が苦慮する事態となりま
した。
そればかりか、中国にあっては、自ら「先進国でな
かった」ことを最大限に活用しつつ、2030年ま
では世界の約3分の1を超えるCO2の排出するこ
とを認めさせ、その間に太陽光発電や風力発電など
の再生可能エネルギーや原子力発電などの分野で世
界のトップに躍り出ようとする、つまり、エネルギ
ー分野の「覇権を握る」ことを容認するような構図
が出来上がってしまいました。その構図に最初に気
づき、「パリ協定」の離脱を決め込み、実行したの
がトランプ前大統領だったのです。
そもそも「『地球温暖化』を誰が言い出したのか」
についてもすでに触れましたが、そのストーリーに
乗っかり、再エネ発電に突っ走ってはみたものの、
そのシェアを増やし過ぎたために、本来不安定な特
性を有する再エネ発電の最大の問題に直面して慌て
たのはドイツでした。そのタイミングを待っていた
かのように、ウクライナ戦争が勃発し、頼みの天然
ガスも届かなくなるというアクシデントに見舞われ
ました。
こうなると、「地球温暖化防止のために是が非でも
CO2排出を削減しよう」とするモチベーションは
もろくも低下し、「あの騒ぎは何だったのか」と言
いたくなるような慌てぶりで、最もCO2を排出す
る褐炭発電の稼働に踏み切りました。背に腹は代え
られないのでしょう。一方、当然ながら、天然ガス
や石油の価格は上昇し、エネルギーの価格高騰に端
を発した物価高騰は、今や主要銀行が倒産する事態
にまで発展し、国際社会を混乱させています。
つまり、先進国の多くは、自らが先頭に立った「気
候変動」のストーリーで“自らの首を絞めている”
という、もう一つの構図が浮かび上がってくるので
す。
▼誰が主導しているのか?
私は、気候変動問題を探究し始めてから、一体全体、
地球上のだれがこの問題の“首謀者”なのか、につ
いていつも考えていました。確かに表向きは、国際
連合の機関が主導しているのですが、ウクライナ戦
争でさえ何の役にも立たなかった国連に全加盟国を
支配するようなパワーがあるわけがないとの疑問が
頭から離れませんでした。
読者の中には知っている方もおられるかもしれませ
んが、「世界経済フォーラム」(WEF)という国
際機関があります。WEFは、1971年、経済、
政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが
連携することにより、世界、地域、産業の課題を形
成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的として、
ドイツ生まれの経済学者クラウス・シュワブにより
設立され、スイスのコロニーに本部を置く、独立か
つ非営利団体であるとされています。
WEFはまた、いかなる政治的利益、党利党略や国
益とは無縁の組織であり、国際連合の経済社会理事
会のオブザーバーの地位を有し、スイス連邦政府の
監督下にあります。
この名前は知らなくとも、WEFが主催する「ダボ
ス会議」は世間ではよく知られています。これこそ
がWEFの年次総会で、世界中から国家元首や首相
クラス、国際機関の長、学術機関やシンクタンクの
代表、それに市民団体の代表まで集まります。
WEFの最高意思決定機関は31名で構成され、そ
のミッションは、「世界の現状の改善に向けて取り
組むこと」とされています。ここに連ねる名前を見
ると驚きます。名だたる実業家や銀行総裁、大学学
長などに交じって、アル・ゴア元副大統領も環境活
動家として名前があります。
WEFの運営資金は1000社に上る会員企業によ
り成り立っているとのことで、会員企業の多くは売
上高が50億ドル超のグローバル企業のようです。
WEFは、毎年「世界リスクレポート」を発刊して
いますが、「地球が直面するリスクの期間別切実さ」
と題して0~2年の短期と5~10年の長期に分け
て公開しています。これは、様々な人が「期間内の
課題として重要」と答えた人のパーセンテージで高
い順にまとめたもので、5~10年のリスクは、第
1位:気候対策の失敗(42.1%)、第2位:異
常気象(32,4%)、第3位:生物多様性の喪失
(27.0%)、第4位:天然資源枯渇の危機(2
3.0%)、第5位:人為的な環境破壊(21.7
%)と続きます。
つまり、1位から5位まですべて環境問題が独占し
ています。0~2年のリスクリストでは、異常気象
は第1位でしたが、気候対策の失敗は第3位でした。
つまり、予測期間が長くなると、「気候変動問題な
ど環境問題の解決にかかるコストがますます増大す
る、だから多少経費がかかっても早めに対策を取
れ!」と言わんばかりの論調になっています。
このWEFでさえ、これらの環境問題を一挙に解決
するのは不可能に近いことが分かっているといわれ
ます。そのはずでしょう。様々な調査研究機関が地
球上の「脱炭素」を実現するための事業費を推定し
ていますが、その額は、今後30年間で約90兆ド
ル(日本円で約1京3000兆円〔京は兆の万倍の
単位です〕)かかると、およそイメージアップがで
きないような巨額をはじき出しています。我が国の
150兆円の投資はその一部なのでしょうが、この
ような経費を投入することを“煽る”何か別の理由
があると考えるのが普通でしょう。
WEFの創始者のシュワブ氏は、ベールに包まれた
部分も多いですが、慈善活動家として知られており、
キッシンジャーの教え子の1人としても有名です。
キッシンジャーは、かつて「石油を支配する者は、
すべての国家を支配する。食糧を支配する者は、全
人類を支配する」との有名な言葉を残しました。現
在は、気候変動というイデオロギー的な思想をベー
スにして、石油に代わる再生可能エネルギーへ転換
し、エネルギー利権を牛耳ろうとしていると酷評す
る向きをあります。
また、今年の「ダボス会議」ではさかんに食糧危機
を煽り、「昆虫を食べろ!」などと食の生産システ
ムの作り替えが強調されたようです。これまたキッ
シンジャーの教えを忠実に実行していると酷評する
向きもあります。そういえば、中国に突然訪問し、
米中友好の扉を開いたのはキッシンジャーでしたが、
WEFは再エネの覇者に中国が躍り出るという演出
(シナリオ)までも担っている・・・そのような
“悪夢”は持たないことにしましょう。
いずれにしても、慈善事業と称して、人類の恐怖心
を膨らませようとしているこの種の組織に対して、
人類はその意図をしっかり見破り、毅然として対応
をすることが求められているのかも知れません。
次回、我が国のエネルギー政策などについて、少し
補足と総括を実施して、第4編「気候変動・エネル
ギー問題」をひとまず終了します。しばらく充電し
た後、本メルマガの最終章を取りまとめたいと計画
しております。(つづく)
宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非
常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)