我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(50)「気候変動・エネルギー問題」(15)人為的CO2削減の可能性

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我が国の未来を見通す(50)「気候変動・エネルギー問題」(15)人為的CO2削減の可能性

□はじめに

記念すべき第50話まで来ました。「わが国の未来を見通す」を始めてからほぼ1年が経とうとしています。50回を記念して、私自身の最近の“日常”をカミングアウトしようと思います。現在、71歳と半年、3つの会社と非常勤監査役や顧問などの形で雇用契約してそれぞれの職務をこなすかたわら、某大学の非常勤講師として週に1度は講義を行っています(科目は、なんと「経営戦略論」と「経営組織論」です)。

その他、自衛隊を含み、依頼があればどこへでも喜んではせ参じ、歴史講話などを実施しています。ほかにもボランティア活動も数件、それ以外にゴルフ、コンサートや演劇観賞、小旅行、それに各種セミナー聴講など、たぶん同世代の人たちよりは数多くこなしていると思います。

ボランティア活動で最も力を入れているのは、元自衛官たちの再就職あるいは再々就職の応援です。50歳後半で若年定年を迎える自衛官は、退職直後は国家が再就職の面倒をみることが法律で定められており、その体制下で自衛官たちは再就職します。しかし、「人生100年時代」、元自衛官たちは60歳の前半、今度は自力で職探しに奔走することを余儀なくされます。この時には、自衛官の“ブランド”はすでに消え去り、相当厳しい“現実”が待っています。

そのような元自衛官たちの苦労を目の当たりにしていることから、時々、仙台や札幌まで出かけて行き、現役自衛官たちの前で、誰もが迎える未来の“現実”、そしてそれに向かって現役時代からの心構えや準備すべき事項などについて教育しています。「国防に半生を捧げた全自衛官たちが、一生、幸福で充実した人生を送ってほしい」との切なる願いを込めて、私自身も東奔西走しております。またその一環で、自衛隊部内紙紙上に「自衛官にとっての『人生100年時代』」をシリーズ化し月に1回、投稿しています(現在16回目です)。

さらに、時々、本シリーズでも紹介していますように、日々変わる“時事”についても関心を持ち、できる範囲で情報収集します。このような合間をぬって、本シリーズの原稿を毎週5000字前後したためています。もちろん、そのために必要な書籍や資料をできる範囲であさります。これらから、最近はどこに出かけるにも1泊以上の場合は、パソコン持参が常態となりました。

若い頃から「人の3倍生きる」を公言し、泳ぎを止めることを知らない“マグロ人生”を突っ走ってきました。つい先日は、深夜までサッカー観戦で寝不足のまま、翌日早朝から出かけて同期のゴルフコンペに参加(結果はベスグロでした)、夜は、家内とコンサートを観賞するなどの無理もしていますが、年齢も年齢、記憶力も弱くなるなど少々ガタが来ています。いつまで続けられるかわかりませんが、もう少し頑張りますので、どうぞお付き合いください。冒頭から私的な話題ですみません。

▼地球は寒冷化に向かう!

さて、本題に戻りましょう。前回紹介しましたように、「地球は寒冷化に向かう!」との勇気ある主張も依然として存在します。全人類のほとんどが「地球温暖化」狂騒曲を鳴り響かせている現代にあって、個人的にはとても興味が沸きます。CO2削減の可能性について論じる前に、少しその骨子を紹介しておきましょう。

「寒冷化に向かう」とする根拠の第1は、「100万年にわたる地球の気温推移の歴史をみると、人間の出すCO2などとは全く無関係に一定のリズムを刻んでいる」ということです。現在は、「確かに温暖期にあるが、この周期からみるとそれも束の間で、いつ気温が下降してもおかしくない。そうなれば地球も約1万年ぶりに氷河期に突入する」のだそうです。

さらに、ここ1万年の気温推移をみれば(前に紹介しましたように、グリーンランドの氷床から北極圏の気温を推定しています)、「確かにここ約100年の間は、小さなレベルで気温が上がっている。だが、さかのぼって気温推移をみると、工場も発電所もなかった時代に、今以上に温かい時期が何度も来ている。人類の出すCO2は気候変動とは関係ない」というのです。

つまり、「大きな周期をみても、小さな周期をみても、気温が人類の出すCO2で変化しているようには見えない。地球の向かう先は温暖化ではなく、寒冷化の可能性を疑うべき」と主張します。

その主張の根拠として、温暖化説を唱える気象学者たちが「大気」だけをみているのは「ものの見方が狭すぎる」と言い切って、地球の気温は「宇宙」、それに最も近い「太陽」に目を向けなればならないとも主張しています。

関連して言えば、温室効果ガスが地球温暖化の原因としてコンピューターでシミュレーション手法を開拓し、ノーベル賞を受賞された真鍋淑郎(しゅくろう)氏のグループは、受賞自体は嬉しいことではあるのですが、「仮定」そのものの誤りや「政治的意図が働いた」などとの指摘もあるようです(細部は省略します)。

東京大学の地球生命研究所丸山茂徳教授は「地球の温度は根本的に決めるのは日射量だが、それを圧倒的に支配するのは雲である。雲は白く、太陽光を反射する。雲量が1%増えると地球の平均気温は1℃下がることがわかっている」として、「雲の量を増やすのは、宇宙から降り注いている『宇宙線』である。高エネルギーの宇宙線が雲の材料となる埃に衝突して分散してその数を増やすので雲の量が増える」と別な角度から地球温暖化に疑問を投げかけます。

具体的には、「その『宇宙線』の量を左右するのは太陽活動であり、太陽活動は強くなったり(黒点の数が増える)、弱くなったり(黒点の数が減る)しているが、それ以外にも『太陽風』という目に見えない高温のガスを吹き出しており、このガスが『宇宙線』を弾き飛ばす。太陽活動が弱くなった時、『太陽風』のバリアも弱くなり、地球に降り注ぐ『宇宙線』が増える、その結果、雲が増え、気温が下がり、逆に太陽活動が強くなれば、『宇宙線』も吹き飛ばされ、雲も減って気温が上がる。近年、太陽活動が低調になりつつあるということで、地球は温暖化どころか、寒冷化する予兆がある」と丸山氏は主張します。

「氷期と間氷期をもたらす数万~10万年周期の気候サイクルは、地球の『天体運動』にその原因がある」と神戸大学兵頭正幸名誉教授は解説しています。つまり、「地球の自転軸の角度や公転軌道の形などは、月や惑星の引力により周期的に変わり、それによって、北半球高緯度が受ける日射量が周期的に変化し、氷期と間氷期を繰り返す」として(「ミランコビッチ周期」と呼称されます)、「この周期では、地球は約6000年間以降寒冷化に向かっており、約3万年後に氷河期に迎える」と主張しています。

このように、地球の気候変動は、太陽に関わる作用を主因としつつ、海流、水蒸気量、マントルや火山活動、地球磁場、銀河における太陽系の位置など、無数の要因によって動く「宇宙レベルの摂理」なのであり、こうした視点でみると、「人為的CO2が地球気温を動かす」などとそもそもの“次元が違う”ということでしょう。

これらの理論について、私など素人が理解できる範囲を超えているものがありますが、もっと長いレンジで「地球の動き」をウオッチする必要があるということなのでしょう。以前紹介しましたように、つい最近の1970年代には「寒冷化」狂騒だったものが、手のひらを返したように「温暖化」狂騒に変わりました。地球や宇宙に対する人類の“感知能力”が依然として未熟である証左ともいえるでしょう。

日本や外国の研究者の中には、「地球温暖化」に“異説”を唱えている人たちが沢山おられるのは明らかです。これらから、最近の「異常気象」(最近は、「極端気象」というそうですが)をすべて地球温暖化のせいにして、「温暖化の原因は人為的CO2の排出である」と断定するのは、かなり無理があると考えるのが妥当なのではないでしょうか。あるいは、そのように結論づけるのは“時期尚早”というのが正しいのかも知れません。

▼人為的CO2の削減は可能か?

人為的CO2排出に戻りましょう。これについてもすでに触れましたが、CO2排出の国や地域分布の歴史を振り返ってみますと(インターネットではトップ10の国々の1960年~2019年までの排出量の移り変わりが動画のように一目することができるサイトがあります)、確かに2004年まではアメリカが常にそのトップを走り、ロシアや中国などが追随してきましたが、2005年以降は、中国がトップに躍り出て、それ以降は2番手以降の追随を許さず、ダントツ1位でCO2排出をほしいままにしています。

2019年の内訳をみれば、中国107億トン、アメリカ48億トン、インド25億トン、ロシア17億トン、日本11億トンと続きます。その割合は、中国29.4%、アメリカ14.1%、EU28カ国8.9%、インド6.9%、ロシア4.9%、日本3.1%となります。なお、世界全体のCO2総排出量は336億トンで、そのうちG20の排出量は270億トン(約80%)となっています。

 ちなみに、これを「一人当たりのCO2排出量」でみるとまた面白い結果が得られます。第1位は、目下話題のサッカーワールドカップ開催国のカタールです。秋田県ほどの広さに286万人ほどの人口を有するカタールは、石油産出の富をもって、CO2排出など一顧だにしないまま、まさに“砂漠のオアシス”ともいうべき近代国家を築いたのでした。

 カタールに続き、アラブ首長国連邦、カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、アメリカ、ロシア、韓国と続き、日本はようやく第9位にランクインされます。なお中国は第12位にランクされています。

 このような中国は、2015年採択の「パリ協定」では、「2030年にピークアウトする」、つまり2030年以降はCO2削減の努力はするが、それまではがんがんCO2を排出することを認めさせました。前に紹介しましたように、「付属国Ⅰ国(つまり先進国)でない」との理由に加え、「一人当たりの排出量は低い」などと主張したのでしょうが、2005年以降ダントツ1位のCO2排出国であるという“事実”があるわけですから、トランプ前大統領が怒るわけです。

その中国は、2030年以降は「脱炭素」を進めるかも知れませんが、すでにアジア・アフリカ諸国に石炭火力発電所の輸出攻勢をかけています。そうすると、「非付属国Ⅰ国」のアジア・アフリカ諸国は、先般のCOP27で「地球温暖化の要因は先進国のせい」として先進国に「損害」と「損失」の賠償を要求したことに留まらず、近い将来、「パリ協定」の中国のように、「自国のCO2排出については、○○年以降に進める、それまではがんがんCO2を排出する」と主張するでしょう。

つまり、2030年以降、中国のCO2排出は多少減るとしても、エネルギー起源のCO2は、世界全体では減ることがないと考えざるを得ないのです。やがて90億人を超えると見積もられている世界の人口です。先進国の人口が減り続ける中で、「非付属国Ⅰ国」であるアジア・アフリカ諸国で増え続け、エネルギー源が大幅に必要になるのは明白だからです。

▼「人間の活動」を抑制できるか

そもそも人為的CO2の排出、つまり「人間の活動」によるCO2排出は、エネルギー起源のCO2排出だけではないことはすでに詳しく紹介しました。「ものをつくる」(31%)、「電気を使う」(27%)、「ものを育てる」(19%)、「移動する」(16%)、「冷やしたり暖めたりする」(7%)と人間の活動のほぼ全てに及びます。

 先進国がこれまでたどった道、つまり、ビル・ゲイツも指摘していたように、人口増にともなう都市の建設ラッシュをはじめ、電気を使うことがあたり前の近代的な日々の生活、生きるために必要な食料や栄養源を安定的に確保するための近代的な農業や牧畜の拡充、車や飛行機による移動や貨物などの輸送手段の確保、冷暖房が完備した快適な生活の追及などについて、90億人の“民”がそれらに気づき、地球上の至る所で求め、実際に普及したら、CO2排出量はまさに計り知れないほど膨らむことが明白で、現在、先進国を中心に世界中を巻き込んでいる地球温暖化対策にどれほどの意味と効果があるのでしょうか。

 逆に、増え続ける人口を維持して、いわゆるSDGSを実現するためには、「ある程度のCO2が必要である」との見方もできるのですから、矛盾が矛盾を呼んでいると言わざるを得ません。

 ビル・ゲイツのようなチャレンジには敬意を表しますが、実現はそう簡単ではなく“絵に描いた餅”になる可能性が大でしょう。私は、いつか、だれかが地球温暖化の真実や原因をろくに調べないまま、何がしかの意図をもって主張し始めた「地球温暖化対策」が、当初の狙い(意図)とは違った方向に歩み始め、自ら“墓穴を掘っている”ような気がしてならないのです。読者の皆様はどう思われるでしょうか。

話は変わりますが、新橋駅のホームの立つと銀座側に「LONGI」という中国のソーラーパネルメーカーの看板が目に入ります。看板の上部には「太陽光発電パネル 出荷量世界第1位」とも表示されています。「非付属国Ⅰ国」の立場を最大限に活用して2030年まで石炭火力発電所でCO2をがんがん出す一方で、すでに三峡ダムの建設などで膨大な量のコンクリートを使いまくり(言葉を代えれば、CO2を排出しまくり)、その上、太陽光発電パネル生産においては、すでに世界の8割以上のシェアを確保し、将来95%になるとの見積もりもあります。

原子力発電所についても、現在運転中の基数はアメリカ、フランスに次いで第3位の47基ですが、列国が軒並み新たな原発建設を控えている中で、中国だけは計画通り建設を続け、2018年8月、「10年後に世界の原子力標準化で中国が主導的な役割を果たす」との目標を表明したことが話題になりました。これらから、気候変動問題を最大限に活用しようとしている中国の“したたかな国家戦略”を垣間見ることができるのです。

蛇足ですが、森羅万象、あらゆるものを「国益」という観点からしたたかな戦略を張り巡らす国に対して、他国の評判のみを気にして「国益」など頭の片隅にも存在しないかのように見える国が太刀打ちできないのは明白です。このようなことも念頭に置きながら、次回、経費データがそろっている我が国の「温暖化対策費」を取り上げ、その費用対効果に迫ってみましょう。唖然とします。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)