我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(14) 少子高齢化問題(14) 具体的「少子化」対策の提案(その4)

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我が国の未来を見通す(14) 少子高齢化問題(14) 具体的「少子化」対策の提案(その4)

□はじめに

 1月31日に墜落したF15のパイロット2名の残り1名が2月13日、ようやく発見され、ご家族のもとに帰ることができました。2週間もの間、酷寒の海の中で放置されていたことを思いながら、殉職者の無念さやご家族の悲しみ、加えて、現役時代に部下や仲間たちを失った経験がよみがえり、本当に胸が痛みます。

 陸海空自衛隊の殉職者の累計は、昨年の追悼式(11月20日)時点で2019柱を数えました。「任務遂行時に不幸にして職に殉じた隊員を追悼する」ために、毎年、追悼式が挙行され、ご遺族はもちろん、(鳩山総理以外は)内閣総理大臣も必ず出席され、追悼の辞を捧げられます。

各県などでも、主要な駐屯地(基地)で年に一度は当該地域の殉職者の追悼式を必ず挙行します。もちろん、国家や社会のために不幸にして命を落とされる公務員は、自衛隊員以外、警察官や消防士などもおりますが、自衛隊の場合は、国防という危険と隣り合わせの任務を遂行するため、いくら注意を払っても殉職者をゼロにすることは難しいことも事実なのです。

私は、自衛官OBの1人としていつも無念の思っているのは、このような事故や殉職者の発生に対するマスコミの報道姿勢や国民の関心が、ほかの事故、たとえば、殺人とか交通事故などと同じような感覚でとらえられていることです。せめて、ニュースの最後に殉職者に対する敬意やねぎらいの言葉の一つも加えてほしいと願っています。

時々、私たちは時代の波とか社会の風潮で感覚が鈍くなって、何が正常で何が異常かを判断する能力(分別)が劣ってきているのではないかと考える時があります。

オリンピックの結果に一喜一憂している間も、あるいは、コロナウイルスが感染拡大して多くの国民が疲弊している最中にあっても、(憲法に明記されていない)自衛隊という組織の中で、空で、海で、そして陸で、限られた予算の中、酷寒や大雪に悪戦苦闘しながら、身の危険を顧みず黙々と己の任務を全うしている自衛隊員がいること、できれば、その結果、国の平和や国民の安寧な生活が維持されていることを認識していただきたいのです。そして、命を懸けた結果の殉職が決して“無駄死に”にはなっていないことを理解していただきたいと願っています。

そのような認識と理解が、殉職隊員を見送る国民のせめてもの礼儀であり、(できれば)義務であってほしいというのがOBの1人としてのささやかな願いです。欧米諸国の軍人が頑強なのは、そのような行為が“祈り”として国民の間に定着して後押ししていることも付け加えておきましょう。

ついでに言えば、現役時代から言い続けてきたことでもあるのですが、「自衛官が命を懸けて守るのに“ふさわしい”国家に早くなってほしい」と。「そうしないと、自衛官がかわいそうだ」との思い、残念ながら今でもぬぐい捨てることができません。

▼主要国の「婚外子」の増加と背景(続き)

さて前回の続きで、アメリカです。アメリカでは「婚外子」が社会的・文化的に容認されつつあること、国や社会全体が支援する仕組みを構築しているとの楽観的な考え方が根底にあるようで、「婚外子」の増加が出生率そのものを押し上げていいます。

「婚外子」の割合(2017年)は、全体では約40%ほどですが、子細にみると、黒人(約69%)、原住民(約68%)、ヒスパニック(約52%)、白人(約28%)、アジア系(約12%)とその順番がほぼ確定しており、アメリカ社会の特徴を物語っています。

微妙な問題だけにこれ以上深入りすることは止めますが、最近、アメリカでは10代の妊娠・出産が問題になっています。10代でシングルマザーになることは貧困を産む要因ともなっている一方で、精神的な面ではむしろ充実感を感じる少女も多いということで、1人で子供を産み、育てようとする「選択的シングルマザー」の増加が社会現象になっているのです。

そのシングルマザーたちの子供を作る1つの方法として、「精子銀行」が大きな産業となっています。全米におよそ30の精子銀行があり、ここを訪れる女性の2割ほどがシングルであり、今までに全米でおよそ20万人、ニューヨークだけでも1万5千人の子どもが生まれているといわれます。このような現象は日本人にはなかなか理解できないかも知れません。

アジアで最も「婚外子」の割合が多いニュージーランドの事情についても触れておきましょう。

ニュージーランドは、国全体で「ファミリーファースト社会の実現」との考えが定着しています。2017年、当時37歳で首相に就任した女性のジャシンダ・アーダーン首相が現職の首相として世界初となる6週間の産休を取得したり、国連総会に幼児を連れて行ったりしたことで話題になりました。

「ファミリーファースト」を実現するため、まずは、法律や制度、社会システム全体が「子育て家庭」を最優先する形成になっていること、そして、夫婦・子供たちなど家族の構成員全員が毎日、「家族事」を最優先する行動とタイムマネジメントの努力をすることも定着しています。その結果、“楽しい子育てエンジョイ・ライフ”を実現する環境が整備されているようです。

ニュージーランドには、「パートナーシップ」といって、婚姻関係になくても2年間の同棲期間を経ると事実婚となります。そのため、婚姻関係を結ばずに、事実婚のまま何十年も一緒に暮らしていたり、子供が居たりするカップルが多く存在します。それがニュージーランドではごく自然なことらしく、「気がついたら一緒にいた」というようななりゆきでカップルになる人が多く、互いが愛情をもって特別の思いがあれば、約束はなくても硬い絆で結ばれるということのようです。

これら各国の諸事情を総括すると、国によって少し差異はありますが、「結婚」と「子供」に対する考え方が、私たち日本人が想像する以上には様変わりしつつあることでは共通しています。

その結果として、良し悪しは別にしても、各国の「少子化」を回避し、国や社会全体の活性化に寄与しているようにも見えるのです。

▼我が国の「婚外子」増加の可否

さて、主要先進国のような考え方を我が国にそのまま適用できるのでしょうか?

我が国の法律においては、「子どもは結婚した夫婦から生まれるもの」という前提があります。フランスのPACS制度やニュージーランドのような“おおらかさ”がない我が国にあっては、未婚の親から生まれた子を持つ世帯は、補助や公的支援を受けるためにより煩雑な手続きを踏む必要があり、結果として、「婚外子」は不利益を受けてしまいます。「できちゃった婚」が多いのもそのような理由があるからです。

一方、「婚外子=不道徳」と決めつけたまま、「結婚」と「子供を持つこと」の結びつきを強くしたまま放置すると、「非婚化」そして「少子化」がさらに進むことを覚悟する必要があるでしょう。

厚生労働省の調査(平成28年)によれば、我が国の母子世帯の総数は206万世帯、父子世帯数は40万5千世帯で、これらの世帯数はここ15年間ほど一定です。その理由の9割弱は配偶者との離婚や死別ですが、文字通りの未婚の母(シングルマザー)世帯は18万世帯(9%弱)で、ここ数年間では増加傾向にあります。

この数字を多いとみるか少ないとみるかが難しいように、先進国を見習い、我が国の「文化」ともいうべき「家族」「結婚」「子育て」の考えを修正する柔軟性が期待きるかどうかと考えれば、そう簡単ではなく、悩ましいものがあります。

私は、内閣府の「少子化社会対策大綱」がこれら諸外国の事情まで調査した結果として出来上がったものと信じたいですが、(以前に取り上げました)フランスの歴史人口学者・エマニュエル・トッドの「日本社会の基礎となっている『家族』の過剰な重視が『非婚化』『少子化』を招き、かえって『家族』を殺す」との警鐘に耳を傾けてみる価値はあると考えます。

突き詰めれば、我が国の選択肢は、

(1)「家族」を重視して「少子化」を容認する(我慢する)、

(2)「結婚」を前提にして「婚姻数」と「子だくさん家族」の増加のために国を挙げてあらゆる手立てを考える、

(3)「不道徳」な面に目をつぶるか、(可能ならば)社会的に認められる“日本なりのスタイル”で「婚外子」を容認して国家や社会が支援する、

のいずれかではないでしょうか。

このままでは、(1)がますます拡大し、その結果がさまざまな問題が生起することはすでに紹介しました。

やはり、(2)と(3)を具体的に分析し、現実味のある選択肢を採用するしか、「少子化」対策上、ほかの手段がなさそうです。

次回以降、「養子縁組」「里親制度」を含めて、「子供を作り、育てる」原点に立ちかえって再度考えてみたいと思います。区切りがいいので、今回はこの辺にしましょう。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)