我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(11) 少子高齢化問題(11)具体的「少子化」対策の提案(その1)

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我が国の未来を見通す(11) 少子高齢化問題(11)具体的「少子化」対策の提案(その1)

□はじめに

 歴史教育は、時代時代の個別の事象を歴史的事件と称して教え、覚えさせるだけなので、学生は、教えられた歴史が史実か否か、あるいは前後の事象や諸外国の事象との関係などに疑問を持つことも興味を持つこともないまま、年号と事件名をひたすら覚えることをもって歴史を学んだような気になります。

その上、歴史研究家も、「歴史のif」はタブーとして、歴史の岐路のようなもの、あるいは岐路になった背景や要因を研究し、仮に(判明している)その後の歴史につながる要因となった「選択枝」と別の「選択枝」を採用したら、というような研究を封印するのが常です。

本シリーズは、「我が国の未来を見通す」ことを主眼にしています。よって、「選択枝」にタブーはありません。未来の「事象」を予測して、素晴らしい事象につながると判断すれば堂々とその「選択枝」を採用すればいいし、暗雲が立ち込めることが予測されるのであれば、その暗雲を除去、回避、あるいは遠ざけるような「選択枝」を選ぶのは当然なのです。

その上、仮にその「選択枝」が極めて険しい“いばらの道”であっても、時の為政者(たち)は、的確に判断し、国家そして国民を導いていくべきと私は考えます。国家の岐路、つまり国家の未来はそのようなリーダシップを持つ為政者(たち)を輩出できるかどうかにかかっていることを歴史は教えています。

長くなりました。このまま推移すると我が国の「少子化」を避けることは不可能です。それを緩和する「選択枝」を先延ばしすればするほど元に戻すことがより困難になることも明白です。

今年は、岸田首相の呼びかけもあって、久しぶりに春闘で「賃上げ」が実現しそうです。しかし、私は中身が問題だと思っています。高所得者、(多額のタンス貯金保有の)高齢者、独り者、結婚しても子供がいない世帯などはそのまま据え置き、結婚願望の若者、子育て中の夫婦(できれば2人以上の子供を育てている夫婦)などの収入をことさらにアップするなど、メリハリが必要だと思います。岸田首相は、政策の柱に「分配」を掲げているので、堂々とメリハリをつければいいし、そのようなメリハリこそが我が国の将来を左右する第一歩になると私は確信しています。

▼低「婚姻率」・「晩婚化」、高「離婚率」・「生涯未婚率」増加傾向への対策

さて、〝言うだけ番長″にならないように、本メルマガでも、無い知恵を絞りながら「少子化」対策を提案してみようと思います。

一般によく言われている「少子化」対策のポイントは、「若い世代が、仕事や勉学などの社会生活を優先させるあまり、結婚、出産、育児を含む家庭生活の構築に向けた将来設計を先送りすることのないよう、社会保障制度や子育て支援制度、雇用政策などの政策パッケージによって彼らのワークライフバランスの向上を図るようにすべき」とか「『社会全体で子供を育てる』という雰囲気を醸成することである」などと集約されます。

私は、このような美辞麗句的な総論よりも、前回総括しましたような、「少子化」の原因となっているもの一つ一つにメスを入れ、個々にその対策の是非を論じ、「社会的な変化」を引き起こすことができるか否かを検討することが必要と考えます。

 「結婚をするかしないか」「いつ結婚するか」などは、まさに個人の人生観や価値観に負うところが大きいことは間違いありません。だからこそ、国家や社会が介入せず、放置したまま今日に至っているのでしょう。一方、国家や社会が若者の結婚を応援する体制が十分かと問えば、決して十分ではないと考えます。まだまだやれることがあるはずです。

 当然ながら「少子化社会対策大綱」にも「結婚前」「結婚」「妊娠・出産」「子育て」のライフステージの各段階における支援施策の方向性について縷々述べられています。その方向そのものにはさほど違和感はありません。まさにそのとおりだと思います。

しかし、どうしても「具体性に欠ける」との印象も持ちます。もっと、具体的なデータを追ってみましょう。たとえば、結婚後の「扶養手当」ですが、配偶者の扶養手当は、公務員を例にとれば、月にして1万3000円ほどですから、一般企業などもおおむねそのような額と推測されます。

結婚前の若者は、今は昔と違ってそれぞれが働いており、二人合わせれば相当の収入になることでしょう。しかし、結婚して妊娠でもしようものなら、ある時期から女性は退職を余儀なくされ、収入は、夫の収入+月額1万3000円ほどになるので、いきなり生活そのものを切り詰める必要があることは明白です。加えて、女性の結婚前のキャリアが消滅することも問題でしょう。

 数年前までは、親戚の中に必ず一人や二人は必ずいた“おせっかい伯母さん”、つまり“実質的な仲人”が消滅して久しいことも事実です。結婚しない理由には「出会いがない」というのがあります。最近は民間の「結婚相談所」(有料)とか「出会い系」サイトなどもあるようですが、未だ抵抗がある若者も多いことでしょう。

大綱にも「地方公共団体による総合的な結婚支援の取組に対する支援」の項目もありますが、このような公営の「結婚相談所」とか「結婚支援所」のようなものが結婚願望の若者たちに信頼され、実績を上げるためには他の政策と連携をとりながら様々な努力が必要であると考えます。

個人の人生観まで変えることは難しいとしても、政府が①結婚(家族)手当の新設、②配偶者扶養手当の増額、③結婚前キャリアの保証、④公営「結婚相談所」の充実などの政策を実行して、国家や社会を挙げて「結婚するムード作り」をすることが大事なのではないでしょうか。

▼「子供を作る」できれば「2人以上の子供を作る
」対策

 以前、「子供を作る」意志のない夫婦が7割弱存在することを紹介しましたが、その理由は、考え得るだけでも、もともと子供が嫌いな夫婦、晩婚ゆえ諦めている夫婦、妻がキャリアウーマンで仕事優先の夫婦、経済的理由で子供を持たない夫婦、それに不妊症のために子供を欲しくても授からない夫婦など様々だと思います。

これらの背景に現在社会の風潮があることも否定できないと思いますが、「不妊症治療の保険治療化」などの対策も逐次進んでいるようです。個人的には、「子供を作らない」あるいは「2人以上の子供を作らない」理由の中核に「経済的理由」があるような気がしますので、まず、我が国が、どれだけ「子育て」のための経済的支援を実施しているかを取り上げてみたいと思います、少々細かい分析になりますが、お付き合いください。

現在の子育て支援の主体は、「児童手当」(0歳から中学校卒業まで受給)です。その実態をチェックしてみましょう。子供1人当たり支給月額は、3歳未満は、一律1万5000円、3歳以上から小学校修了前が第1子・第2子は1万円、第3子以降は1万5000円となります。中学生は一律1万円です。これらにはすべて所得制限がかかっています(子供の数によって所得限度額は変わり、子供が1人の場合は660万円、2人の場合は698万円、3人の場合は736万円)。上記所得制限を超える場合の児童手当は子供の年齢にかかわらず一律に月額5000円となります。

 つまり、所得制限がかからない世帯の第1子・第2子のみの児童手当総額は一人当たり198万円(中学校卒業まで)ということになります。第3子は252万円まで増額されます。所得制限がかかっている世代は何人子供が生まれようと総額90万円です。

 この額が多いか少ないかについては様々な意見があることでしょうが、実際の子育てにいくらぐらいかかるかをチェックしてみましょう。

 我が国は2019年以降、幼児教育・保育の無償化が進んでいますが、いずれも所得制限があり、幼稚園、保育所、認定こども園などによって細かく規定されています。たとえば、幼稚園の場合、住民税非課税世帯(年収約360万円以下)かどうかによって、無料あるいは一定額の免除などが規定されています。

 ひと昔前は、つまり就学前幼児の育児費は年間約100万円かかるといわれていましたが、最近は、0~3歳までは月額約7万円、年間約84万円、3年間で約250万円、4歳から6歳までは、様々なケースはありますが、公立の幼稚園の場合は、3年合計で65万円、私立の場合は約159万円といわれます。

小学校の授業料は公立であれば無料ですが、授業料以外にかかる費用もあります。文科省の「子供の学習費調査」(平成6年度より隔年実施)によると、子供の学校教育や学校外活動のための経費の実態は、公立の場合は年間約30万円、6年間で約190万円、私立の場合は、年間160万円、6年間で約960万円かかるといわれています。

中学校の授業料や教科書代は無料ですが、実際の教育費は、公立の場合は年間49万円、3年間で約150万円、私立の場合は、年間平均約141万円、3年間で約420万円かかることになります。

 これらから、0歳児から中学校卒業までの育児・教育費は、幼稚園・小学校・中学校が公立の場合は655万円ほど、私立の場合は1789万円ほどかかる計算になります。

 これらから、「児童手当」は、実際にかかる育児・教育費のうち、2人以下の子供の家庭にあっては、公立の場合は約3割、私立にあっては約1割強しか充当していないことになります。そこに第3子が生まれたといっても加算額は50万円ほどにしか過ぎません。

別な見方をすれば、所得制限がかからないような家庭にあっては、子供を私立に入学させることは難しいとも言えるのかも知れませんが、実際に教育費がかかるのは、「児童手当」が切れる中学校卒業後な
のです。次回、そのような「現実」まで含んで、国が実際にどれほどの子育て支援をしているかについ
て諸外国の例と比較してチェックしてみようと思います。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)