我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(51)「気候変動・エネルギー問題」(16)人為的CO2削減の費用対効果

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我が国の未来を見通す(51)「気候変動・エネルギー問題」(16)<strong>人為的CO2削減の費用対効果</strong>

□はじめに

 我が国の将来の防衛態勢を決定づける、いわゆる「戦略3文書」がこれまでの名称を変えて、12月16日に閣議決定されました。その細部については次回以降に触れてみたいと思いますが、現役時代、何度も防衛力整備に関わった経験から、正直、「我が国もようやくここまで来たか」と感無量の一言です。

ただ、「脅威が顕在化しないと対策を講じない」、言葉を代えれば、「脅威の顕在化のための『未然防止』ができない」という我が国の歴史的な“国柄”を思えば、それだけ“脅威が眼前に迫っている”という証拠ですから、手放しで喜ぶことはできません。

しかし、我が国はよくよく不思議な国です。その第1は、この憲法下で“敵地反撃能力”を認めようとしていることです。戦後70年あまり、「『専守防衛』に拘(こだわ)ったのは何だったのだろうか」と、改めて、手足を縛られたような防衛政策の下で、その必要性を訴えつつも実現しないまま悪戦苦闘したことを思い出し、少し複雑な思いに駆られています。

 一方、その副作用として、「これでまた憲法改正は遠のいた」とも思ってしまいます。「現憲法のもとで、敵地に対する反撃までできるのであれば、(安倍元総理が主張されたような)『自衛隊を明記』するために憲法改正は必要ない」との意見が出ると推測するからです。

個人的には、「反撃能力を保持できるのであれば、あるいは宇宙軍などとの名称を用いるのであれば、この際、『自衛隊』という名称そのものを、『軍隊』は無理でも『防衛軍』とか『防衛隊』に変更してほしい」という願望がありますが、それを期待するのは無理でしょう。

気になりますのは、この「反撃能力」に、またしても苦しまぎれに「最小限」などとの言葉が使われていると報道されていることです。警察力行使においては、「警察比例の原則」がありますので「最小限」は妥当でしょうが、軍事力行使は、敵に勝る圧倒的な戦力を集中して敵を撃破するのが原則です。特に、相手が核兵器の使用をチラつかせるような状況下では、この「最小限」とは何を意味するのか、理解不能です。

 しかも、実際問題として、「核保有国に対していかなる反撃能力を行使するのか」という悩ましい問題があります。これについては、このたびのウクライナ(?)によるロシア国内の軍事目標に対するピンポイント攻撃が参考になるだろうと思います。

この攻撃は、状況によってはウクライナ戦争の性格をがらりと変えてしまう危険な一面を有しています。これまでの「ロシアによるウクライナ侵略」から文字通りの「ウクライナ戦争」にフェーズアップし、ややもすると、ロシアによる核攻撃のトリガーになる可能性もあるからです。よって、ウクライナは、正式には「攻撃した」とは発表せず、「ロシアがウクライナであらゆることができるのに、ウクライナに同様の権利がないのは道義的に軍事的にも誤りだ」(8日)との外相談話にとどめたものと考えます。

真意は不明ですが、ウクライナが米国などから供給されたミサイルではなく、ロシア製の無人飛行機を使ったこともある種に政治判断だったことでしょう。これについても、米国製ミサイルなどを使えば、本戦争がロシアとウクライナの2国間戦争に留まらないことを知っているからであり、アメリカをはじめNATO諸国もそれは望んでいないと考えます。

 他方、ロシア国内からクリミア半島をつなぐ橋の攻撃に続き、国内の軍事目標が攻撃されたにもかかわらず、今もって明らかなリアクションがないロシア側にも、「何かある」と睨みながら日々の報道を注視しています。

 さて将来、万が一、わが国も(核を保有している)周辺国との間で同様の紛争が勃発した時、同じような状況を迎える可能性は少なくないと言えるでしょう。話題になっている長射程とか超音速の地対地ミサイルなどで実際に敵の軍事目標に対して有効な反撃することができるのか、技術的、軍事的、さらには政治的な意味においてその可能性などについてよくよく詰めてほしいと願っています。

 核兵器は保有するだけで抑止力になりますが、通常兵器は実際の運用まで考察した上で保有しないと抑止力にはならないのは明らかです。相手に見透かされないよう“本気度”を表明し、しかもその可能性に裏付けされてはじめて抑止力になると考えます。

不思議な国と考えるもう1つは、具体的な防衛力増強の議論の前に財源論で物議を醸し、自民党内でさえも考えが分かれました。「増税論」で結着したような報道ですが、先の有識者懇談会といい、だれが糸を引いているかは明らかです。しかし、この段階の財源論の目的はどこにあるのか、よく理解できません。

経験から言えることは、戦後、必ずといっていいほど、この手のやり方、つまり政府や政治家が重い腰を上げてようやく方向転換しようとする時、一部の官僚たちが省益最優先とは言わないまでも既得権を守るため、いかにも説得力がありげな「大義名分」を上乗せしたような形で抵抗することを繰り返されてきました。今回の「国民(?)の負担」発言にもそのような匂いがします。高市大臣の主張ではありませんが、その構図からそろそろ脱却しないと“我が国も未来は危うい”と考える時が来たのではないでしょうか。

今回、取りあげます「地球温暖化対策費」などは、これまで全く議論されることもないまま、多額の税金がすでに使われ、今後も使われようとしています。その費用対効果を考えると、「防衛費にまわせ!」と叫びたくなるのは私だけでしょうか。読者の皆さんもどうぞ一緒に考えて頂きたいと思います。

▼我が国の「温暖化対策費」

さて日本の温暖化対策です。あまり明らかにされていませんが、我が国が「温暖化対策費」としてこれまで投入してきた国家予算を眺めてみましょう。その実態を知ると笑ってしまいます。まず、政府は毎年「温暖化対策費」は計上していますが、地方自治体も予算を計上しています。自治体の細部まで調べる時間的余裕がないので、2017年までの細部を調査した資料を引用していることをご理解いただきたいと思います。

環境省は、2005年以降毎月2月、温暖化対策用の予算を「地球温暖化対策関係予算」として公表しています。それによると、2017年までの13年間に総額およそ12兆円(年平均約9000億円)の予算が税金から投入されています。

環境省はまた、低炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入や省エネ対策をはじめとする地球温暖化対策(エネルギー起源のCO2排出抑制対策)を強化するため、2012(平成24)年10月1日から「地球温暖化対策のための税」を段階的に施行し、2016年4月1日、導入当初に予定されていた最終税率への引上げが完了しました。本税制は、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、環境負荷(CO2排出量)に応じて国民に広く公平に負担を求めたものでした。

つまり、私たちの日々の暮らしの中で、すでに地球温暖化対策のための負担を強いられているのです。防衛予算についてはこれほど議論しているのにもかかわらず、「いつの間にか」です。これらを知っている国民はほんの少数と思うのですが、国家予算だけではありません。また地方自治体も、追い切れていないものもありますが、個々の経費を積み上げると、同期間に総額約17兆円を投入しているのだそうです。これらも私たちの税金で賄っていることは明白です。

すなわち、国と地方自治体を加えると、2005年から2017年まで「温暖化対策費」はすでに30兆円を超しています。これは東日本大震災の復興予算額にほぼ近い額といわれ、4人家族なら実に100万円以上も“気づかないまま”温暖化対策に使われたことになります。このあたりの素朴な質問に対する環境省の回答を読むと笑ってしまいます。正直申せば、(想像はしていましたが)「環境省よ、お前もか」という心境になります。興味がある読者はぜひ環境省のホームページなどをチェックしてみてください。

当然ながら、2017年以降も「温暖化対策費」は継続して投入されています(国家予算だけでもさらに3兆7千億円弱)。それでも、環境団体から例年のように「化石賞」を受賞し続けている我が国ですが、問題は、この巨額な対策費が本当に「地球の温暖化を抑える」ことに役立ってきたのかどうかにあります。

▼「温暖化対策費」の費用対効果

すでに紹介しましたように、「パリ協定」(2015年採択)において、日本は2013年の水準から26%削減することを約束しました。それから5年後の2020年10月、当時の菅首相が「日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言し、「温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%削減、更に50%削減の高みを目指すこと」を発表しました。

一方、IPCCは「2030年までに世界の気温が産業革命前の水準より1.5℃高くなると試算する」と発表していますが、根拠になっている気温上昇グラフを子細にみると(この際、「加工」されていることは目をつぶりましょう)、すでに温度上昇している2013年を基準にすれば2030年まで、平均気温がもう0.27℃上昇することを意味しています。これまで紹介しましたように(諸説ありますが)、地球の気温上昇に対する寄与度は、水蒸気が48%、CO2が21%、雲9%と続きます。

よって、0.27℃の21%、つまり0.057℃がCO2の寄与度になります。世界のCO2排出の内訳は、これについても前回紹介しましたように、中国29.4%、アメリカ14.1%、EU28カ国8.9%、インド6.9%、ロシア4.9%、日本3.1%となります(日本はいつも3%前後です)。

細かいですが、全体の3.1%しか排出していない日本が2013年から2030年までCO2を46%減らすとすると、日本が地球全体の気温を減らす効果は、「0.057×0.031×0.46」、つまり、0.00081℃にすぎないことがわかります。

さてこの間に、我が国が「地球温暖化対策」として、現時点までの予算を2030年までこのまま使い続けるとすれば、総額ほぼ50兆円になると見積られています。これ以外にも「温暖化対策のため」と称して、2012年に「再エネ発電賦課金」が導入され、電気の使用量に応じて、電気料金の一部を使用者が負担することになっています(私はこれも知りませんでした)。この期間中の総額はおおむね30兆円といわれます。

この賦課金はたぶん太陽光発電に転換される際の補助金などに使われるのでしょうが、これまでの実績から温室効果ガスを1%下げるのに毎年1兆円かかるといわれています。つまり、菅内閣が約束した26%から46%削減を実現しようしたら、単純計算では毎年20兆円かかることになります。すでに触れましたように、太陽光発電に使われる結晶シリコンの80%は中国製(その半分以上は新彊ウイグル生産といわれます)ですし、太陽光発電は太陽が照った時だけ発電する間欠性を有していますので、火力発電設備などを保持し続ける必要があるとの二重投資を強いられます。また太陽光発電のためには広大な面積を必要とするので、森林の伐採など環境破壊にもつながります。

これらをまとめますと、我が国は、合わせて80兆円を巨額な経費を消費し、その上に新たな様々な問題をかかえることを覚悟しつつ、地球の平均気温を0.00081℃冷やすそうとしているのです。

「0」の数を数えると驚愕しますが、どのような手法を用いてもその効果を検証することは不可能でしょう。よって、いかなる結果になってもだれも責任を問われませんし、これだけの巨額を投入しても、「地球温暖化防止にはほとんど寄与しない」とした見方もあります。

当時、政府がこのあたりの具体的な数字を発表すれば、マスコミが取り上げただろうと考えられますが、なぜか「地球温暖化論」に異論をはさまず、逆に煽っているマスコミは、知っていても報道しなかったのかも知れません。

さてその間に、全体のCO2排出の30%(我が国の約10倍に相当)に及ぼうとしている中国は、日本などが巨額を投入してCO2削減努力をしていることなど眼中にないまま、2030年まではがんがんCO2を排出し続けます。

実際に、中国の現行の計画では、今後5年でCO2排出量は1割ほど増えると算定されています。その増加量12.4億トンは、2020年の我が国の年間CO2排出量11.9億トンとほぼ同じです。また、我が国の石炭火力発電は約5000万キロワットですが、中国では、毎年、これに匹敵する発電所を建設しています。やがて、インドをはじめ、アジア・アフリカ諸国もそれに続くことでしょう。

このような状況下にあるのは日本だけではなく、投入経費に多少の差異はあるものの、「付属国I国」、つまり先進国は皆、同じです。それが、私が前回、「墓穴を掘った」と言い放った意味です。何度も言いますが、トランプ前大統領が怒って、“意味のない”CO2削減公約の「パリ協定」から離脱するわけです。

少なくとも現時点でCO2排出量の80%を占めるG20諸国が足並みをそろえて削減努力をすれば、何らかの効果が出てくる可能性があるでしょうが、G7に加え、中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、トルコ、サウジアラビアなどの”顔ぶれ”をみると、その合意は不可能と考えるのが現実的です。

▼実際の効果はもっと低い!

最後にとどめを刺しておきましょう。我が国の「温暖化対策関係予算は、A」2030年までに温室効果ガスの削減に効果があるもの、B」2030年以降に温室効果ガスの削減に効果があるもの、C」その他結果として温室効果ガスの削減に資するもの、D」基盤的施策に分類して計上しています。その細部の内訳は不明ですが、たぶん、「電気を使う」、つまりエネルギー起源のCO2排出の削減が主な経費であると推測できます。しかし、これも何度も繰り返しましたように、「電気を使う」は全体のCO2排出のわずかに27%にしか過ぎません。

CO2は「ものをつくる」「ものを育てる」「移動する」など5つの「人間の活動」によって排出されます。つまり、これらの活動にも効果的な抑制施策を講じないまま巨額の経費を投入しても、実際の温暖化抑制効果はもっと下がることは明白なのです。

冒頭に紹介しましたように、防衛関係費の財源が議論されていますが、防衛力の内訳はもっと具体的ですし、その効果も明白です。「温暖化対策予算」ほとんど議論されないまま、すでに巨額を投じて、今後も巨額を投じようとしていますが、まさに“焼け石に水”のようなこの経費を少し減らすだけで、防衛関係費の増加分は賄えると私は考えますが、皆様はどう考えるでしょうか。

結論から申せば、気候変動対策は、一部のヒステリックな環境主義者、この機会を国益に最大限に活用している国々、これを利用して先進国からお金をむしり取ろうとして発展途上国、そしてこれによって潤っている企業などを喜ばす以外の効果がほとんどなく、人類史上最悪の「合意事項」なのかも知れません。国連を中心とする国際社会はどこで間違えてしまったのか、そう簡単には戻れない所まで来てしまいましたが、本音を言えば、早急に「軌道修正」をする必要があると考えます。

戦後、他国の顔色をうかがうのが“国是”のような我が国としては、トランプ元大統領のように「離脱する」とは宣言できないまでも、“したたかに、ほどほど付き合う”くらいの範囲にとどめ、その経費はほかに充当すべきと考えます。

すでに「気候変動対策や『脱炭素』政策は無意味。日本を破壊する!」と警鐘を鳴らしている人たちが沢山おりますが、賢く、勇気がある政治家、学者そして官僚の出現を待望したいと思います。

次回以降、気候変動問題に直接かかわるか否かは別にして、資源小国の我が国のエネルギー問題について取り上げ、読者の皆様と一緒に解決策を考えて行きたいと思います。その後に、「気候変動・エネルギー問題」の最終的な総括を行ないます。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)