我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(46)「気候変動・エネルギー問題」(11)「『地球温暖化』と対極にある考え方」(3)

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我が国の未来を見通す(46)「気候変動・エネルギー問題」(11)「『地球温暖化』と対極にある考え方」(3)

□はじめに

「国連気候変動枠組み条約」の第27回締約国会議(COP27)が11月6日、エジプト東部シャルムエルシェイクで開幕しました。会期は18日までのようです。シャルムエルシェイクはシナイ半島の最南端にあるリゾート地で、ここでの開催は警備がしやすいということもあるのでしょう。

すでに紹介しましたように、つい先日、国連環境計画(UNEP)が「各国が現在掲げる温室効果ガス排出量の削減目標を達成しても、今世紀末までに世界の平均気温は産業革命前から約2.5℃上昇する。『1.5℃上昇』に抑えるという目標は達成できないため、各国のさらなる削減努力が必要だ」と発表したばかりですので、COP27では、そのための排出削減加速が焦点になると報道されています。

 また今回は途上国が多いアフリカで開かれるため、先進国による途上国への資金支援をめぐり、激しい攻防がすでに始まっているようです。前回のグラスゴーで注目を集めた「損失と損害」(ロス&ダメージ)が争点のようですが、その背景に、途上国側には「これまで先進国が温室効果ガスを大量に排出しながら開発してきたことが温暖化を招いた」との認識が強いことがあるのでしょう。

 一方、ロシアのウクライナ侵略で国際社会の分断が深まるなか、地球規模の課題に向けて各国が協調できるかが焦点となっていることに加え、ウクライナ侵略に起因するエネルギー不安から、CO2排出量の多い石炭火力発電に回帰する国が相次いでおり、各国の合意のとりまとめはかなり難航しそうです。

 COP27については、しばらく注目しつつ、会議の結果や課題が判明しそうな頃を見計らって再度取り上げましょう。

 さて先日、有能な若い会社経営者と環境問題や気候変動問題について話をする機会がありました。その際、歴史問題などもそうなのですが、人は一度頭の中にインプットした考え方(視点)を変えるのは容易なことでないということに改めて気がつきました。

「人間は耳目に入る情報から、自分にとって価値があり有意義な情報を『嗅覚』によって選択する。その『嗅覚』を培うものは、『教養とそこから生まれる見識』である」とお茶の水大学藤原正彦名誉教授が自書『国家と教養』で述べていますが、「感知力」とか「洞察力」と置き換えてもいい「嗅覚」は、確かに自分の「見識」の範囲でしか働かないことはよく理解できます。

気候変動問題については、素人の私の「嗅覚」が未熟なことが主な原因かも知れませんが、何か“きな臭い匂い”を感じ始めています。だからこそ、「温暖化否定論者」たちが温暖化を否定する根拠やデータをよく理解した上で、つまり、自分なりの「教養とそこから生まれる見識」をもって「嗅覚」を働かすことができるようもう少し掘り起こしを続けたいと考えています。しばらくお付き合い下さい。

▼地球は「寒冷化」に向かっている!?

 前回、データの「加工」の話題を取り上げました。この「加工」の正当性については、気候の専門家である気候学者をはじめ、このデータを完成するまでに様々な分野の知見者が英知を集めているはずですので、前回のような「加工」の指摘は大多数の知見者たちの意に反する極論であり、少数意見なのかも知れません。

 温暖化否定論に立つ人たちは、「加工」以外にも温暖化を否定する様々なデータを投げかけていることも事実です。しばらくそれらを追ってみましょう。まず第1に、「約1万年の気温の変化をみると、地球は『寒冷化』に向かっている」、つまり「自然変動」の主張です。

 まず、1万年も前からの気温がどうして測定できるのか、という疑問が沸き上がりますが、その解は、氷河の氷を分析すると、水分子H2Oをつくっている酸素原子Oの「同位体比」を測ると、氷ができた時の気温、つまり、蒸発した海水が雪になって降った時の気温を測定できるのだそうです。こうして、氷を掘って円柱形の「氷床コア」を採取し、深さ方向の年代と同位体比を決めれば、気温がどのように変わってきたかをつかむことができるのだそうです(ここまでが私の限界で、これ以上踏み込むのは不可能です)。

 こうして推定された過去1万1000年(地質時代の区分のひとつで最も新しい時代を意味する「完新世」と呼ばれます。新石器時代以降にあたります)の北極圏の気温の変化は、1万年ほど前を最後に「氷河期」が終わって「間氷期」に入り、その後の気温は上がったり下がったりしているものの、おおづかみにすると下降傾向をたどっているのだそうです。

地球全体が暖かかった9000~5000年前を完新世の「最温暖期」と呼び、日本ではちょうど縄文時代の中期で、海面が今よりも10メートルほど高かったようで、関東の内陸で見つかる貝塚はその名残といわれています。

約4000年前からあとに、地球は温暖期を3回迎えますが、それぞれ「ミノア温暖期」「ローマ温暖期」「中世温暖期」と呼ばれます。この「中世温暖期」は、日本は平安時代に相当し、岩手県平泉で藤原3代が繁栄していた頃です。食物の豊富な暖かい時期に文明が栄えたことは当然だったのです。

「中世温暖期」の後の1350~1850年ごろは「小氷期」(ミニ氷河期)と呼ばれ、当時は世界各地が寒かったとの様々な記録が残っています。日本は室町時代から江戸時代で、冷害や飢饉がよく起きたことも記録されていますが、この「小氷期」以降、気温が約1℃前後上昇しています。その原因は、地球温暖化論者が主張する「人為的CO2」に加え、前回指摘しました「データ加工」、そして「自然変動」の“合わせ技”であると温暖化否定論者は主張しています。

過去1万1000年間のCO2濃度についても南極の氷床コアの分析から推定されるのだそうです。CO2濃度についてはのちほど詳しく取り上げますが、260~280ppm(百万分率、百万分のいくらであるかという割合)の間でゆるやかに変化しています。正確には10000年~7000年ぐらいまでは、濃度はやや下降傾向にあり、6000年以降は、ゆるやかな上昇傾向にあります。

これらから、「過去6000年前までにはCO2濃度は下がっているのに気温が上がっている、あるいは6000年前以降は、CO2濃度は上がっているのに気温が下降傾向」にあります。これらから「CO2の温暖化力はほとんど効かなかった」、極端な話をいえば「CO2と気温の変化に因果関係がない」とも言えるのだそうです。

▼衛星観測データが語る「真実」

温暖化論者をはじめ多くの人々は、前回取り上げたような気温の「加工」の正当性を主張し、「氷床コアの分析など信頼できない」との意見を持っているのでしょう。実は、米国アラバマ大学ハンツビル校(UAH)では、1979年から約40年間、人工衛星で大気温度を観測し続けてきました。

衛星は、北緯80度から南緯70度の地球上空を日に何周もしています。UAHは地表から約2キロメートル(大気低層)と6キロメートル(対流圏中層)と18キロメートル(成層圏下層)に焦点を当て、酸素分子が出すマイクロ波を測って温度に換算しています。特に、地上の実測値と対比できる大気低層のデータは、「都市化」の影響をほぼ除いたものとみられています。

 それらのデータから様々なことが判明しています。第1に、地球表面の約7割を占める海の表層水温がグラフの姿、つまり大気温度に大きく左右していることがわかります。とりわけ、1997・98年と2015・16年、大気はその前後の年に比べ、プラス0.5℃ほど突出しています。「エルニーニョ現象」の影響と分析されています。

「エルニーニョ現象」の簡単に触れておきましょう。太平洋の表層水温は約10年とか数十年周期の振動に加え、エルニーニョ(神の息子・キリストという意味のスペイン語です)現象とラニーニャ(ニーニョの女性形です)という特別の推進変動があります。

南米チリ沖合の深海では、冷たいフンボルト海流が南極海からゆっくり北上しますが、赤道あたりで浮上した冷水塊が貿易風に押されて西の方に向かい、太平洋の中央部を冷やします。この貿易風が弱まったり強まったりし、弱まった時は冷水が浮上しにくくなって表面水温が上がります。これを「エルニーニョ現象」と呼び、反対に貿易風が強まると気流に吸い出された冷水塊が表層水温を下げますが、これを「ラニーニャ現象」と呼びます。エルニーニョとラニーニャはほぼ交互に繰り返し、1951年から2017年間の67年間で17回のペアが発生しました。

 その中で最強だったのが1997・98年と2015・16年で、世界各地で高温をもたらし、2015年12月の北半球は大暖冬になりました。強いエルニーニョは、しばらく太平洋の表層水温を高く保つためにその後の気温は高止まりしやすいといわれています。

 第2に、前回も言及しましたが、大規模な火山灰が太陽光をさえぎって気温を下げることです。衛星による気温データでも1982年のメキシコ・エルチチョン噴火と1991年のフィリピン・ピナトゥボ噴火の影響がくっきりと見えます。

 これらから「都市化」を除いた大気温度は、年代の古い順から、まず2度の火山の大噴火によって、少なくとも1年間は気温を0.3~0.5℃下げ、それ以降の2~3年ほど冷却効果がありました。そして、2つのエルニーニョに挟まれた2001~15年の気温偏差は0.2℃程度で、気温が上がった気配はほとんどありません。

さて最近、大気中のCO2は年々増加傾向にあることは間違いなく、「温室効果ガス世界資料センター」(DCGG)の解析によると、2021年の世界のCO2平均濃度は、前年と比べて2.5ppm増え、415.7ppmといわれます。産業革命前の1750年以前の平均的な値とされる278.3ppmと比べれば、49%ほど増加していることになります。上記2001~15年の間にもCO2は快調に増え続けたことを考えますと、少なくともこの15年間の大気の気温を「おもにCO2が決めた」と断定するのは難しいことがわかります。

これらから、「都市化」の影響も「加工」もない衛星データを見る限り、「エルニーニョ現象」も火山噴火になければ、過去40年間に上がった気温は0.2℃(100年あたりでせいぜい0.5℃)程度だろうと予測できます。その半分が自然現象の影響と見積もられることから、人為的CO2の効果は100年あたりでせいぜい0.3℃とういうことになります。

ただし、「約40年はまだ短く、結論を出すにはもう20~30年ほどの観察が必要だろう」(前述の渡辺正氏)との分析のように、まだ結論を出すのは早そうです。地球温暖化の結果として起きているといわれる様々な現象を否定するデータについては次回、紹介しましょう。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)