我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(47)「気候変動・エネルギー問題」(12)「『地球温暖化』と対極にある考え方」(4)

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我が国の未来を見通す(47)「気候変動・エネルギー問題」(12)「『地球温暖化』と対極にある考え方」(4)

□はじめに

 先日、某局のテレビ番組で櫻井よしこ氏が「今、日本は有事の最中にある」旨の発言をしているのを観て、「有事」の定義を「国家や企業の危機管理において、戦争や事変、武力衝突、大規模な自然災害など非常事態を指す概念」と解釈し、それに至る「未然防止」まで含むとすれば、まさに「有事」なのだろうと納得しました。

その延長で、国家の立場、あるいはその舵取りを負託された政治家の立場に立てば、安寧な日々を送る中にあっても、万一の備えを怠らない、つまり「治にいて乱を忘れず」(このような言葉が聞かれなくなって久しいですが)の状態であれば、“年がら年中”「有事」なのだろうと考えてしまいます。

しかし現実には、“ウケ”を狙った軽率な発言であっさり辞職に追い込まれた某大臣をはじめ、多くの政治家の先生方にはそのような意識や緊張感はあるのでしょうか。それもあって、同番組で「国防費の財源のために国会議員の数を減らすとか歳費を減らせ!」との発言に思わず納得してしまいました。

アメリカの中間選挙は、選挙前の予想を覆し、アメリカ国民が“バランス”を重視したような格好でようやく決着しました。私自身は、個人主義あるいは合理主義で生きているアメリカ国民が「民主党」か「共和党」の二者択一に集約されるわけがない、集約されると逆に危険と考えていましたが、この2大政党制の“ほころび”として「分断が加速化した」のか、あるいは「分断に待ったがかかったのか」についての判断は、選挙結果からだけではまだ早いと考えていました。

ただ、15日、トランプ前大統領が2年後の大統領選に出馬宣言した話題をアメリカの主要な新聞やテレビがスキップ(無視)したとのニュースも伝わってきました。トランプ氏に“フェイクニュース”としてさんざんこき下ろされた仕返しなのでしょう。「マスコミ民主主義が世界を滅ぼす」との雑誌の見出しを見た記憶がありますが、マスコミの功罪はさておき、また将来の「復元力」に期待しつつも、このような現象から、アメリカの「分断」が加速化しているような気がしてなりません。

アメリカのみならず、最近ではイギリス、イタリア、ブラジル、イスラエルなどの混乱をみますと、民主主義国家の体制が揺らいでいる、あるいは有権者の精神が動揺している、それらの兆候が出始めていると考える必要があるのでしょう。

11月13日の産経新聞で、元外務官僚の作家・佐藤優氏が「プーチンの世界戦略」について解説していました。細部を紹介する余裕はありませんが、要するに「アングロサクソン型の単一の価値観(自由、民主主義、市場経済)をルールとすることに反対する。各国家、民族が自らの伝統と価値観に基づいて生きていく個別主義を取るべき」というのです。

ウクライナ侵攻の背景には、そのような世界戦略があったということですが、このプーチンの戦略には、中国や北朝鮮をはじめ、中東やアフリカ諸国など世界の約7割を占めるといわれる「権威主義国家」が同調する可能性があり、今後注目する必要があります。

上記のような兆候から、すでに「アングロサクソン型の国際秩序が生命力を失いつつある」との見方もあるようですが、「国際社会が、第2次世界大戦後、最も危険で予測不可能な『歴史の分岐点』に立っている」(佐藤氏)ことは間違いないでしょう。

一方、この2週間ぐらいの間で、それ以前には予測できなかったような日韓、米中、日中など各国の首脳会談が相次いで行なわれました。それぞれの懸念事項や主張をぶつけ合っただけに終わった感がありますが、先の日米開戦においても、1941年夏の時点で近衛―ルーズベルト首脳会談が実現しておれば違った展開になったといわれるように、歴史は、「首脳会談こそが紛争(決定的な対立)の未然防止の特効薬である」ことを教えてくれています。これらの細部については後日、触れることにしますが、首脳会談に価値があることは変らないと思います。

混迷の時代ですが、我が国自体もけっして“対岸の火事”ではなく、民主主義国家の一員として「分岐点」の最前線に立っています。各首脳会談に臨んだ岸田首相にその認識があるかどうかは不明ですが、そのような認識のひとかけらも感じられない政治家や官僚などは無視し、まさに「有事の最中にある」との強い危機意識をもって、盤石な体制の確立に向けて、心ある人たちの知恵を絞って真剣に考え、実行する必要があると考えます。

繰り返しますが、我が国の課題は安全保障や国防だけではなく、緊急性を要する案件がたくさんあります。時間が限られているので今の体制でやるしかないでしょう。少なくとも“取るに足らないテーマで政権の足を引っ張る”ことだけは何とか止めてもらいたいと願っています。

▼島国が水没する?

 さあ、本テーマを続けましょう。第45話で、NHKが取り上げたとして、ツバルの水没の話題に触れました。これについても「地球温暖化を否定するデータ」として、「温暖化否定論者」たちは必ずその詳細を取り上げます。

温暖化論者たちは、「地球の温暖化が進むと、温まった海水が膨張して海面がじわじわ上がり、サンゴ礁の島々は水没する」と予測しました。この話は、今や日本の小中学校の教科書にも載っており、試験にも出るそうです。数年前のCOPでも、島国の代表が苦境を訴えて、「諸悪の根源は先進国にあり」と支援を強要する映像が話題になりました。

実際に、ツバルの首都フナフティでは、オーストラリア政府が設置した測位計を使って1993年から潮位(海水準)を測定してきました。その測定結果によりますと、前回紹介しました2回の「エルニーニョ現象」を反映する潮位の低下が目立つ以外、潮位はほぼ横ばいになっています。詳細にみると、見ようによっては、この24年間で数センチメートル(年平均1~2ミリメートル)上がった気配はあるようですが、海面の上昇の主要因は自然現象(小氷期からの回復)ではないかと分析されています。仮にこの状態が今後100年間続くとすれば、「さざ波未満の20センチメートルほどの上昇があるだろう」と予測されています。

NHKのクルーが2006年2月下旬、現地で水没シーンを撮っていますが、その時は、色々な周期で繰り返す“大潮”が太陽―地球―月が一直線に並ぶ時と重なり、一年のうちで最強になった時だったようです。このタイミングでの撮影が偶然か意図的かについての深入りは避けますが、仮に偶然としても「地球温暖化がツバルを水没させる」イメージを視聴者に与えたことは間違いないことでしょう。

なお、ニュージーランドの研究者は、「ツバルの国土面積は、航空写真などのデータから、減るどころかこの44年間で3%増えている」と発表しているようです。

さて、日本の潮位(1906~現在)は、気象庁のホームページに掲載されています。それを見ますと、1900~1950年までの潮位は若干の上下動を繰り返しながらも上昇傾向にありますが、1950年頃をピークに1990年ごろまでは下降します。その後は、再び上昇傾向にあります。しかし、ここ100年間の潮位は、マイナス40ミリメートルからプラス50ミリメートルの範囲に留まっています。

温暖化論者がその根拠とする平均気温の推移データは、1974年頃から急上昇していますが、我が国の潮位変化は、1990年頃までは下降傾向にあることから、潮位と平均気温の間に強い相関関係があるとは考えられません。その変化も30年弱の間に、たかだか50ミリメートル(5センチ)程度の上昇です。とうてい「赤信号」の状況ではないと考えられます。

一方、つい先日、東京都は、「温暖化を想定した防潮堤のかさ上げ計画案」を発表しました。その根拠はIPCCの「2100年までに平均気温が2度上昇すると平均海面水位が最大でおよそ60センチメートル上昇する」ことにあるようです。

その計画によると、総延長60キロ―メートルのうち、およそ30キロメートルが対象になり、豊洲地区で60センチ、晴海地区で80センチ、東部地区で1.4メートルのかさ上げを考えているとのことです。私事ながら豊洲地区の住民の一人としてはありがたい限りなのですが、その必要性には疑問を感じざるを得ません。

なお、イギリス海洋学センターは、「世界1277カ所の潮位変化の平均をまとめ、1850年以降、年1.92ミリメートル上昇中」と発表しています。このままの上昇なら2100年には現在よりプラス16センチになります。潮位の上昇速度が将来、大きくなるとの予測もあるようですが、この程度の潮位変化ならさほど心配するほどのことは明白でしょう。

すでに触れましたように地球の長い歴史を振り返れば、現在より海面が高い時期があったことは間違いないですが、『地球が住めなくなる日』の著者・ウェルズ氏が「2℃未満に抑制しても、2100年までに世界の100都市が水没する」と警告しているようなことは、少なくとも現時点ではその兆候のかけらもないと言って過言でなさそうです。

▼温暖化のせいで異常気象が増えている?

「『地球温暖化』と対極にある考え方」の最後に「異常気象」について触れておきましょう。

台風とかハリケーンとか何と山火事まで、何か例年とは少し変わった気象変動が起きるとすべて「異常気象」として一括りにされて報道されるためか、私たちは「異常気象」の言葉自体に“異常”を感じないぐらい慣れてしまいました。

実際に、2007年以降、「異常気象」をテーマにした和書はゆうに50冊を超えるといわれています。まるで「温暖化ホラー本の群れ」(前述の渡辺正氏)と揶揄されています。渡辺氏はまた、“地球寒冷化”騒ぎの1970年代にも「異常気象」を警告した人が多く、気象庁の予報官だった根本順吉氏が自書『冷えてゆく地球』の「はじめに」に次のように書いていると紹介しています。

「異常気象や気候変動の原因は、現在なお不明な点が多い。しかし原因は不明なまま、その影響は世界の人たちの生活に及んできている。・・・緊急な臨床的問題としてこれに対処してゆかねばならない」ということです。この書籍の発刊から数年後、今度は「温暖化」狂騒曲が始まります。すでに亡くなられましたが、根本氏は、地球温暖化現象について「温室効果ガスが原因」との説をとらず、「予測を超えた変化がある」との立場を取っておられたようです。

一方、2013年、IPCCの「第5次評価報告書」において、「極端な高温など異常気象が起こる背景は、地球温暖化と同様、『人間活動による影響の可能性が高い』」と報告されて以来、「地球温暖化が異常気象の発生頻度を増やす」要因として定着し、その主要因は「人間の活動」にあることに疑いを持たない人達が大半を占めるようになりました。

 確かに最近、欧州など世界各地の干ばつ、パキスタンの洪水などに加え、我が国においても、「夏が長い」「梅雨が短い」「暖冬」「季節感がない」「頻繁にゲリラ豪雨が降る」などを実感することは確かで、台風が来るたびに、気象予報士などが地球温暖化を持ち出して解説しますが、実際の観測データはその“物語”の根拠となっているのでしょうか。

 気象庁は台風の統計を1951年からとり始めましたが、発生数、接近数、上陸数いずれのデータも素直に眺めれば、「台風が近ごろ多発するようになった」との気配はみじんにも読み取れません。

 人的被害を出したベスト3は、「伊勢湾台風(1959年):上陸時の気圧930hPa、死者・行方不明者5098名」、「枕崎台風(1945年):同916hPa、同3756名」、「室戸台風(1934年):同912hPa、同3036名」であり、これらに加え、他の台風をみる限り、台風が近ごろ勢いを増した形跡はないようです。

 一方、地球全体のハリケーン類(発生地域が西太平洋なら台風、オーストラリア近海やインド洋ならサイクロン、北東太平洋と大西洋ならハリケーンと呼称します)も1970年から2017年まで、その総数と強いハリケーンと区分したデータをみるに、ハリケーン類が狂暴化した気配はないし、北半球と南半球の差異もないといわれます。

また、上陸時の大きさに関係するといわれる海水温も、これまでのデータからは秋口の海水温が高い時代より低い時代の方がハリケーン類の発生数が多いというデータも残っています。

今年は発生件数が多いとされる米国の竜巻も異常気象の一例として取り上げられる時がありますが、1954年から60年余りのデータから、竜巻の総数も猛烈な竜巻の数もほぼ横ばい(やや減り気味)なのだそうです。つまり、竜巻も地球温暖化のせいで増えているわけではないと言えるでしょう。

最近話題の「ゲリラ豪雨」については、気象庁ホームページに1900年以降の「降水量100ミリ以上の日数」が掲載されております。気象庁は「20世紀当初の30年間に比べ、最近の30年間は降水量100ミリ以上の日数が1.2倍に増えた」と解説しています。

しかし、子細にデータをみれば、世界のCO2排出が激増した1940年以降も、あるいは平均気温上昇が著しいとされる1974年以降も、降水量100ミリ以上の日数が多い年もあれば前年比で少ない日数もあるなど、極端に日数が増えたようには見えません。洪水被害は、森林伐採などによる山林の保水力低下や中小河川の整備不良、都市化による斜面の宅地化など別の要因もあるようです。

英国気象庁もイングランドの降水量を公表していますが、そのデータからもはっきりしたトレンドは見られないようですし、米国48週の乾燥度データからも特段の傾向性は見られないようです。

これらから、IPCCの第5次評価報告書にある「21世紀末までにほとんどの地域で極端な降水がより強く、より頻繁となる可能性が非常に高いと予測」との根拠を示すデータを探すことが難しいのが現実です。あくまで現時点ですが。

▼「『地球温暖化』と対極にある考え方」総括

 これまで触れてきたような、「『地球温暖化』と対極にある考え方」をことさら要約して取り上げる必要はないと思いますが、人間は忘れやすい動物です。記憶に新しいのは最新の経験です。時が経つにつれて記憶が飛んで行きます。まして、自分が生まれる前、つまり経験していないことは記憶にないこともあって、価値判断の根拠としては「(最新の)経験を優先する」傾向にあるようです。

「地球温暖化」についてもそのような傾向があるような気がしてなりません。最近の経験値のデータをもとにストーリーを作り上げてしまったので、「地球の営み」からの分析のような、その対極にあるデータや考えを「異端児」として排除する傾向にあります。しかも”多勢に無勢”です。

このストーリーのもと、国連を中心に国際社会を挙げて走り始めているので、この場に及んで「待った」をかけるわけにも行かないとの見方もあります。皮肉なのは、「先進国が時代にさきがけでCO2を排出した結果として地球温暖化が進展している」というストーリーを展開してきたため、まさに現在、COP27において、発展途上国から先進国に対して温暖化対策支援をむしられても、体よく断るための理由を見つけることができなくなっていることです。

先進国は自ら作ったストーリーで“自らの首を絞めている構図”が浮かび上がりますが、その隣には、今や世界最大のCO2排出国であることを自他ともに認めながらも、発展途上国の代表のような立場で支援する側にまわらない中国のような国もあります。

「気候変動問題」の最後に、すでに触れました「人間の活動」によるCO2の排出の延長で、いったい全体、地球にとってCO2とは何なのか、本当に地球温暖化の原因が人為的CO2の排出にあるのか、あるいは、「脱炭素」政策、つまりCO2排出の抑制は可能なのか、そのコストと効果は、最後にCO2を削減することが地球にとって本当によいことなのか・・・など、次回以降、CO2に焦点をあてて分析したいと考えています。

これらについての「見識」を身につけてしまうと、(私自身がそうであったように)読者の皆様の「地球温暖化」についての見方が変わるような気がします。

「気候変動問題」もいよいよ大詰めです。CO2の分析に続き、この問題の総括を試みた後に、「エネルギー問題」について整理しておきたいと考えます。(つづく)


宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)