我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(49)「気候変動・エネルギー問題」(14)地球温暖化は人為的CO2が原因か(その2)

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我が国の未来を見通す(49)「気候変動・エネルギー問題」(14)地球温暖化は人為的CO2が原因か(その2)

□はじめに

 早朝のサッカーワールドカップのスペイン戦による寝不足を自覚できないほど、興奮冷めやらぬままに原稿の最終チェックを行なっています。

それにしましても、中国の「ゼロコロナ政策」への抗議行動には驚きました。習近平国家主席が第3期目に入った頃から、中国国民の間にはかなりの不満が鬱積し、いつ爆発してもおかしくない状態にあるようなことが様々なチャンネルで報じられていました。一方、中国国民は、「天安門事件」のように、政府(共産党)が武力手段に訴えても反政府活動の制圧を強行することを知っているので、簡単には表面化しないだろうとほとんどのアナリストが予測していたと思います。

それが、よりにもよって、発祥国でもあるコロナの問題で、その上、「人権問題」で国際社会から注目を浴びている新疆ウイグル自治区ウルムチ市の住宅火災が発端となって、中国政府が取り続けている「ゼロコロナ政策」に真っ向から反対する抗議行動が発生し、それも中国全土に留まらず、ロンドン、パリ、シドニー、東京など海外にまで拡大しました。

抗議行動の発端として、サッカーワールドカップのマスクなし観戦映像も一役買っているとの報道もありましたが、私は、このたびの抗議行動から、ソ連邦崩壊の引き金となった「グラスノスチ」(情報公開、国民の知る権利の保障)を思い出しました。それを裏付けるように、抗議行動は、共産党政権誕生以来たぶん初めてと思われる「独裁不要」「習近平退陣」まで訴える反政治活動に拡大し、一部は暴徒化するなど、中国にとっては「歴史的異常事態」ともいうべき事態に発展しました。インターネットやSNSの発達から、国民の情報収集手段は、ソ連邦崩壊時期と比較にならないのは明らかです。

1989年に発生した「天安門事件」は、100万人を超える参加者があったといわれますが、北京の天安門広場のみで発生した事件でした。それに比べ、今回は50カ所を超える主要都市で抗議行動が起きていることから、この沈静化は容易なことではないでしょう。

さっそく、抗議行動の未然防止のため多くの警察官が動員されるなど、沈静化に躍起のようです。その後、報道規制もあって詳細を知ることは難しくなっていますが、このメルマガが発刊される12月6日時点でさえ事態がどのようになっているか予測不可能です。

現時点では、中国政府が今回の抗議行動をきっかけにこれまでの「ゼロコロナ政策」を緩和する可能性は低いと考えますので、この方針が変わらない限り、一旦、抗議行動が沈静化しているように見えても、再度発生する可能性は残るでしょう。

他方、「ゼロコロナ政策」を変更するようなことがあれば、共産党政権の威信は失墜し、その影響もまた計り知れないものがあります。その解決が長引くようなことになれば、国内の経済活動の沈滞が長期化して中国の景気全体が停滞、最悪の場合、世界的な景気後退の懸念にも波及する可能性があるでしょう。

さらに、人類の歴史上で何度も繰り返されてきたように、国民の不満をそらすための行動、具体的には台湾への武力侵攻などの“引き金”になることもあり得ると予測する必要があるでしょう。

 前回取り上げました「歴史の分岐点」時には、様々な形で事件や事案が発生しています。その時点では気がつかなくとも、後で振り返った時に、「あの事件が分岐点だった」などと検証される場合もあります。ウクライナ戦争も含めて、私たちは今、「歴史の分岐点の真っただ中」にいると考えるのが妥当なのかも知れません。

 ワールドカップにおいては、日本は、ヨーロッパの強豪ドイツとスペインをみごとに撃破し、ブロック1位で決勝トーナメントに進むという“奇跡”が起きました。人類の歴史も振り返れば「奇跡の連続」です。中国国民の「真意」を垣間見たようなこのたびの抗議行動は、中国政府の心胆を寒からしめる効果があったことは否定できないでしょう。これが将来の「奇跡」につながっていくかどうかは不明ですが、中国政府がむやみに権威主義を振り回すことにはブレーキがかかるのではないでしょうか。

▼CO2の効用

「地球温暖化」とCO2の関係を取りまとめる前に、地球上のCO2の効用にについてまとめておきましょう。まず、CO2濃度の増加が穀物、野菜、果物などの生育に与える影響です。実際に、ハウス内でCO2濃度を自然界濃度の約400ppmから1000~1500ppmに変化させ、穀物などの収量の変化をチェックした栽培実験の結果、濃度を300ppm高めると、おおよそ3割以上の収量増加があったというデータがあります。

代表的なデータとしては、小麦1.35倍、大麦1.35倍、水稲1.36倍、ジャガイモ1.31倍、大豆1.46倍、トマト1.36倍、サトウキビ1.34倍、リンゴ1.45倍、オレンジ1.55倍などです。草木類のほか、樹木、水中の植物プランクトン、藻類も大気のCO2濃度が高いほど生育が良いことが分かっています。

すでに説明しましたように、植物は、CO2濃度が高いほど気孔の総面積を減らし、体から出ていく水分の量を減らすため、乾燥によく耐えるようになって、砂漠化した場所で生育します。荒地に進出した植物が根を張れば、土の浸食がすすみにくいという効果もあり、過去60年間にそのような現象が世界各地で確認されているとのことです。

また、高いCO2のもとで育てた植物は、塩分の多い土や養分の少ない土でも生育し、高湿や日照不足にも強く、低温や酸化ストレスにもよく耐えて、昆虫の食害も受けにくいとのデータもあります。つまり、CO2濃度を上げると、栽培条件が良好な時よりも厳しい環境のほうが生育量の増加率が高いことも実証されています。

さらに、温度が高いほど生育率効果が高いこともわかっています。低温の10℃だと生育効果があまりわからないが、38℃では生育量がほぼ2倍になるという実証結果もあるようです。私たちは、地球温暖化が進むと、植物の生育地が寒いほう(北半球なら高緯度)に動くというコンピューター予想地図をよく目にする機会がありますが、高温で育ちやすくなるなら生産地を引っ越す必要はなくなります。

これらを実証するように、国連食糧農業機関は、ここ10年以上の農産物の生産量は、人口増に伴う消費量が増え続ける以上に増え続け、その結果、備蓄量も増え続けていると発表しています。

その一例として、インドにおいては、1951年から2014年の60年余りで、総人口が約3.8億人から12.5億人へ約3.8倍になった一方で、穀物生産量は5倍に増えているといわれます。収穫増の要因は農耕技術や肥料・農薬の進歩が大きいといわれていますが、少しずつ上がる気温やCO2濃度の増加と相関関係があると考えるのが妥当でしょう。

なぜか「地球温暖化論者」たちはこのような事実を取り上げないのですが、次のようなニュースにも触れようとしません。1970年代からの衛星観測結果について数多い論文を要約しますと、1982年~2012年の33年間の間に、①地球全体の植物の量は10%増加している、②植生がある場所の25~50%は緑が増えている(減っているのは4%だけ)、特に、サハラ砂漠の南部流域、シベリア、アマゾン流域などの緑化が著しい、③緑が増えた場所の総面積は、米国本土の2倍を超える1800万平方キロメートル、④緑を増やした要因のうち、大気に増えるCO2がほぼ7割と推定される、などです。

“悪の根源”のようにいわれる、主に化石燃料によって排出されるCO2ですが、その効果は計り知れないものがあるという「事実」について、私たちはどのように判断すればよいのでしょうか。

繰り返しますが、確かに大気中のCO2は近年増加傾向にあることは事実です。そのデータを子細にみると、人為的CO2が増加したとされる産業革命、つまり1870年頃の約100年も前から大気中のCO2濃度は増え始めています。この間のCO2増加の要因が人為的と証明するのはあまりに難しいことから、大気中のCO2増加の原因を一概に人為的、つまり「人間の活動によるCO2排出が原因」とは言えない事実がどうしても残るのです。

これらから、現在までのところ、「何が大気中のCO2を増やしているのかさえも分かったと言える段階ではない」ということが精一杯なのではないでしょうか。

▼地球温暖化の原因は本当に人為的CO2排出にあるのか

 さて、本シリーズは最大の命題をまとめるところまで到達しました。所々に言及してきましたが、整理しておきましょう。

まず第1に、本当に地球は温暖化しているのか、についてです。私たちが目にする地球の気温の推移は「都市化」を加味して「加工」されたものであり、平均気温の上昇が事実かどうかについては、今なお疑問が残ります。

 第2に、地球の気温変化に及ぼす要因はたくさんあります。温室効果ガスに加え、太陽の黒点活動、火山活動、それに地球の営みというべき自然変動などです。地球の歴史からみた現時点は、小氷河期(1350年~1850年)からの「回復途上」にあり、自然現象として気温がゆっくり上昇していく時期とみられています。気温が上がれば、海水に溶けていたCO2が大気中に蒸発するので、CO2増加の何割かはその効果も効いてくると考える必要があるでしょう。

 第3に、温室効果ガスのうち、CO2のみが悪玉のようにいわれていますが、これもすでに紹介しましたように、「地球温暖化係数」(CO2を基準に、他の温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるか表した数字)を比較すると、メタンが25倍、一酸化窒素が310倍、フロン類は数千〜1万倍温暖化する能力があるといわれます。

CO2自体は寿命が長いので、100年単位でみればその温室効果は計り知れないものがあることは事実ですが、これらの微量ガスを合わせると、温室効果は約半分前後(資料によって少し割合が違ってきます)あることは事実ですので、その削減にももっと力を入れる必要があるでしょう。

総じて、もし本当に地球の平均気温が上昇しているとすれば、現時点の気温上昇の要因は、「自然現象」「データ加工」「(人為的)CO2+その他のガス」の“合わせ技”と考えるのが最も妥当と判断されるのではないでしょうか。しかも、「それぞれの割合については現時点ではわかっていない」と考えるべきレベルにあるのが正しいようです。逆に、(たぶん受け入れらないのでしょうが)「地球は寒冷化している」との説も依然として存在しています。

加えて前述したように、大気中に(ある程度濃度の高い)CO2の存在の効用を考えれば、「脱炭素」政策のもと、躍起になって人為的CO2排出を抑制するのが正しい選択肢なのか、その効果がどのぐらいあるのか、については「依然として不明」と言わざるを得ないでしょう。それらの細部については次回取り上げましょう。(つづく)


宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)