我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(37) 「気候変動・エネルギー問題」(2)「地球温暖化」によって何が起きているのか?

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我が国の未来を見通す(37) 「気候変動・エネルギー問題」(2)「地球温暖化」によって何が起きているのか?

 ロシア軍が占領するウクライナ南部のザポリージャ原発で調査を続けるIAEAの調査団に対して、ロシア側が「ウクライナ軍のロケット弾が奇跡的に180度回転した」として「ウクライナから撃たれたもの」と強弁しているとのニュースが伝わってきて、久しぶりに「今なお懲りないロシア」に苦笑しました。

 一方、このような嘘の“使い手”はロシアの専売特許ではなく、お隣の中国においては、家庭でも学校でも子供の頃から「嘘をつくな」とは教えないそうで、子供たちは「嘘をついて怒られた」という経験がないまま大人になるそうです。韓国や欧米諸国などにおいてもこの種の例を挙げたらキリがないでしょう。つまり、「噓つきは泥棒の始まり」と教える日本の方が稀なのです。

人類の歴史を辿れば、己の否(行動)を認めず、相手を非難するために、“事実とは違う”主張を強弁することは繰り返し行なわれ、その嘘がまかり通ってきたのが人類の歴史の真実だし、今もって国際社会の現実でもあります。

この種の“噓”をつくことは「勝利のための知恵」であると考える必要もあります。今回も場合、すぐにばれるような小さな嘘の中に、原発をめぐる駆け引きばかりか、ウクライナ戦争の結末を左右する魂胆があると見抜く必要があるのです。IAEAがロシアの主張をすんなり認めるとは思えませんが、いつの時代も、要するに「だまされる方が悪い」のです。

私たち日本人も「人間の生き方と国家の生き方は違う」という現実を学び、そして実行する必要があります。歴史上、“卑怯になれない”という「武士道精神」が逆にブレーキになった例も枚挙に暇がないですが、「清く、美しい」だけでは、国益最優先でますます緊張感を増している国際社会の中で生き残れないことを知る必要があるでしょう。

▼異常気象の原因は何でも地球温暖化

 昨今、日本の2倍の面積を有するパキスタンがその国土の3分の1が水没し、総人口1億8千万人の18%に相当する約3300万人が被災し、1200人以上が死亡しました。なかでも農業の被害は甚大で、日本も輸入している綿花が壊滅状態だといわれます。

この歴史的な大惨事に対して、パキスタンの気候変動大臣(すでにこのような職名の大臣が存在するようです)は、災害の原因は「地球温暖化」だと明言し、「パキスタンのCO2排出割合は世界の1%以下であり、世界の気候を“生き地獄”にする、温室効果ガスの排出にはほとんど加担していない」とも付け加えました。「にもかかわらず・・・」と言いたかったのでしょう。

 8月22日、気象庁は、6月下旬から7月初めの記録的高温の要因は、偏西風が北寄りに蛇行したことで上層と地表付近の高気圧が記録的に強まったこととして、その原因の1つは地球温暖化だと解説しました。

 近年、地球上の至る所で「異常気象」現象が発生し、その主な原因は「地球温暖化」だと断定されています。この付近から「気候変動問題」にメスを入れて行きましょう。

▼「不都合な真実」の“真実”

 さて、2007年に第1版が刊行された『不都合な真実』の表紙裏には、アル・ゴア元副大統領の署名入りで次のような文章が掲載されています。

「人類の文明はエネルギーを消費し発展し続けてきたが、反面それは地球環境を汚染する歴史でもあった。45年後には世界人口が90億人に達すると予定されている今日、地球温暖化による危険信号が世界中で点っている。北極の氷はこの40年間に40%縮小、今後50~70年後で北極は消滅し、水位が6m上昇する。(中略)これほど明らかな警告が私たち指導者たちの耳には届いていないように見受けられるのはなぜだろうか? それを認めた瞬間に、道義的に行動を起こさねばならなくなることを知っているがために、警告を無視するほうが都合がよいから、というだけなのだろうか? そうなのかもしれない。しかし、だからといって、不都合な真実は消え去るわけではない、放っておけば益々重大になるのである」(原文のママ)

 「地球温暖化」の状況やその原因であると指摘されているCO2濃度の増加状況などはのちほど触れることにして、まず、ゴア氏ご指摘の「地球温暖化」によって引き起こされる「不都合な真実」の代表的な現象を追ってみましょう。

 第1には、世界中の山岳氷河が解けつつあるという指摘です。氷河の溶解は北半球も南半球も例外なく発生しているとして、世界各地の氷河を定点観測した写真を比較すると確かに氷河の溶解は明らかで、アラスカ州のコロンビア氷河については、1980年以前から2005年までの氷河の“後退現象”の経年変化が明確にわかるように紹介されています。

 第2には、ハリケーンや台風の多発かつ大型化です。2004年には日本に10個の台風が上陸したこともその一例として挙げています。これまではハリケーンは北半球にしか発生しないとされていたものが、2004年にはブラジルを襲ったことも取り上げられています。そして、ハリケーンや台風の強度の増大は、海水温の上昇にその原因があると指摘しています。

 第3には、大規模な洪水の増加です。この原因も海水温の上昇にあり、そのメカニズムは、海水温が高いと、低気圧に供給される水蒸気の量が増え、より多くの水蒸気が大気中に留まるため、ひとたび低気圧が来て豪雨の引き金を引くと、より大量の雨や雪が一度にまとめて降ると解説し、その結果、欧州、北米・南米、アジアの各大陸で例外なく洪水の数が増加していると指摘しています。

 一方、世界中の降水量が増加するだけでなく、“雨が降る場所が変わって来ている”ことも指摘しています。世界の降水量分布の経年変化のマップをみると、北米や欧州などの3大陸とは逆に、アフリカのサハラ砂漠の周辺地域、中央アジア、東南アジア、南アメリカ大陸西岸(チリやアルゼンチン)などの降水量は極端に減少しています。

 この結果、世界の砂漠化が進み、1970年代から90年代のわずか20年の間に砂漠化が倍増していること、たとえば、かつて世界で6番目に大きな湖だったアフリカのチャド湖は今やほぼ消滅の危機にあると写真付きで指摘しています。

 第4には、温暖化の影響は北極や南極でも例外ではなく、著しい影響を受けていることです。大陸である南極は巨大な陸地の上に厚さ3000メートルの氷冠が覆いかぶさっていますが、北極はユーラシア大陸や北米大陸に囲まれた海なので、氷冠の厚さはわずかに3メートルほどしかありません。その氷冠の面積も厚さも1970年代以降、ものすごい勢いで減少しています。「北極は地球を冷やす重要な役割を果している」として、氷冠の消失は温暖化にさらに拍車をかけると分析しています。

 氷冠の消失は北極だけではなく、北極圏のツンドラ地帯、つまり永久凍土といわれていた地域が溶け始めていると指摘しています。このツンドラ地帯には700億トンの炭素がため込まれているといわれ、永久凍土が溶けることによって、この炭素が不安定になり、新たな環境問題を引き起こし、地球の温暖化を促進すると警告しています。

 第5には、気流や海流のパターンの変化とその影響です。詳しくはのちほど触れますが、世界全体の平均気温は14.5℃度程であり、気温が2℃~3℃上がると、赤道付近では0.5℃~1℃程度の上昇に留まる反面、北極の気温は7℃も上昇し、南極周辺も上昇することから、気流と海流のパターンが変化すると予測され、この環境の変化は、人類の文明始まって以来の“大変化”を引き起こす可能性があると指摘しています。

 この延長で、気温上昇が場所によって異なるために、地球古来のリズムである“春夏秋冬”も大変貌を遂げるかも知れないとして、植生や生物の生態系に大混乱を起こす可能性も警告しています。すでに、世界各地で発生している大規模なサンゴの白化現象や藻の異常発生、さらには様々なウイルスの猛威もその影響と分析しています。2007年の第1版刊行時点で、多くのウイルスとともに、コロナウイルスの写真が掲載されているのも興味がそそられます。

最後に、海面の上昇です。海の中に浮かんでいた北極の氷が溶解しても水位の上昇につながらないことは、「アルキメデスの原理」(氷山は全体の10%であり、その90%は水面下に沈んでいる)ことから明らかです。しかし、陸地に覆いかぶさっていた南極の氷が溶解し、つまりよく映像を目にする棚氷の崩壊は地球上の水面を押し上げることにつながります。その結果、南極やグリーンランドの氷床が溶けると、世界中の海水面が6メートル上昇すると警告しています。

ゴア氏は、そうなると「世界中の地図を描き直さなければならなくなるだろう」と指摘し、一例として、フロリダ、サンフランシスコ湾、マンハッタン、オランダ、北京、バングラデシュ、カルカッタなどが水没する“様子”を写真で紹介しています。もちろん、我が国の海岸に面している都市の水没も例外ではないことは間違いないでしょう。

同じように、『地球が住めなくなる日』の著者ウエルズ氏は、「気温が2℃上昇すると上海や香港など世界の100都市が水に浸かるだろう」と指摘し、その分かれ目は2℃だと指摘しています。

これら様々な現象をビジュアルで確認したい方は、ぜひ本書『不都合な真実』をご覧ください。先を急ぎましょう。

▼「地球温暖化」は進んでいる!

 では、実際に「地球温暖化」を進んでいるのか、あるいはこれから進むと見積もられているのでしょうか? その前に一体全体だれが実際の温度を計測しているのでしょうか?

 前回も紹介しましたが、国連の下部に「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」という組織があります。IPCCから発刊される「報告書」は、国際的には絶大な影響力を有しているようで、これまで1990年の第1次報告書から2021年の第6次報告書が発表されています。のちほど取り上げる地球温暖化とCO2の関係などもこの「報告書」が規定しています。

「報告書」はIPCCの職員が執筆するのではなく、世界の科学者が発表するデータを参加国の政府の推薦を受けた専門家らがまとめているようです。「地球温暖化」については、第5次報告書に「1905年からの100年の間に1℃上昇した」との記載があります。

その根拠となったといわれる温度変化のグラフを改めてチェックしてみますと、1900年頃から1970年頃まで、地球の温度は、若干の上下動を繰り返しながら(特に1940年から1970年頃までは0.2℃ほど下降しながら)も全体では0.5℃ほど上昇します。そして、1975年から2012年頃までは、上昇の傾斜がやや急になり、さらに0.5℃程上昇します。

一般に、100年で1℃程度の気温上昇は何か特別の異変をもたらす力はないとの見方もありますが、その点はのちに触れるとして、「このままの急上昇が100年間続くと1.5℃上昇することになり、そのことが地球の環境を狂わせる要因となる、そしてその原因こそがCO2である」というのが「地球温暖化問題」にほかなりません。

ゴア氏もアメリカの南北戦争以降の地球の気温上昇の実測値として1860年以降のデータ、IPCCと同じグラフを使用して、ここ20年くらいの急上昇が問題であると指摘しているのです。

これも細部は後述しますが、1997年の「京都議定書」ではCO2の削減目標しか定められませんでした。しかし、2015年のパリ協定では、この第5次報告書に基づき、「世界の平均気温の上昇を産業革命前に比し2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をする」という内容が盛り込まれました。

一方、その3年後の2018年、「1.5℃特別報告書」が発表され、「世界の平均気温は、今のままでは、早ければ2030年には1.5℃上昇し、異常気象がさらに増加する」と警告したことによって、「気温上昇を1.5℃に抑える」という目標が世界に浸透したといわれています。続きは次号で。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)