我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(53)「気候変動・エネルギー問題」(18)「エネルギー問題」を考えよう

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我が国の未来を見通す(53)「気候変動・エネルギー問題」(18)<strong>「エネルギー問題」を考えよう</strong>

□はじめに

 本シリーズの第1編は、「少子高齢化問題」を一昨年の11月からに昨年の3月までの18回にわたって取り上げました。

1月4日、岸田文雄首相は年頭記者会見で「異次元の少子化対策を行なう」という強い表現を使い、急激に進む人口減少を自らの手で食い止める覚悟を示しました。個人的には「ようやく本気モードになったか」と少し安堵の気持ちを抱いています。

きっかけとなったのは、昨年12月20日に発表された人口動態統計速報で、昨年1~10月の出生数は66万9871人(前年同期比4・8%減)にとどまり、この傾向が続けば、昨年1年間の出生数は過去最少だった令和3年の81万人1622人よりさらに少ない77万人にまで急減することが判明したからでした。コロナ禍の影響はあるとはいえ、政府関係者には相当ショックを与えたようです。

総理は6日、こども政策担当相に対し、①経済支援、②子育て家庭向けサービスの拡充、③働き方改革の推進を3月までに一案を出すよう指示したそうですが、乗り越えるべき課題は山積していることは間違いないでしょう。

たぶん、私が本シリーズで紹介したような諸外国の事情、たとえば、諸外国では子供を作るのに結婚を前提としない非嫡出子が多いことや移民の拡大まで含んで検討の範囲に入れるとは到底想像できませんので、「少子化対策」と命名し、「こども政策担当相」に指示している間は「異次元」と言えども発案される政策は限定されるのでしょうから、真剣に努力してもその効果が目に見えるまでは相当時間がかかることでしょう。

私は、「少子化対策」から、最小限「少子高齢化」まで含めた世代全体のあり方、さらには「人口減問題」として幅広い観点から総合的な対策を行なうべきと考えます。

そして、またしても財源問題が焦点になっていますが、財源については、防衛費はもちろん、気候変動対策費など他の政策をすべて含めてこちらも総合的に検討すべきと考えますが、しばし「お手並み拝見」としましょう。 

それにしても、「習近平打倒」のデモがこのような形に発展するとは当時、だれが予想したでしょうか。いろいろ言い訳をしていますが、デモに恐れをなし、「ゼロコロナ」政策を解除したと思ったら、今度は、極端な「野放し政策」状態です。感染者数も死者数もまったく現実とは違う桁違いの発表をして内外から批判されていますが、“どこ吹く風”です。そして、わが国や韓国の水際防止措置に対抗して、ビザ発給の一時停止という強行手段に出てきました。

中国の体制派からも公然と「習近平退陣要求」との批判が出ているようなニュースも流れ始めましたので、中国の混乱は相当深刻なのかも知れません。

長期にわたる「ゼロコロナ政策」自体に無理があり、かつ今回のように急激な政策転換を断行するような政治を行なえば、様々な問題は抱えながらも国民の一人ひとりが主役の民主主義国家なら、とうに政権が崩壊していることでしょう。独裁(権威主義)政権の特徴は、民意を忖度しているように見えても、政府の都合で政策を決定し、しかも政権への批判も封じ込めることを前提にしていますので、極端から極端に振れる傾向にあります。「ゼロコロナ」から「解放」(野放し)、あるいは「平和」から「戦争」など、その間の妥協、バランス、共存、あるいは“地ならし”のような概念はないようです。

新年早々ですが、いよいよ、そのような類の国家が我が国周辺に少なくとも3か国もあるという“現実”に真剣に立ち向かう時が来たとの覚悟を持つ必要があります。今回から取り上げるエネルギー問題もそうですが、我が国はまさに「内憂外患」です。明治維新の3俊傑のように、身命を賭して見事に国家の舵取りを敢行する、知恵と実行力のあるリーダーの出現が求められており、岸田政権が歴史に名を残すことができるかどうか正念場でしょう。依然として、目先の“事象”に振り回される人たちが足を引っ張るケースが多いのも我が国の最大の問題として捉える必要があるでしょう。前置きが長くなりました。

▼なぜ、いま「エネルギー問題」なのか?

さて、「気候変動問題」から頭を切り替えて、今回からしばらくの間、我が国の「エネルギー問題」に特化して考えてみようと思います。 

私自身は当初、「気候変動」と「エネルギー」は一つの問題として捉えればよいと考えてスタートしたのですが、内外の様々な状況や昨今の情勢の変化などを分析しているうちに、これらの2つの問題は、解決方向がオーバーラップしているように見える部分と全く違った問題として捉えなければならない部分があることに気がつき、むしろ、同一の問題として捉えているからこそ、有効な解決策を見いだせないばかりか、誤った方向に舵を切っているのではないかとの疑問を持つようになってきました。

詳しくはのちほど紹介しますが、政府はだいぶ前から、この問題にメスを入れておりますし、岸田内閣においても、重要な政策の柱の1つになっていますので、なかなか軌道修正は難しいことでしょう。しかし、原子力政策のように、ようやく「気がついた」と評価できる政策判断もあることも間違いありません。

それでも、我が国のエネルギー問題の現状から将来はいかにあるべきかについてはまだまだ検討を要することが山積していると考えますので、皆様と一緒に考えて行きたいと思います。

▼世界のエネルギー事情 

国際エネルギー機関による2021年11月の調べでは、我が国のエネルギー自給率はわずかに12.0%であり、OECD(経済協力開発機構)加盟45カ国中、第42位にあることはご存じでしょうか?

世界のトップ5は、1位:ノルウェー709%(国内需要のなんと7倍のエネルギー供給が可能です)、2位:オーストラリア346%、3位:コロンビア289%、4位:インドネシア195%、5位:カナダ175%と続きます。当然、これらの国々はエネルギー輸出国です。主要先進国では、アメリカ104%(8位)、イギリス71%(16位)、フランス54%(23位)、ドイツ36%(31位)、イタリア23%(40位)と続きます。

それ以外に、中国80%(12位)、韓国は日本より上位の17%(41位)で、日本より下位にある国は、モロッコ、ルクセンブルク、シンガポールなどの小国があるのみですので、我が国のエネルギー自給率の低さは際立っていることがわかります。これらをみると、「脱原発」などと我が国のエネルギー自給率を顧みず、まさに現実離れした政策を掲げている場合ではないのです。

ちなみに、ロシアはOECD加盟国ではなく、1996年に加盟申請を行なっていたのですが、2014年のクリミア併合で申請が凍結されています。2015年のデータでは自給率188%となっていますので、エネルギー輸出国であることは間違いありません。

また、ロシアのエネルギー施設の破壊攻撃によって厳しい冬を迎えているウクライナのエネルギー自給率は、1995年には50%以下まで落ち込んだのが2011年のデータでは68%まで達しましたので、欧州諸国に比較すれば、まだ自給率は高かったのです。

それにウクライナには、シェールガスがフランス、ポーランドに続き欧州で3番目の埋蔵量が期待されているとのことですが、その7割が現在ロシアの占領下あるいはその近傍の東部地区に偏在しているようです。シェールガスの採掘技術は現在、アメリカが保有していることもウクライナ戦争を複雑にしている背景となっているのかも知れませんが、ロシアにとっても、ウクライナ東部地域はエネルギー資源的にも保有しておきたい地域なのだろうと想像します。

歴史を顧みますと、人類は、「食料」「エネルギー」あるいは「資源」を求めての争奪戦を繰り返してきました。我が国は、すでに本シリーズ第2編で紹介していますように、食料の自給率も先進国中最低の38%(カロリーベース)しかありません。世界の人口は現在の約80億人からやがて100億人に近づくことが予想されるなか、安定的な「食料」と「エネルギー」の確保は、我が国の生存にとって死活問題であるとの認識をまず持つ必要があるのです。一部の有識者が「エネルギーは(気候変動よりも)安全保障最優先に」(キャノングローバル戦略研究所研究主幹・杉山大志氏:産経新聞正論、2022年5月26日付)と叫ぶ背景にはこのような事実を知ってのことでしょう。細部は後述しましょう。

▼各国のエネルギー源の内訳

さて、エネルギー資源とは、「産業・運輸・消費生活などに必要な動力の源」と定義され、18世紀までは主要なエネルギー源は水力や風力、薪、炭、鯨油などであったのが、産業革命を境にして石炭、石油が主に用いられるようになり、20世紀には核燃料が登場したことは説明を要しないと考えます。

これらの エネルギー源の保有割合は各国によって異なります。たとえば、第1位のノルウェーは、石油と天然ガスが約8割を占めています。北海、ノルウェー海、バレンツ海に大型油田があり、石油や天然ガスは主に欧州に輸出されています。その他、特色ある地形構造から多数の湖や河川を利用して水力発電量も世界第6位を誇っています。

特徴的な国はフランスです。資源小国のフランス(とはいえ、シェールガスの埋蔵量が欧州1位であることは前述のとおりです)は、1970年代後半から原子力発電を国策として推進してきており、全体に占める割合は約78%で世界のトップを誇ります。この割合は、人口もほぼ近い隣国ドイツ(原子力発電の割合14%)の約5.4倍、イギリス(同21%)の約3.7倍と際立っていることがわかります。

気候変動問題でも指摘しました中国のエネルギー源は、昨年4月、中国電力企業連合会が発表したレポートによると、石炭火力の割合が50%を切るレベルまで減少してきています。2011年には石炭火力が8割を超えていたことを考えれば、近年、脱炭素化に向けて努力をしていることは事実でしょう。その代わり、風力や太陽光など再生可能エネルギーによる発電容量が急速に伸びて、今年は45%に達し、初めて石炭火力発電を超えるとの予測を出しているようです。

ただし中国は、発表機関によって、これらの数値が大きく異なります。エネルギー政策を所管する国家能源局が2021年12月に発表した再生可能エネルギーの割合は、逐年増加はしているものの、国内総消費電力の約14%に留まっており、国家目標として「CO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指す」としています。

その中国においても、再生可能エネルギー発電の割合が低かった頃は、気象条件などによって出力に変動があるリスクを火力発電の出力によって調整することが主要な課題と言われていましたが、再生可能エネルギーの比率がここまで大きくなると、発電量のバランスがひとたび崩れれば、地域レベルでの電力供給の不安定化や大規模停電を引き起こる可能性があります。実際に、2020年末以降、(異常気象などが原因なのか)風力や太陽光による発電が1週間以上ストップするケースが各地で起きました。

これらから、電力の安定供給をいかに維持するかが、これまで以上に切実な課題になっていると専門家は指摘しています。これは日本のエネルギー政策にも参考になることでしょう。

なお、中国は今でも原子力発電所が47基稼働している(51基保有)世界第3位の国であり、今なお建設中であることは以前に紹介した通りです。

▼ウクライナ戦争が世界のエネルギー事情を変えたのか? 

日本のエネルギーに絡む様々な問題については、のちほど詳しく触れるとして、昨今の国際情勢の変化から、あれほど騒いでいた「気候変動問題」が吹き飛んでしまったような印象を持つ世界のエネルギー事情の実態について触れておきましょう。

 現在、世界の化石燃料価格は大きく向上しています。ロシアのウクライナ侵攻がその原因であるというのが一般的な見方ですが、実際のエネルギー危機はそれ以前から続いていました。その根本原因は化石燃料需給のひっ迫と化石燃料投資の構造的不足にあるようです。

 少し補足しますと、毎年増加を続けてきた世界の石油ガス上流投資は、2014~16年の原油価格低下によって2015年以降は大きく減少しました。この上流投資とは、石油や天然ガスなどの資源の探鉱・開発・生産段階(上流と呼びます)に投資を行なうことで、投資のシェアに応じて、生産物の売却利益を取得する権利を得ることを言います。一般にハイリスク・ハイリターンといわれています。

その後、原油価格が持ち直して大幅増に転じましたが、2020年のコロナ禍による大都市のロックダウンや国際航空を含む運輸需要の大幅低減が石油需要を大幅に引き下げ、ニューヨーク市場では原油先物価格が一時マイナスをつけました。これによって、2020年の石油ガス上流投資は2014年の半分以下に落ち込むことになりました。

 ところが、2021年の世界経済はコロナ禍から予想以上のスピードで回復し、化石燃料需給も非常にタイトになりました。加えて、前述の中国同様、洋上風力など間欠性のある再生可能エネルギーを大幅に拡大した欧州では“風況”が悪く、例年以上にバランスを確保するために天然ガス需要が急増しました。ちなみに“風況”とは一般には風の性質を意味しますが、風力発電に関わる項目は、平均風速・風速頻度分布・風光出現率・乱流強度などが挙げられます。風力発電量は、この“風況”によって左右されることは明らかなのです。 

そのような状況にタイミングを合わせたかのように、ウクライナ戦争が勃発し、ロシアに対する制裁を発動した結果、ロシアからの天然ガスを主とする化石燃料供給が一気に不透明になってしまいました。

 実際の原油価格の推移をみてみますと、価格は、2020年1月ごろから4月まで一挙に下がり、4月をボトム(約25USドル/バレル)に上昇に転じ、ウクライナ戦争が始まった2022年2月頃から再び急上昇し、現在、75USドル/バレルあたりに高止まりしています(2023年1月12日現在のWTI原油価格は77.4USドル)。

 言うなれば、現在のエネルギー危機の原因は、「地球温暖化対策を強調して間欠性のある再生可能エネルギーに依存し過ぎた結果、コロナ禍、そしてウクライナ戦争という予期せぬ事態に追随できず、需要と供給のバランスが崩れてしまった」ことにあると考えるのが妥当でしょう。その現象が端的に現れたのがドイツでした。次回に取り上げます。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)