我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(38)「気候変動・エネルギー問題」(3)地球温暖化の元凶はCO2

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我が国の未来を見通す(38)「気候変動・エネルギー問題」(3)地球温暖化の元凶はCO2

□はじめに──9・11テロ事件について

 米国においては例年どおりの追悼式典が催されるだけになり、我が国においてもあまり話題になることなく過ぎてしまいましたが、この時期になると、21年前の「9・11テロ事件」を思い出します。たまにはこのような話題も取り上げてみましょう。

私は当時、札幌で勤務しており、事件が起きた夜は、近くのスナックで仲間とワイワイ酒を飲んでいる最中でした。映像をみるや「これはただ事ではない」とすぐ駐屯地にはせ参じ、徹夜で情報収集したことを思い出します。

 翌日、さっそく旧知の新聞記者から「どう思うか」と問い合わせメールが来ましたので、思い浮かぶままに「世界貿易センタービルが崩壊していく映像、今後何度もみることでしょう。たぶん、自分の自衛官時代の最も衝撃的な映像なるものと思っています。というのは、映し出されている映像の裏側にある守るべき価値とか国家の役割とか人間の生存とか運命とかと交錯して、人類の悲しさとか愚かさとかやりきれなさとかが入り乱れ、複雑になっているからです。それだけ、当事者でないゆえの冷静さがあるのかも知れません」と返信しました。

 それからだいぶ過ぎた頃、当記者は『自衛隊指揮官』という書籍を上梓しました。その中に、名前は伏せられてはいましたが、このメールの一節がそのまま掲載されていました。記者は、「終わり」と「はじまり」と題して、「何が終わり、何が始まったか」という視点で「軍人には見えないものが見えている」(原文のママ)、その例として私のメールを取り上げたのでした。

 ブッシュ大統領が「これは戦争だ!」叫んだアメリカが、その後、何を行なったかについて説明する必要はないと思いますが、それから約1年半後、私は、陸幕防衛部長に就任、「イラク復興支援作戦」の計画・実施の担当部長となって“のたうち回る”ことになります。当時、「9・11テロ事件」後の影響については、我が国も決して逃れられないだろうと「嗅覚」で感じていましたが、自分自身に降りかかってくるとは夢にも思っていませんでした。

 私は、今に至るも日ごろから自分の持つ能力で最も鍛えているのはこの「嗅覚」です。「先見洞察力」といってもよいかもしれませんが、この「嗅覚」を鍛えるのはとても難しく、そう簡単には他人に伝授できないことも実感しています。数学者の藤原正彦氏は、「嗅覚を培うためには、教養とそこから生まれる見識が大きく働いている」(『国家と教養』より)と解説し、その教養自体も実に曖昧ものだとも付け加えておりますが、この意味することはよく理解できます。

この曖昧な「教養」を“自分のもの”とすることが「嗅覚」の向上につながると信じ、歴史の研鑽をはじめ、様々なことにトライし続けてきました。この歳になると、悲しいかな、“自分のもの”にした順番に忘れてしまうことも度々ですが、時に突然“蘇る”という不思議な感覚も味わっています。

最近では、ウクライナ戦争や台湾有事など、「嗅覚」を鍛える格好な材料があります。国のリーダーや現役自衛官達には、過度に恐れず、誇張せず、過大にも過小にも評価せず、冷静かつ客観的に情報を分析することを願っています。

「最悪の事態を見積もって」という言葉が一人歩きしていますが、この「最悪」を“過度に最悪に”見積もることも避ける必要があります。台湾情勢など楽観的な見方は禁物ですが、さりとて「明日にも戦争が起きる」という見方は極端過ぎます。歴史を振り返れば、いつの場合も、またどこの国にあっても、武力行使の決心はそう安易なものではなく、そこに至る複雑なプロセスが必ず存在します。

「9・11テロ事件」事件の映像をみて、私自身は、将来、この事件の現場を必ず訪問するということを「嗅覚」で感じたことを今でもよく覚えていますが、ペンタゴンにはそれから約2年後、マンハッタンの「グラウンド・ゼロ」には、自衛隊退職後数年経った頃に訪問する機会がありました。それぞれの現場に立ち、当時の悲惨な事件とその後に起こった様々な出来事が交錯しましたが、犠牲になられた方々に哀悼の意を表することができました。

ウクライナ戦争や最近の中国の台頭など、見方を変えれば、事の始まりは「9・11テロ事件」ではなかったかと思うところがあり、歴史のつながりを感じる昨今です。長くなりました。気候変動・エネルギー問題についても、自分の持つ「嗅覚」を大事にしつつ引き続き取り組んで参ります。

▼気温が2℃以上上昇すると何か起こるか

前回に続き、『地球に住めなくなる日』の著者ウェルズ氏の主張をもう少し続けましょう。彼は「私たちは、2100年までに平均気温が4℃以上に上昇する未来に向かって突進中だ。これが未来の基本路線だ」としていますが、前回述べたように、「2℃上昇すれば、100都市が水に浸かる」以外にも、起きるであろう様々な事象を紹介しています。

その概要を紹介しますと、2℃上昇すれば、①地表部を覆う氷床の消失がはじまる、②4億人が水不足に見舞われる、③赤道帯に位置する大都市は居住に適さなくなる、④北半球でも夏の熱波で数千人単位の死者が出る、⑤インドでは熱波の発生率が32倍になり、居座る期間も5倍に伸びて、影響を受ける人の数が93倍に増える、などと紹介しています。

 これが3℃上昇の場合は、①南欧州では干ばつが慢性化し、中央アフリカ、カリブ海では干ばつがそれぞれ平均1年7カ月、1年9カ月も続く、アフリカ北部に至っては5年続く、とあります。

 さらに、4℃の場合は、①デング熱感染者がラテンアメリカだけで800万人になる、②地球規模の食糧危機が毎年起きる、③酷暑関連の死者が全体の9%を占める、④河川の氾濫被害はインドで20倍、バングラデシュで30倍、イギリスで60倍に増える、⑤複数の気象災害が1カ所で同時発生することが増え、損害は世界全体で600兆ドルに達する(1ドル130円換算で約7京8000兆円、現在、世界に存在する富の約2倍以上に相当)、⑥紛争や戦争も倍加するであろう、とあります。これらの主張が正しいとすると、まさに「地球が住めなくなる日」が現実のものになる可能性があります。

▼「地球温暖化」の元凶はCO2

 さて、「地球温暖化の主要因はCO2にある」というのが「地球温暖化」の脅威を訴えるグループの共通の主張でもあります。

 ゴア氏は、約1000年前からの気温の変化とCO2濃度の相関関係を比較しつつ、「大気中のCO2が多ければ、太陽から地球の届く熱が大気に吸収される割合が多くなるので気温が上がる」とする一方で、65万年前までさかのぼり、南極のCO2濃度と気温の測定値から、①産業革命が始まるまでの65万年間、CO2濃度が300ppmを越えたことは一度もない、②その後急上昇し、現在の数値約400ppm(最新値は407ppmといわれる)は過去の記録にあるどの点よりも高い、③45年後には600ppmを超える。これは事実であり、反論できるものは1つもないと断定しています。

 ビル・ゲイツ氏は、CO2の排出量に着目し、世界の年間排出量が約510億トンであること、この排出量が1850年代から劇的に増加したことを指摘し、その原因は、化石燃料の使用など「人間の活動の結果であると断定しています。そして1850年頃からの地球の気温の上昇とCO2の排出量増加の急上昇が一致していると説明しています。

 そして、ゴア氏同様、地球の温暖化の原因となっているCO2を排出する「人間の活動」の影響は深刻であり、今後さらにひどくなること、その影響はいずれ壊滅的になると予測しています。「それが、30年後か50年後は正確にはわからないが、問題解決が極めて難しいことを考えると今すぐ行動する必要がある」と結論づけ、「CO2排出ゼロ」を声高に叫んでいます。

 ウェルズ氏は、4億5000万年前までさかのぼり、「地球温暖化には温室効果ガスが関わっていた、特に温暖化がひどかったのは2億5200万年前の『三畳紀』で、地球の気温が5℃上昇した。この時には強力なメタンが放出され、温暖化に拍車がかかり、ほんのひと握りの生き物を残してみな死んでしまった。今、この時の少なくとも10倍の勢いでCO2を出している。産業革命以前と比べると100倍だ。大気中のCO2の半分以上は、この30年以内に化学燃料を燃やして発生したものである」と断定しています。

 さらに、「大気中のCO2は、過去の1500万年で最も高いレベルにある。当時はまだ人類は存在せず、海面水位は現在より30メートル以上高かった」とつけ加えます。

▼IPCCの見解

 それでは、国連IPCCの「報告書」には「地球温暖化とCO2の関係」についてはどのように記載されているのでしょうか。第1次から第6次までの「報告書」を振り返ると微妙にその“変化”を読み取ることができます。

 まず1990年の第1次報告書では、「人為起源の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が生じるおそれがある」という表現に留まっていました。

1995年の第2次報告書では、「地球の平均気温および海面水位の上昇に関する予測から、人間の活動が人類の歴史上かつてないほどに地球の気候を変える可能性がある」と一歩踏み出し、「温室効果ガスの蓄積に対する気候系の反応は、時間スケールが長いことから、気候変化は多数の重要な点に関し、すでに取り返しのつかない状況にあるといえる」とも警告しています。

これが2001年の第3次報告書になると、「過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い」と変わり、2007年の第4次報告書では、「20世紀半ば以降に観測された全球平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い」という表現になり、地球温暖化は「温室効果ガスによるもの」と確信に近い表現になります。

 さらに、2013~2014年の第5次報告書では、「人間による影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い」としてほぼ断定し、最も新しい2021年の第6次報告書では、「人間の影響が大気、海洋および陸地を温暖化させてきたことには疑う余地がない。広範囲にわたる急速な変化が、大気、海洋、雪氷圏および生物圏に起きている」と「疑う余地がない」という断定的表現に踏み切りました。

 第1次報告書を受けて、1992年5月、ブラジルのリオ・サミット(地球サミット)において「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」が採択され、1994年3月に発効されます。そして、大気中の「温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)」の濃度を安定化させることを究極の目的とし、本条約に基づき、1995年から毎年、「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」が開催されるようになり、今日に至っています。

のちほど触れる1997年の「京都議定書」は「2020年までの枠組み」としてCOP3で採択され、2015年の「パリ協定」は、「2020年以降の枠組み」としてCOP21で採択されました。

▼「温室効果ガス」とは

 改めて、「地球温暖化」を引き起こしている主要因とされている「温室効果ガス」(GHG)について整理しておきましょう。「温室効果ガス」とは、「大気圏にあって、地表から放射された赤外線の一部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体」を指し、水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素)、クロロフルオロカーボン類などの6種類からなります。このクロロフルオロカーボン類は1970年代からオゾン層を破壊する可能性が指摘されていたフロンの一種で、冷凍庫やエアコンなどに使用されていました。

「温室効果ガス」は、CO2が全体の64%を占め、続いて、メタン(17%)、クロロフルオロカーボン(9%)、一酸化二窒素(6%)、その他(3%)と続きます。これらから、人為的に排出されている「温室効果ガス」の中では、その量からCO2の影響量が最も大きいと見積もられています。CO2は、石炭や石油の消費、セメントの生産など、まさに「人間の活動」により大量に大気中に放出されています(細部は後述します)。

あまり耳慣れない言葉に「地球温暖化係数」(GWP)というものもあります。「CO2を基準に、各種気体が大気中に放出された際の濃度あたりの温室効果を100年間の強さで比較して表したもの」と定義され、CO2の1に対して、メタンは25(つまり25倍)、一酸化二窒素は298、クロロフルオロカーボンに至っては、4600~14000とされています。

 これらから、「温室効果ガス」に占める割合は、CO2は64%ですが、温暖化に影響するガスという観点からみれば、メタンとか一酸化二窒素とかクロロフルオロカーボンの“寄与度”も無視できないことは明らかです。

そのCO2の国別の排出割合は、一昔前まではアメリカがトップを走っていたのですが、最近は中国に取って代わりました。最も新しい2019年のIEA(国際エネルギー機関)のデータによると、中国(28.4%)、アメリカ(13.9%)、インド(6.4%)。ロシア(5.8%)、日本(2.8%)、ドイツ (1.8%)、韓国(1.8%)、イラン(1.7%)、カナダ(1.7%)、カナダ(1.7%)、インドネシア(1.6%)、その他(34.0%) と続きます。

2015年から19年までの経年変化をみてみますと、逐年排出量が増加しているのは、中国、インド、ロシアです。中国は2015年の99億トンから2019年の106.6億トンへ7.6億トン増加、インドは21.4億から24.2億トンへ2.8億トン増加、ロシアは20.1億トンから21.8億トンへ1.7億トンの増加です。詳しくは後述しますが、アメリカなど先進国が「京都議定書」などの協定によりCO2排出対策が進んでいるなか、これらの国々は大きな制約を受けていない証なのです。

ちなみに、日本の「温室効果ガス」排出は、過去には2007年度が最高で13億7400万トンでした。その後、リーマン・ショックの影響で、2008、2009年度の排出量は前年度より下回りましたが、2011年の福島第一原子力発電所の事故以来、電源構成が原子力から火力に変化したため、2011、2012年度は前年度を上回りました。

2019年の「温室効果ガス」排出量はCO2換算で12.4億トンであり、その内訳はCO2が91.4%、メタン2.3%、一酸化二窒素1.6%、その他4.6%となっています。(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)