我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(56)「気候変動・エネルギー問題」(21)我が国のエネルギー問題(その3)

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我が国の未来を見通す(56)「気候変動・エネルギー問題」(21)我が国のエネルギー問題(その3)

□はじめに

昨年の参議院に当選以来、一度も登院していない議員もおれば、「秘書である息子がお土産を買うのに官用車を使用したのは問題」と指摘する方も指摘する方だが、「だれに土産を買った……」などと答弁する首相……このやり取りをたまたまテレビで観ていてあきれ果てて涙が出ました。

そして、日曜日朝のNHKなどでは、毎度、各党首などが大上段に振りかぶりながら、自分の主張を述べていますが、なかには、「おいおい、それを言うか」とか「お前は日本人か」と独り言を言いながら怒鳴りつけたくなる発言にもしばしば出合います。

努めて避けるようにはしていますが、このような場面に出くわして腹を立つ回数が増えるたびに、自分自身を振り返り、“年を取った”ことを実感して反省もしています。

私自身は、歴史を振り返り、また、最近の権威主義国家のリーダー達の“立ち居振る舞い”を見るにつけて、ウィンストン・チャーチルの「民主主義は最悪の政治形態と言うことができる。 これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば」は名言であると信じてきました。

チャーチルは当時、自らは第2次世界大戦の最中、みごとにイギリスを舵取りして勝利に導いたものの、ドイツ降伏直後の選挙で保守党が労働党に敗れ、退陣するという最悪の経験をしました。さぞかし悔しかったことでしょう。一方、どうしてもヒトラーとかスターリンなど周りの独裁主義者を否定する意図もあって、このような表現になったものと推測しています。

スウェーデンのV-Dem研究所は、昨年3月、「世界179カ国・地域のうち、自由民主主義国家が1995年以来最少の34カ国に減り、逆に独裁体制の国が25から30カ国に増え、権威主義国家は世界人口の70%に相当する54億人を抱える」との報告書を発表しました。この報告書の民主主義国家の要件は、公正な選挙を実施するだけでなく、立法権や司法権の独立、個人の権利などが保障されていることまで含むようですので、民主主義国家と名乗っていても、これらの要件を満たさない国が増えているということなのでしょう(そういえば、北朝鮮の正式名称は、「朝鮮民主主義人民共和国」でした)。

欧州諸国では、コロナ禍やウクライナ戦争によるエネルギー危機などがきっかけとなっているのでしょうか、政府や国会を「信頼する」か「信頼しない」かの調査結果が、国によって明確に分かれていることが新年早々の紙面の取り上げられていました(産経新聞、1月3日付1面)。

その調査によれば、前年比で「信頼する」が減り「信頼しない」が増えている国がイギリス、フランス、イタリアなど、その逆がドイツ、チェコ、スウェーデンなどです。私自身はこの結果に少し不思議な感想を持ちますが、共通の現象として、「政治への憎悪が暴走する」時代が到来したとも指摘されています。

確かに欧州以外でも、アメリカやブラジルの暴走はその端的な例なのでしょうし、そこまで至らなくても、年金支給開始年齢の引き上げをめぐって100万人を超えるデモが繰り広げられているフランスの調査においては、「民主主義がうまく機能していない」との回答が67%に及んだとの指摘もありました。

今、まさに世界的に「民主主義が揺らいでいる」と言わざるを得ず、民主主義国家は岐路に立たれているのかも知れません。このような状況を逆用して、中国の習近平は、昨年の全国代表大会において、民主主義国家の政治体制のほころびをあげつらっていましたし、ロシアのプーチン大統領もウクライナ侵攻の責任を西側諸国に擦り付けていたのも記憶に新しいところです。

私は、(前にも紹介したかも知れませんが)イギリスの歴史家・トーマス・カーライルの名言「この国民にしてこの政府あり」をいつも思い出します。日本では、数学者の藤原正彦氏が「国民が教養を失い、成熟した判断力を持たない場合、民主主義ほど危険な政治形態はない」とのこれまた名言を残しています。

我が国においては、最近の各選挙における投票率の低下に代表されるような政治に対する無関心がますます増大し、国会で何を議論しようが、だれが何を発言しようが、騒ぐのはマスコミだけで、多くの国民は話題にもしないのが現実でしょう。

「暴走」のような現象こそ起きていませんが、政治と国民が離反するなど、「民主主義がうまく機能していない」という点では列国と共通しているような気がするのです。藤原氏が指摘するように、現状のような「危険な政治形態」を創り出しているのは、「この国民」たる私たちにあることは間違いないし、そのツケは、今すぐではなくともやがて国民一人ひとりが負わされるのです。私たちはこの事実を再認識する必要があると考えます。

ただ、いかなる国民であろうとその国民から負託を受けている政治家の先生方には、現在直面している情勢を照らし、何を議論すべきかをしっかり考え、党派を超えて国益に直結する結論を導き、国の舵取りしてほしいと願っている国民は少なくないと思います。

次いでながら、大学の非常勤講師として、普段講義する中で「リーダーに問われるのは“人間性”である」などと強調しているせいか、最近、(特に野党の)先生方の“目つきの悪さ”も気になって仕方がありません。顔や目つきにその人の“人間性”が現れるからです。

“老害”はこのぐらいにして先に進みましょう。 

▼「クリーンエネルギー戦略」(岸田政権時代の前段)

前回の続きです。菅政権の後を受けて岸田内閣になった直後の2021年10月、日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示した第6次「エネルギー基本計画」が閣議決定されました。まさに菅内閣の“置き土産”になったような計画でした。その中のテーマは次の2つです。

第1に、2050年の「脱炭素」(カーボンニュートラル)や2030年度の野心的な温室効果ガス削減を実現するため、世界的な脱炭素に向けた動きの中で、国際的なルール形成を主導することや、これまで培ってきた脱炭素技術、新たな脱炭素に資するイノベーションにより国際的な競争力を高めること。

第2に、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服に向けた政策を展開するため、安全性の確保を大前提に気候変動対策を進める中でも、安定供給の確保やエネルギーコストの低減に向けた取組みの大原則「S+3E」(Safety、Energy security、Economic efficency、Environment)をこれまで以上に追求する」でした。

岸田首相はまた、2021年12月6日の所信表明演説において、エネルギーに関しては供給側のみならず、需要側のイノベーションや設備投資など需給両面を一体的に捉えた「クリーンエネルギー戦略」の策定を表明しました。そして、「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会を立ち上げ、「クリーンエネルギー戦略」を2022年6月までの策定することを指示したのです。 

そして、有識者会議が数回開かれ、昨年5月に中間報告をまとめ上げました。細部は省略しますが、経済産業省から提示された中間整理の概要は次のとおりです。

「2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス排出量46%削減という2つの野心的な目標に向け、グリーン成長戦略、エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略を策定し、今後の進むべき方向性を示して来た。

クリーンエネルギー戦略においては、成長が期待される産業ごとの具体的な道筋、需要サイドのエネルギー転換、クリーンエネルギー中心の経済・ 社会、産業構造の転換、地域・くらしの脱炭素化に向けた政策対応などについて整理し、また、今回のロシアによるウクライナ侵略や電力需給ひっ迫も踏まえ、今後進めるエネルギー安全保障の確保と、それを前提とした脱炭素化に向 けた対応も整理する。

短期的な脱ロシアのトランジション、中長期的な脱炭素のトランジションに向け、『再エネ、原子力などエネルギー安保及び脱炭素効果の高い電源の最大限の活用』など、エネルギー安定供給確保に万全を期し、その上で脱炭素の取組を加速する。

主要な分野における脱炭素に関連する投資額を、それぞれ一定の仮定のもとで積み上げた場合、2050年カーボンニュートラルに向けた必要な投資額は、2030年単年で約17兆円、今後10年で約150兆円である」、などと明記されています。

この会議では、環境省、日本経団連、日本商工会議所、有識者の一部からも資料が提出され、経産・環境両大臣の発言に続き、経団連会頭、商工会議所会頭、有識者の発言、そして国土交通大臣、農林水産大臣、文部科学大臣、新しい資本主義担当大臣ら閣僚らが発言し、最後に岸田首相が次のように結びました。

「クリーンエネルギー中心の経済・社会、産業構造に転換し、気候変動問題に対応していくことは、これまでの資本主義の負の側面を克服していく、新しい資本主義の中核的課題です。あわせて、こうした取組みは、投資拡大を通じた経済の成長を実現し、国民生活に裨益(ひえき)するものです。
 

さらに、ロシアによるウクライナ侵略により、エネルギー安全保障をめぐる環境は一変しました。産業革命以来の長期的な化石燃料中心社会から、炭素中立型社会へ転換するため、少なくとも今後10年間で、官民協調で150兆円超の脱炭素分野での新たな関連投資を実現してまいります。
 

『官も民も』の発想で、今後10年超を見通して、脱炭素に向けた野心的な投資を前倒しで大胆に行っていくため、政府は、まず、規制・市場設計・政府支援・金融枠組み・インフラ整備などを包括的に、GX(グリーントランスフォーメーション)投資のための10年ロードマップとして示してまいります。……こうした新たな政策イニシアティブの具体化に向けて、本年夏に官邸に新たにGX実行会議を設置し、更に議論を深め、速やかに結論を得ていく考えです」。

「一石三鳥」を狙ったGXなる言葉が生まれた瞬間でした。

▼GX戦略(岸田政権時代の後段)

この首相指示に基づき、昨年7月に立ち上がったのが「GX実行会議」でした。設立の目的は「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー 中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーントランスフォーメーション)を実行するべく、必要な施策を検討するため」となっています。

議長が内閣総理大臣、副議長がGX実行推進担当大臣(経産大臣)と官房長官で、会議メンバーは外務・財務・環境大臣と13名の有識者からなっていました。会議は、昨年12月まで5回にわたって開催され、12月には、「GX実現に向けた基本方針」が提示されました。

基本方針は、我が国のこれまでの取組みやウクライナ侵略を契機としたEUや米国などの主要国の脱炭素社会への取組みの紹介の後、次のように続きます。

「周囲を海で囲まれ、すぐに使える資源に乏しい我が国では、脱炭素関連技術に関する研究開発が従来から盛んであり、日本企業が技術的な強みを保有する分野も多い。こうした技術分野を最大限活用し、GXを加速させることは、エネルギーの安定供給につながるとともに、我が国経済を再び成長軌道へと戻す起爆剤としての可能性も秘めている。 民間部門に蓄積された英知を活用し、世界各国のカーボンニュートラル実現に貢献するとともに、脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し、日本の産業競争力を再び強化することを通じて、経済成長を実現していく必要がある。

GX の実現を通して、2030 年度の温室効果ガス 46%削減や 2050年のカーボンニュートラルの国際公約の達成を目指すとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換の実現、さらには、我が国の産業構造・社会構造を変革し、 将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現すべく、GX 実行会議における議論の成果を踏まえ、今後 10 年を見据えた取組みの方針を取りまとめる」からはじまり、具体的な取組みを提示しています。

ここまで来ると、我が国は、しばらくの間、この基本方針に基づいて「一石三鳥」を狙ったGXに取組むことになり、その歩みは“不可逆”なものになるでしょう。さっそく、来年度予算では、GX支援関連予算として4896億円が計上されたことに加え、「GX経済移行債」(仮称)を発行するようです。その額は、5年度分として今年度先行実施分の補正予算と合わせて約1・6兆円、14年度までの10年間で20兆円規模の予算を投入し、官民で150兆円超が必要とされるGX関連投資の“呼び水”とするのだそうです。

▼エネルギー政策に関連する我が国の環境

我が国は、脱炭素やエネルギー政策にはついては、主要列国と違った環境下にあることは言うまでもありません。整理しておきますと、列国に比してプラスの部分は、まずGDP第3位(4位に陥落するようですが)にもかかわらず、人為CO2は約3%しか排出していないこと、第2に、石油ショックを契機に長い省エネの歴史があること、第3に、質素・勤勉といった国民性などがあげられるでしょう。

そして、マイナスの部分としては、まず第1には、化石燃料など資源エネルギー自給率が12%しかないこと、第2には、東日本大震災の結果、原発活用については多くの国民に今なおアレルギーがあること、第3に、国土の狭さに加え、台風や四季の存在など、再生エネルギーの活用にも限界があること、第4に、少子高齢化や過疎化が進展していること、などをあげる必要があるでしょう。

これらの我が国の特性などをすべて考慮した上で、GXの基本計画は策定されたと信じたいですが、単に列国の政策を後追いするのではなく、特にエネルギーの確保については我が国の未来がかかっているだけに、我が国独自のエネルギー政策を推進すべきでは、とどうしても考えてしまいます。

懸念されることは、これほど巨額の投資をしても、その結果が出る頃には、本実行会議に参画した人たちのほとんどが存在しないか、立場を異にしていることです。成功しても、逆に失敗しても、責任の取り様がないのです。いやそれよりも、我が国の脱炭素政策が地球温暖化防止にいくらか貢献したとしても、その成果を検証(測定)することは不可能ですので、いかなる結果になろうとも責任を追及されることはないと言った方が的確かも知れません。

気候変動のせいで干ばつの危機に見舞われていると話題になっていたアフガニスタンが今度は大寒波に襲われ、すでに100以上の死亡者を出していることがニュースになっています。某テレビ局で、地球温暖化論者が「この寒さは、地球温暖化が進んだための過度期のものだ。温暖化が進んだため寒くなるところもある」旨の発言をしていましたが、「温暖化が進むと寒くなる」と、大寒波まですべて地球温暖化のせいにして、何としても人為的CO2の削減に結び付けたいとの思惑、こちらも不可逆なようです。 

それらはさておき、次回以降、我が国のGXの主要な具体的な取組みを紹介しつつ、素人ならではの「気づき」(評価などの大それたことはできませんので)に触れてみましょう。(つづく)

 

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)