我が国の未来を見通す

メルマガ軍事情報の連載「我が国の未来を見通す」の記事アーカイブです。著者は、元陸将・元東北方面総監の宗像久男さん。我が国の現状や未来について、 これから先、数十年数百年にわたって我が国に立ちふさがるであろう3つの大きな課題を今から認識し、 考え、後輩たちに残す負債を少しでも小さくするよう考えてゆきます。

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我が国の未来を見通す(29)「農業・食料問題」(11)「農業の企業化・大規模化」の推進(その2)

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我が国の未来を見通す(29)「農業・食料問題」(11)「農業の企業化・大規模化」の推進(その2)

□はじめに

 ひさしぶりに「ウクライナ戦争」以外の話題を取り上げます。なかなかご紹介しにくい内容であるのですが、本サイトのオーナーのエンリケ氏によるメルマガ冒頭の紹介は、とても的を射た内容でいつも感銘を受けております。

元自衛官の身で、農業に関しては全く門外漢の私が、本シリーズで「農業・食料問題」を取り上げようと考えた理由は、この分野にも「国防問題」と共通した“背景”があることに危機感を感じたからでした。

その“背景”とは、まさに前回、エンリケ氏が「本連載は、読者一人一人の知識と見識向上に資する内容なので、せめて、主権者として政治に提言できるレベルになってください。そうしないと政治は『国民の無関心』を言い訳に無能無策無為を続けることでしょう」との紹介そのものを指しています。

 前メルマガ『我が国の歴史を繰り返す』の中で、我が国の「現状」について、私は“出所を失念してしまった”と断った上で、(1)政局と選挙しか考えない政治家、(2)保身と省益しか考えない官僚、(3)視聴率と特ダネしか考えないマスコミ、(4)目立つことしか考えない言論人、⑤権利のみ主張し、義務を果たさない国民、⑥3メートル以内しか関心がない若者、を紹介して「戦後の日本はなぜこうなってしまったのだろうか」との私なり疑問を紹介しました。

 実は、国防問題や自衛隊については、戦前の歴史の反動(?)や憲法との関連もあっていつも衆目にさらされ、事あるごとにニュースになってきました。その結果、良くも悪くも多くの国民の耳目に触れ、それなりの関心を持っている人たちも少なくないと考えます。

 しかし農業問題などはどうでしょうか。私自身は、「農業・食料問題」をどの辺まで“深掘り”できるか、毎回悩みながら原稿をしたためていますが、門外漢が入り込むには、あまりに複雑怪奇、魑魅魍魎な場面にしばしば出くわし、この問題を一部の政治家や官僚や専門家に任せて、長い間、国民が関心を持たないまま放置し過ぎたという印象をぬぐい切れません。

 もちろん、これまでの農政を全否定する気は毛頭ありませんが、上記の「現状」で言えば、(3)や(4)が関心を持たないうえ、⑤や⑥が気づかないことをいいことに、(1)と(2)が主導して今日に至っているとどうしても思ってしまうのです。

「農業・食料問題」は、国民ひとり一人の日々の暮らしに直結するだけに、極めてデリケートで、かつ緊急性を要する一面があるので、エンリケ氏が指摘されるように、国民が等しく知識や見識を持って政治に提言できるぐらいのレベルになる必要性は、国防問題の比ではないのです。

 つまり、「農業・食料問題」、あるいはすでに取り上げた「少子・高齢化問題」などに対する国民の関心や理解こそが戦後の日本人が本来持つべき“国民性”を取り戻す「1丁目1番地」であり、スタートであると考えます。何と言っても、我が国は「国民主権」の国です。国民の総意が「国柄」を決めるので、一人ひとりの国民が賢くならなければならないのです。

選挙の季節が近づいてきました。前回紹介しましたように、国際社会では食糧問題が喫緊の課題として急浮上していますが、我が国においては、「農業・食料問題」が焦点になることはないような雰囲気です。その意味では「歴史は繰り返す」のでしょうか。

本メルマガは、国民の死活問題であるこの種問題を早く国民の側に戻したいとの一心でもう少し続けるつもりです。素人なるがゆえの誤解や偏見があるとは思いますが、一方で「そのレベルの理解が限界」ということについても読者の皆様におわかりいただきたいと願っています。この続きは、本メルマガの最後にまとめましょう。

▼「構造改革」の現状

 さて前回の続きです。これまで、企業が法人として農業に参入するためには、さまざまな方法があるということを取り上げてきましたが、依然、農地を所有するためには「議決権の過半を農業関係者が持たなければならない」とする「農地法」の規制が農業の「構造改革」を妨げ、農業の成長を妨げているという声があります。

 また、農地を所有した企業が数年間、農業経営を行なった後、赤字に転落して農業から撤退、所有農地を宅地に転売するというような“悪徳企業”も後を絶たないとの声もあります。

 一方、これまで述べてきたような農業政策の効果が最近急速に出始めたことも事実で、農業の「構造改革」がかなり順調に進展しているというデータがあります。過去15年間を振り返れば、大企業などが相次いで農業経営に参加したこともあって、“農家数はすでに半減”している一方で、売上1億円以上の農家(企業を含む)が増えているようです。

 データを子細にみますと、生産物によっても差異があります。米農家の減少率は49.5%、約半減ですが、売上1億円以上の農家は、2005年の691人から2020年には1290人とほぼ倍増しています。同様に、野菜農家の減少率は45.3%、売上1億円以上の農家は、665人から1511人とやはり増加傾向にあります。この分野には、「カゴメ」や「エア・ウオーター」など食品メーカが算入していますが、まだ売上が100億円を超えるような事業規模はほとんど見当たらないといわれます。

これに対して、牛肉生産農家の減少率は50.9%、1億円以上の売上は1381人から2300人、同様に、酪農家は50.3%減少、714人から1859人へそれぞれほぼ倍増しています。これらの分野の売上は、「カミチクグループ」324億円、「ノベルズグループ」312億円、「瑞穂農場」282億円などのいわゆる“豪農”がすでに出現しています。

豚肉生産農家は、58.7%の減少率、1億円以上の売上は925人から991人とほぼ横ばいですが、3億円以上の売上が約4割を占めています。養鶏農家は、55.7%の減少率、1億円以上の売上が729人から634人と減少していますが、3億円以上の売上が約5割、5億円以上の売上が約3割を数えています。これらの分野の売上は、三菱商事子会社の「ジャパンファーム」521億円、ニッポンハム子会社「インターファーム」249億円、「林牧場」113億円などの“豪農”がけん引しています。

 農業従事者の高齢化とともに、「大離農時代」といわれる反面、現在のようなピンチをチャンスに変える「経営力」があれば、「儲かる農業」に脱皮することは不可能ではないということをデータは示しています。

 「農業の魅力化」を実現する1つ目の“鍵”は、さまざまな課題を解決する必要はありますが、「農業の企業化」にあることは間違いなさそうです。

▼「農業の大規模化」のためのシステム

 「農業の企業家」と「農業の大規模化」がほぼ連動していることは明白で、そのため、農地の集約化や大区画化が必要なことはいうまでもありません。これまで、農地の所有者の一部が先祖代々の農地を手放すことにつながる集約化に反対し続けて大規模化が実現せず、農業の発展そのものを阻害する要因になっている例は数多いのでしょう。その証拠に、「農業従事者の高齢化や離農者の増加は大規模化のチャンス」との声も聞こえてきます。複雑な思いに駆られますが、それが現実なのだと思います。

 これらを解決するために、農水省は、インターネット上で全国の農地情報をまとめて公表する「全国農地ナビ」を開設しているとともに、各都道府県は、「農地中間管理機構」を第3セクターにより運営しています。

「農地中間管理機構」とは、「農用地等を貸したいという農家(出し手)から、農用地等の有効利用や農業経営の効率化を進める担い手(受け手)へ農用地利用の集積・集約化を進めるため、農用地等の中間的受け皿となる組織」で「農業集積バンク」ともいわれています。

 その手順は、(1)リタイヤする農業者の農地や分散・錯綜している農地を中間管理機構が借り受け、(2)必要な場合は、基盤整備等を実施し、担い手がまとまりのある形で農地を利用できるよう配慮し、貸付け、(3)必要な場合は、新規就農希望者への研修を実施し、(4)業務の一部を市町村・JA等に委託し、関係者の総力で農地集積・集約を推進する、となっています。

本機構はまた、荒廃農地を借り入れ、農地への再生を行ない、担い手への農地の集積・集約化を促すなど、荒廃農地の解消にも寄与しています。

これらによって、「農地を貸したい」「農地を売りたい」と考えている人たちと「農地の借りたい」「農地を取得したい」とか考えている人のマッチングが図れるばかりか、農地の集積・集約化がさらに進展することが期待されています。

当然ながら、すでに触れましたように、公共事業として「ほ場(田や畑など農地)整備事業」による大区画化、基盤整備事業による排水対策等の農地整備などを同時並行して推進する必要があります。

「農業の企業化・大規模化」には、現在の農業が置かれている情勢や将来のすう勢を至当に見積もり、かつ危機意識を共有した上で、参入企業、農地保有者、農業従事者、それに国や地方自治体が創意をこらして“知恵を絞る余地”がまだまだあるような気がします。

▼「農業の大規模化」の現状

 「農業の大規模化」の現状をチェックしてみますと、売上高100億円を越えるような大農家の条件が必ずしも「経営面積の大規模化」にあるというわけではないですが、田畑で作物を栽培するような農家(「耕種農家」と呼ばれます)が「収益性」「成長性」「事業の継続性」等を担保するためにはどうしてもある程度の経営面積が必要なことは論を俟たないでしょう。

 農林省は、「大規模化」を行なうと、効率的に農機具が使え、費用が割安になる、また、区画整備された水田は水はけが良く、畑としても利用できるので野菜などの価格の高い作物を取り入れることで、農家の所得が増えることが期待できると解説しています。

 なお、全国の水田の区画整備の状況は、2019年時点において、30a(アール)以上の区画に整備されたものは全体の66%、50a以上の大区画は全体の11%に留まっています。ちなみに1ha=100aですので、我が国の水田面積は、北海道などを除けば、区画整理後であってもおおむね30a~50a(3反~5反)ほどであることを付記しておきましょう。

 農業経営体が所有する農地面積をみますと、耕種農家の例では、岩手県に所在して大豆や小麦などを生産している「西部開発農産」は860ha(約866町歩)、北海道富良野市で生乳の出荷や飼育用子牛の生産している「藤井牧場」は450ha、三重県明和町で米や小麦を生産している「小林農産」は340ha、新潟県上越市で米や飼料用米を生産している「田中ファーム」は220haとそれぞれ広大な農地を活用しています。

耕種農家以外では、群馬県前橋市に所在し、トップクラスの113億円を売り上げる肉豚農家「ファロスファーム」は100ha、同じく79億円を売り上げる大阪府所在の「ファロスファーム」も100ha、群馬県昭和村で野菜や加工品などを生産する「グリンリーフ」は70haなど、合理的な生産を実現することによって、経営面積にかかわらず高い売上高を誇る農家も数多いこともわかります。

同様に、中小規模農家であっても、利益率の高い農業経営を実施している経営体もあります。たとえば、鳥取県倉吉市で0.5haの経営面積で花壇苗や多肉植物を生産している「ハニーミントファーム」は1haあたり2億円、新潟県妙高市で大葉やハーブを生産している「妙高ガーデン」は1haあたり0.95億円、山形県鶴岡市で0.3haの経営面積でベビーリーフやミニトマトを生産している「YAMAGATA DESIGN AGRI(YDA)」は1haあたり0.8億円の売上をそれぞれ上げていることから、「大規模化」に頼らなくとも魅力ある農業経営は可能と言えるのです。

なかでも、YDAは、非農家出身の経営者が「地方の課題を丸ごと解決したい」として、「農業と観光といった地域資源をフル活用して“街づくり”を行なう」とのコンセプトを採用して成功しているようです。

その親会社は、市内でホテルを経営し、YDAはとホテルに有機野菜を供給していますが、それにとどまらず、環境負荷の低い農業に取り組み、「ショウナイルーツ」という地域ブランドで販売しています。有機野菜などについてはのちほど取り上げますが、YDAの社員の平均年齢は30歳前半ということで、資本と若者を引き寄せる農業の新時代の先駆けとなっていることは間違いありません。

これらの例は探せば全国にかなりあるのでしょうから、さまざまな創意工夫を凝らせば、地域の特性や地域資源をフル活用しつつ、消費者のニーズに合致する農業生産物をその特性に合わせて生産面積を確保して生産・販売することによって「儲かる農業」へ脱皮する道が開かれている証明でもあります。まだまだ期待が持てるといえるでしょう。

次回以降、「農業の魅力化」の第2の“切り口”である「農業のスマート化」を取り上げます。

(つづく)

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)

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著者

宗像久男

1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)